花言葉
会ってみる?って聞くなんて。俺が。
自分でも信じられない。
──勇気を出して良かった。
ナイス俺。
「うん、会いたい!いつ頃が都合いい?」
喜んで……くれてるよな。
すぐに返事をくれたことが、何よりも心を浮つかせた。
候補に入れて欲しいというところはスルーされちゃったけど……まぁいいか。
会ってくれるってことは、引かれてはないってことだよね?
普段の俺からは考えられないくらいに、積極的だったな。
大丈夫、これで良かったと何度も自分に言い聞かせる。
本当に会える、のかな。
なんだか実感がわかない。
恋愛ドラマもやったことあるけど、自分にもこんな物語みたいな出会いがあるなんて。
俺の中でミオはもう“ファン”としてだけじゃなくて、一人の“人”として見てしまってるから。
俺のファンのミオも、メッセージでやり取りしてるミオも、どっちも同じミオ。
別にそれでもいいじゃんって思っちゃう。
……なんか今の言い方ミオみたい。
移っちゃったかな、そんなことさえ嬉しくなる。
会うってことは、ミオに俺の正体がバレるってことなんだよね。
Famousのジンだって、ずっと応援してきたジンだってこと。
“アイドルとファン”とか関係ない。
正直、今まではそうは思ってなかった。
ファンはファンとして大切にしないといけないって思ってたから。
でも同じ人間同士なんだから、関係性なんて後から付いてくるもの。
今はそうだと思ってる。
アイドルもファンもそういう“人種”ではあるけど、それでも、みんなと同じ。
感情が抑えきれないときもあったりする。
出会い方がこうだっただけ。
もし、俺もミオも、お互い今とは違うところにいても、いずれどこかで出会ってたんじゃないかな。
そんな運命論みたいなこと信じちゃうくらいには、ミオのこと想ってるみたい。
……恥ずかしいけど。
でも、ミオは違ったらどうしよう。
ジンさんにもジンくんにも騙されたって思ったらどうしよう。
喜んでくれるかな。
戸惑うのかな。
──嫌われたりしないかな。
でもきっと、ミオなら笑顔を見せてくれるやろな。
なんだかミオのことになると、前向きに考えてしまうところがある。
きっとミオが俺のこと好きだって分かってるから、安心してるのかも。
これはずるいよな。
ミオに会うまでは、周りには絶対気づかれないようにしないと。
「今月末はどうかな?」
ミオと会う約束ができた。
「ねぇ、ジンさん見て!お花!」
ミオはよく花の写真を撮って送ってくる。
「綺麗だね。なんて名前かな?」
「知らないー!笑 でも綺麗でしょ?
お花は詳しくないけど、好きなんだ。
名前も分からないのに、可愛いなぁとか綺麗だねぇってなるの、すごくない?」
俺だったらすぐ、なんて名前なのか、どういう由来なのか、理由を探したくなる。
でもミオは、理由なんてなくて、ただ好きなんだ。
そんな“好き”がまぶしく思えた。
ドラマ撮影の合間、本当なら少し寝たかったのに、花の名前を真剣に調べる。
サルスベリかぁ。
雄弁、愛嬌、あなたを信じる……。
ミオみたいだな。
知らないはずなのに、これを俺にくれるミオが、なんだかたまらなかった。
送られてきた写真を見返しながら、花びら一枚一枚をよく観察した。
同じ花を見つけたら、ミオに送ってあげよう。
「この花は、サルスベリ、別名百日紅だって。ミオちゃんみたいな花だったよ。」
なんて、くさいこと言っちゃってる。
それでも、ミオには言いたくなるんだ。
「わたしみたいなの?そうなの?やったぁ!」
理由も聞いてこない。
そこが可愛いんだ。
そういえば、あの日、あのライブのときに、ミオがいる場所に、ヒマワリが咲いてるように見えたんだ。
気になって、そのまま“ヒマワリ 花言葉”と検索してみる。
明るさ、元気、まさにミオだな。
サルスベリもヒマワリも、全然違う花に見えるのに、どちらを見ても、もうミオにしか見えないだろうな。
あとは……
その後に続く花言葉が目に映った瞬間に、頭のてっぺんからゾワッと鳥肌がたった。
嫌なやつじゃない。
何かがピーンと繋がったような気がした。
俺はずっとファンのことは俺が幸せにしてあげないといけないって思ってた。
「私は“良い人でいたい”と願えるようになったのは、ジンくんを好きになれたからです。」
ミオからもらったあの手紙。
俺に何かを求めるでもなく、自分で自分を変えようとする強さ。
俺がいることで良い人になりたいと願ってくれる想い。
そんなミオだから、「いつも味方だよ」という言葉が、本当に自分を見てくれているような気がした。
全部見透かされているような、そんな気さえする。
でも正直、それ以上はうまく言葉にできない。
素敵だな、可愛いなと思うところはたくさんある。
でもミオだけが特別なのは
──何かに引き寄せられたような、そんな感覚。
きっと誰にも分からへんやろうけど。
これが、理由のない“好き”なのか。
「またお花の指輪買っちゃった!可愛いでしょ?」
薄いブルーの指輪。
ミオはアクセサリーもお花ばっかり。
さらに、俺のメンバーカラー。
好きが一貫しててすごいな。
「可愛いね。ミオちゃんの指によく似合ってるよ。青色かな?」
「そうなの。ジンくんカラーだからだよ!」
そうだろうと思って聞いたんだ。
今日は空き時間が長い。
ミオとやり取りしてたら眠気も覚めたから、ちょっと買い物に出た。
キャップを深く被って、いつもの百貨店に足早に入る。
エスカレーターを上がりながら、いつもは寄らない階にふと、足を止めてみた。
女性物のフロア。
アクセサリーは女性物のもつけるけど、わざわざ見に行くことはないからな。
新鮮な気持ちで、キョロキョロと歩いた。
あ、あの花、さっきミオが送ってきたやつと同じやつだ。
入ったこともない、カジュアルなブランドのアクセサリーの棚を覗いてみる。
自分を磨くことも仕事の一つだと思ってるから、身につけるものはなるべく高価なものにしてる。
値段に価値があるとは思ってないけど。
自分をそれなりに飾ることも大事だって、事務所からも教えられたしね。
そう思うと、普段なら絶対手に取らない価格のアクセサリー。
俺っぽくもない。
でも、なぜか買ってしまった。
ミオの指輪と同じモチーフのピアス。
この後の収録で着けようかな。
誰にも知られたくないのに、みんなに見せたかった。
ミオに気づかれたくないのに、ミオと同じが良かった。
何を言ってるか自分でも分かんないけど。
そのまま、別の階を覗いてみる。
よく来るハイジュエリーのあるフロア。
いつも入る店を通り越し、あまり行かないブランドに入る。
ここには花のモチーフがあった気がする。
「ジンさん、お久しぶりですね。」
昔、アクセサリーを買ったときに担当してくれたスタッフさんがいた。
「どうも。ちょっと見てっていいですか?」
「もちろんです。」
奥のソファに案内される。
別に今すぐ買おうと思ってたわけじゃないんだけどな。
お茶を出されて、ちょっと気まずい。
「何かお探しですか?」
そう言われて、すぐに思い浮かんだ。
ミオにあげるなら、ブレスレットかな。
「ブレスレットありますか?あの、花のやつ……」
「はい、何点かお出ししますね。」
ミオにあげるわけやないのに、見てどうすんねん。
まさか口に出せるわけもなく、心のなかでツッコむ。
「おまたせいたしました。」
綺麗に並べられた三つのブレスレット。
その中の、一つにすぐに目がいく。
この、ゴールドのブレスレット、ミオっぽいなぁ。
ミオの顔を知らないのに、すぐにそう思った。
「こちらのゴールドですか?」
俺の視線に気づいて、すぐさま手袋をした手で丁寧にブレスレットを持ち上げてくれる。
「あ、いや……」
さすがにちょっと女性っぽすぎるな。
いつかミオにプレゼントするかもしれないし。
……って先走り過ぎや。落ち着け。
「あ、それホワイトゴールドですか?」
「はい、こちらはホワイトゴールドとオニキスとダイヤモンドを使っておりまして、男性でも使いやすいと思います。つけてみますか?」
隣りにあったブレスレットを手につける。
これなら、自然に馴染むかも。
「じゃあこれを。」
さすがに、何百万もするアクセサリーを即決することは滅多にない。
でも、今日はなぜか欲しかったんだ。
花のモチーフ。
ただそれだけの繋がりが。
TV局に戻り、楽屋に入ると、よく担当してくれる男性のスタイリストさんが既に来ていた。
「ジンお出かけしてたの?」
「うん、ちょっと買い物にね。」
紙袋から箱を取り出し、ブレスレットを出した。
「あれ?珍しいね、そこのブランド。今日用意した衣装に合いそうだけどつける?」
準備してくれてる衣装はちょうどモノトーンで、ブレスレットをしても違和感ない。
「しようかな、いい?」
「いいよ、ちょっと中性的でジンに合ってるね。」
衣装に着替えて、ブレスレットをして鏡の前に立つ。
うん、悪くないね。
ピアスは、どうしようかなぁ。
迷いながら、小さな紙袋からピアスを取り出した。
「それも買ったの?そのブランドも見たりするんだ。今日は珍しいものばっかり買ってるね。しかもどっちも花か。」
「なんとなく、気まぐれだよ。これはさすがにしたら変かな?」
「アクセントにはなると思うけど。ジンにしてはちょっと可愛らしいかもね。でも、してもいいよ?どうする?」
ピアスをつけて鏡を見る。
何かの糸が、ミオに向かって走ったいったような気がした。
「ほんとはヒマワリが良かったな。」
ぼそっとつぶやいた。
「ん?ジンなにか言った?」
「ううん。なんも。ピアスはやめとこっかな。」
でも、まだこの糸は知られちゃダメだ。
ねぇミオ知ってる?
ヒマワリの花言葉は
──あなただけを見つめる
──あなたを幸せにします
ミオは分かってて、あの日、あの場所に立っててくれたのかな。
あの日のあたたかさを、俺はまだ求めてるみたいだ。




