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22.また一難




「皆さん、本日は招待に応じてくださりありがとうございます!」


案内された席へと座ったリリアンは、ビビアンの挨拶を耳に入れながらも、既に帰りたいという衝動に駆られていた。

リリアンの席がよりによって、グレースの真向かいだったからだ。


「ハーシェル令嬢とこんな風にお話しするのは初めてですね」


話しかけてくれる他の令嬢たちへ「そうですね」と微笑みながらも、意識はグレースへと向かう。お茶会が始まってから、彼女はまだ誰とも会話していないようだった。


「ハーシェル令嬢、ずっと気になっていたのですが……」

「?はい」


シャーロットとのお茶会とはまた違う居心地の悪さを感じていると、リリアンの右隣に座っていた令嬢が戸惑いがちに声をかけてきた。どうしたのだろうと続きを待つ。


「ウィノスティン公爵様と恋人だという噂は本当でしょうか?」

「……!」


次の瞬間飛び出した内容に、リリアンはすぐに慌てた。

まさか今その話をするの……!?

グレースがこの場に居るにも関わらずだ。しかし他の令嬢も気になっていたのか止める人はおらず、皆がリリアンの返答を待っていた。


「……はい、お付き合いしています」

「きゃあ!あの噂は本当だったんですね!」

「まさか公爵様が誰かをお選びになる日がくるなんて」


驚愕と喚声が周囲を満たした。もちろん、グレースを除いて。視界に捉えた彼女は下を向いていて表情は分からない。


「それよりもこの紅茶がとても……」

「一体何がきっかけだったんですか?」

「告白はどちらから?」

「公爵様とのデートはどんな感じなんですか?」


クロードから話題を逸らそうとしてみたけれど、リリアンが言い終わる間もなく質問が押し寄せてきて目が回りそうになる。

噂を広めるのには最適な場だと分かっていても、クロードのことを好きな彼女の前でこういう話をするのはあまり気分がいいものではなかった。


「皆さん少し落ち着いてください!気になる気持ちも分かりますけど、そんな一気に聞いたらハーシェル令嬢が困っちゃいますよ〜」


悩んでいた所に、お茶会の主催でもあるビビアンが間に割って入ってきた。


「ハーシェル令嬢も答えたくなかったら無理しなくて大丈夫ですからね!」


そうビビアンは庇ってくれるけど、周囲から明らかな残念さが伝わってくる。もしリリアンがこのままその言葉に甘えれば、今度はビビアンの立場が悪くなるのではないだろうか。


「……その、私に答えられることでしたら大丈夫です」


だからリリアンは結局頷いてしまった。


「お二人は一体何がきっかけで知り合ったのですか?」

「夜会で……偶然知り合いました」

「告白はどちらからされたのですか?」

「く、クロード様からしていただきました」

「まあ、公爵様からですか!?」


許諾したリリアンへ、次々と質問が降りかかる。こういう時に答える設定を全く考えていなかったから、結局一部伏せながらも事実を話す。そのおかげか真実味が増したようだ。

令嬢たちも気になっていたことを聞けて、満足しているように見えた。その時だった。


ガタンッ!

何かが倒れる大きな音がした。

反射的に目を向けると、腕を震わせながらこちらを刺すような目つきで睨んでいるグレースが映る。立ち上がった彼女は、手元にあったカップを持ち上げた。


その動作がまるでスローモーションのようにハッキリと認識できるのに、リリアンの身体は動かなかった。


「ハーシェル令嬢!」


ただ、気がついたら頭からドレスまでびっしょりと濡れていた。

――リリアンを咄嗟に庇ったビビアンが。




ビビアンが紅茶を被ってしまったことで場が騒然として、お茶会はそのままお開きになった。


「ハーシェル令嬢?」

「私のせいでごめんなさい……!」


使用人に無理を言って待たせてもらったリリアンは、着替えて出てきたビビアンへ頭を下げる。目の前の彼女はぱちぱちと目を瞬かせた。


「ハーシェル令嬢のせいじゃないですから気にしなくていいんですよ!」

「でも……」

「これくらい私は全然大丈夫ですから。だから顔をあげてください」

「ありがとうございます、ペトロフ令嬢」


お礼を伝えれば、彼女はリリアンの手をぎゅっと握って笑う。


「そんな他人行儀じゃなくて、ビビアンでいいですよ!もうお友達じゃないですか」

「でしたら、私もリリアンで大丈夫です」

「いいんですか?」

「勿論です」

「それなら遠慮なくリリアンと……そういえば私たちって似てますね」


ビビアンがふと思い出したかのように呟く。明るく社交的で友達が多い彼女と、リリアンのどこが似ているのだろうと首を傾ければ、彼女は共通点をあげていく。


「同じ年で、同じ爵位で、名前が『ビビアン』と『リリアン』で。ほら、似ていると思いませんか?」


そう言われてみると近く感じる所もあり「確かに似てますね」と頷く。


「でしょう!せっかくなのでリリって呼んでもいいですか?」

「え?」

「私のことはビビって呼んでください!名前が似ているので、こうすれば分かりやすいじゃないですか。リリが嫌なら無理にとは言いませんけど」

「いいえ……!嬉しいです。これからはビビって呼ばせてもらいますね」


今までソフィア以外の友人がいなかったからどう反応すればいいのか分からなかっただけで、本当は嬉しかったのだ。だから「リリが嫌なら」という彼女の言葉をすぐに否定した。

リリアンに新しい友人ができた瞬間だった。




***




「リリアン!」

「クロード様……!?」


ペトロフ伯爵家の門前。家へと帰るために外に出たリリアンは、ここに居るはずのない人から突然強く抱き締められとても驚いた。


「どうしてここにクロード様が……」

「昨日手紙を出したのだが、読んでいないのか?昼間、会いに行ったらここに居ると言われてな。だから迎えに来た」


そういえば、昨日手紙が届いていたことをすっかり忘れていた。今朝もそれどころじゃなかったし。


「すみません、まだ読んでいなくて」

「予想はしていたからいい。それよりも怪我は?」

「怪我?」

「フルク令嬢からカップを投げられたと聞いたが」

「ええ!?」


知らないうちに事実が大きくなって伝わったらしい。「カップは投げられてないです!」と伝えればクロードは溜息を吐きながら「良かった」ともう一度リリアンを抱きしめた。


「……カップは、ということは他に何を投げられた?」

「あ、それは紅茶をかけられそうになって」

「何だと?」

「で、でも、私は大丈夫でした!ビビが庇ってくれたので」


そこまで言ってようやく思い出した。ビビアンもこの場にいるということを。

慌ててクロードから離れ、彼女の方を見ればビビアンは口元を抑えながらこちらを凝視していた。


「ビビこれはその……」

「もうっ、突然イチャイチャし始めたのでビックリしちゃいましたよ!」


イチャイチャ……!?ビビアンの言葉に顔が熱くなっていく。それを誤魔化すようにリリアンはクロードへ説明した。


「クロード様、私の友人のビビです。フルク令嬢に紅茶をかけられそうになったのを、彼女が庇ってくれたんです」

「ペトロフ伯爵の令嬢だな。ありがとうリリアンを守ってくれて」


リリアンの肩を抱きながら、クロードが真剣にお礼を伝える。ビビアンは首を振った。


「友達なんですから当然のことです。クロード様の話はリリからいっぱい聞いてますよ!……っ、すみません公爵様!リリがずっとクロード様と呼んでいたので、つい呼び名が移ってしまったみたいです」

「それくらい気にしなくていい。リリアンが俺の話をしていたというのは本当か?」

「本当ですよ!クロード様のことが大好きなのが伝わってきました」

「そ、そろそろ帰りましょう、クロード様。ビビ今日はありがとうございました!」

「こちらこそ楽しかったです。またお会いしましょう〜!」


リリアンまだ話の途中だと続きを聞こうとするクロードの腕を引っ張って、ビビアンへと手を振りながら馬車へと向かった。




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