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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

深夜の廃病院

作者: 五線紙太郎


とある町の外れに、廃病院と呼ばれる場所があった。建物はもう何年も使われておらず、窓ガラスは割れ、鉄錆びた扉が無機質に口を閉ざしている。町の人々はそこに近づこうとせず、子どもたちには「絶対に行くな」と言い聞かせていた。


しかし、興味を持たない者などいない。特に肝試しや冒険心に燃える若者たちには、廃病院は魅惑的な場所だった。


大学生の翔太とその友人たち、麻衣、亮、そして悠は、ある夜、この廃病院を訪れることにした。深夜2時に病院の前で集合する計画を立て、それぞれ懐中電灯やスマートフォンを準備していた。


「ほんとに行くのか?」亮が言った。彼は最も怖がりで、そわそわと落ち着かない様子だった。

「行くに決まってるでしょ。これ以上面白い肝試しはないって!」麻衣は笑顔で答えたが、その目には少しの不安も隠れていた。


翔太がリーダーシップを取り、錆びた正門を押し開けた。耳障りな金属音が夜の静けさを破る。その音は、まるで病院そのものが侵入者を拒んでいるかのようだった。


廃病院の中は薄暗く、天井から垂れ下がる電線や、散乱した古い医療器具が不気味さを増していた。壁には「帰れ」と赤い文字で書かれており、それが血で書かれたものかどうか、誰も確かめようとはしなかった。


「これ、ヤバくない?」悠が震える声で言った。彼も怖がりだったが、それを隠すために無理に平静を装っていた。

「ただのイタズラだろ。」翔太は懐中電灯を壁に向けたまま、先を進む。


【消えた足音】


廃病院の奥に進むにつれ、奇妙な現象が起こり始めた。


最初に気づいたのは麻衣だった。彼女はふと立ち止まり、背後を振り返った。

「ちょっと、誰か後ろにいる…」


翔太たちは足を止め、後ろを見たが、そこには誰もいない。ただの廊下が暗闇に続いているだけだった。

「気のせいだろう。」翔太は笑いながら言ったが、彼の声にはどこか不安が混じっていた。


さらに進むと、病院の奥から微かな足音が聞こえ始めた。カツン、カツンと規則的に響くその音は、まるで誰かがこちらに向かって歩いてくるようだった。


「おい、足音聞こえるか?」亮が小声で言う。

「聞こえるけど…おかしい。俺たちの足音と合わない。」悠が言った。


翔太たちは足を止めた。しかし、足音は止まらなかった。それどころか、さらに近づいてくるように感じられた。


「誰か、いるのか?」翔太が声を上げたが、応答はない。足音は徐々に大きくなり、ついには彼らのすぐそばで止まった。


しかし、そこには誰もいなかった。


「ヤバい、出よう。」亮が言った。彼の顔は青ざめていたが、翔太は首を振った。

「まだだ。このままじゃ肝試しにならないだろ?」


【異形のもの】


彼らが次に訪れたのは手術室だった。錆びついた手術台と散乱した医療器具が、かつての病院の機能を思わせる。だが、その空間には何か異質なものが漂っていた。


麻衣が手術台に近づこうとした瞬間、何かが彼女の足を掴んだ。彼女は悲鳴を上げ、翔太たちが駆け寄ると、そこには何もなかった。


「い、今、誰かが…!」麻衣は恐怖で震えていたが、翔太たちは彼女を落ち着かせようとした。


その時、手術台の向こう側から奇妙な音が聞こえてきた。ザリ、ザリと何かが這いずる音。翔太が懐中電灯を向けると、そこには人のようで人でないものがいた。


その姿は、まるで人間の体が異常にねじ曲げられたかのようだった。四肢は異常に細く、顔には目がなく、口だけが異様に広がっていた。


その生き物はゆっくりと近づいてくる。


「逃げろ!」翔太が叫ぶと同時に、全員が一斉に廊下を駆け出した。


【終わらない恐怖】


しかし、廃病院は彼らを逃がそうとはしなかった。廊下は何度も同じ場所に続き、出口にたどり着くことができない。後ろからは再び足音が近づき、時折、囁き声が耳元で聞こえた。


「ここは…出られない…」麻衣が涙を流しながら呟いた。


ついに彼らは病院の中央にあるホールにたどり着いた。そこには大きな鏡があり、鏡の中には彼らの姿が映っていた。しかし、その鏡に映る姿は現実と微妙に異なっていた。


鏡の中の麻衣は、首が不自然に傾き、亮は目がない。悠は笑っているが、その口は耳まで裂けていた。そして翔太の姿はそこにはなかった。


鏡を見た瞬間、麻衣たちは次々とその場に崩れ落ちた。翔太だけが何とか立ち上がり、もう一度出口を目指して走り出した。


【一人ぼっちの病院】


翔太は気がつくと、病院の外に出ていた。だが、振り返ると病院はそこにはなかった。代わりに、ただの空き地が広がっているだけだった。


彼は慌ててスマートフォンを取り出し、友人たちに連絡を取ろうとしたが、誰の番号も繋がらない。


町に戻り、警察に事情を話すが、そんな廃病院は存在しないと言われる。友人たちも、そんな人間は最初からいなかったと告げられる。


孤独と恐怖に囚われた翔太は、それからも何度も廃病院を探し続けた。しかし、その病院が再び現れることはなかった。


ある夜、翔太の部屋の中で微かな足音が響いた。


それは、かつて廃病院で聞いた、あの足音だった。



(完)

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