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2.この魂だけは背負い続ける

 鳥のさえずりが耳朶を打つ。


「痛い……」


 寝ている体を揺すると、耳元の鳥がバサバサと羽ばたく音が聞こえた。

 段々と意識が覚醒していくのを感じる。


「ぶぁあ……よぐねだぁ」


 自分の口から発せられたとは思えない程に、枯れた声。

 ついでになんだか身体中が痛む。まるで床で寝た時のような痛みだ。

 体をなんとか起こして目を開けた。ぼやけていた視界が鮮明になるとそこは、森の中だった。


「あ、ぞうが」


 理解の早い私はすぐに現状を把握した。

 昨日は非情な世界に絶望して泣き疲れ、そのまま寝てしまったのだ。


 身震いが止まらない。


 その理由は朝の肌寒さか、それとも魔物のいる森で不用意に寝ていた自分の馬鹿さ加減か……神のみぞ知るところである。


 過去の馬鹿な自分のことは忘れて今の自分について考えるとしよう。うん、そうしよう。


 一晩寝たことでだいぶ思考がクリアになった。客観視すると、昨日の自分はどこかおかしかった。使えない魔法に固執して……まったくどうかしていたよ。


 さて、まずは森を抜けて人の街をめざそう。


「ど、ぞの前に」


 私はアイテムボックスを発動させた。手元に動物の皮か何かで出来た水を入れる袋と硬くて不味そうなパンを取り出す。

 水を少し飲んであとは全てアイテムボックスに収納した。腹ごしらえ完了である。


 森の中を直感を信じて適当に歩く。

 歩き始めてすぐに、ワンピースで脚をさらして森を行くのは間違いだと気付かされた。呑気なことに足元はサンダルである。

 可愛いからこれにしよーとか考えていた自分を腹パンしたい気持ちでいっぱいになる。傷の増えた足に、涙がにじんだ。


 オシャレは我慢だとよく耳にするけれど、私レベルになると何を着ても似合うので着替えることにした。


 そしてまた森を行く。

 そこで新たな問題が生じた。

 歩く度に二本のロングソードが、体力を奪っていくのが分かる。私の体格に不釣り合いなその剣。けれど私は、決して背負うことを止めなかった。


 何の事情も知らない人が見れば、滑稽に思えるだろう。指をさして嘲笑さえ向けられるかもしれない。でも、それでも構わない。これは私のポリシーだ。魂と言い換えてもいい。


 私は剣に生き、剣に死する。


 そう誓ったのだ。何も魔法がアイテムボックス以外に使えないと悟ったからではない。私はこの剣を握ったあの日から……いやまだ握ったことはないけれど。でもそう、あの日から私は剣の道をゆくと決めたのだ。


「あっ、道だ」


 剣の道をゆくと決めた途端に道が見えた。

 これは絶対偶然ではない。導きだ。


 これまで歩んでいた、けもの道まがいのものではない。人が踏みならした道が見えた。馬車か何かの轍も見てとれる。

 私は迷わずその道を進んだ。


 道を歩いてしばらく経つと森を抜け、草原の広がる場所に出た。そして街道と思しき大きめの道が目に入る。いずれ街にたどり着けるであろうと確信する。


 そこで何となく後ろを振り返って、森の方に目を向けた。どうやら私の転生した場所は、山からふもとにかけて広がる森だったらしい。私は山ガールと森ガール、その両方を兼ねる存在だったのだ。


 ちょっと自分でも、なに言ってんのか分かんなくなってきた。

 長時間にわたる歩きでの移動は、転生したこの身体はともかく、引きこもりだった私の心の方が疲れを感じているらしい。


「今日中には街に着けるといいなぁ」


 枯れた声も治り、声優も顔負けなキュートな声でそう呟く。そして私はその道に向かって進んだ。


 街道を歩き始めたあたりで、身体の方も疲れを訴えてきた。きっとロングソード(魂)のせいだ。


「そ、それでも私は……この魂だけは背負い続けると……手放さないと誓ったんだ」


 どこか遠くを見つめて独りごち、そこでにわかに異常を察知した。視覚ではない、聴覚が捉えた違和感。


「むむっ」


 それは道の先。少し丘になったその先から聞こえたものだった。耳をすませば、金属同士が打ち合うような音に怒号。悲鳴も微かに聞き取れた。


 これは――高貴な御方の馬車が、魔物や盗賊的な悪者に襲われているパターンだ!

 そこに颯爽と駆けつけて私TUEEEEからの結婚だ!


 ふふ、まさにテンプレ……!


 そう確信した私は、二本のロングソードをアイテムボックスに収納して、全力で駆け出した。

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