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20.招待状




「お嬢様、お手紙が届いておりますよ」

「ありがとう」


クロードとの初デートを終えてから三日。平和な午後を過ごしていたリリアンは、サラの言葉に顔をあげた。

友達と呼べる相手がソフィアしか居ないリリアンは、当然彼女からだろうと考えながら手紙を受け取り――驚愕する。


「よ、四枚も……!?」


てっきり一枚だと思っていた手紙が、四枚も届いたからだ。一体誰がと、一枚ずつ内容を確認していく。


一枚目は予想通りソフィアからだった。ただ簡潔に『私に何か話すことがあるんじゃない?』と書かれていた。彼女が何を言いたいのかよく分かったけど一度閉じて、先に次の手紙を読むことにした。


二枚目はなんとお茶会の招待状だった。

相手はリリアンと同じ伯爵家の令嬢で、何度か挨拶したことがある。気さくで明るい人だったことを覚えている。しかし関係としては知り合い以上、友達未満くらいなのに、なぜリリアンを誘ってくれたのか分からなかった。


三枚目はクロードからで、次のデートに関することだった。数日前のことを思い出して顔が熱くなりかけたリリアンは、振り払うようにすぐ最後の手紙を開く。


リリアン・ハーシェル様と可愛らしい文字で綴られた文字を読んでいけば、それは二枚目同様お茶会の誘いだった。

しかし、手紙の最後。相手の名前を目にしたリリアンは、その場から勢いよく飛び上がった。


――シャーロット・ローレヌ


シャーロットからのお茶会のお誘いだったからだ。驚いただなんて言葉じゃ収まりきらないほどの衝撃だった。


「な、なんで私にシャーロット様からの招待状が……!?」


リリアンは混乱した頭を整理するように、その場でぐるぐると歩き回る。どうしてと考えてみても理由が分からない。

けれどいくら焦ったところで、選択肢は一つしかないのだ。伯爵家が公爵家からの誘いを断るだなんて有り得ないわけで。


階級社会に敗北したリリアンはペンを手に取って、順番に返事を書き始めた。




***




「やっぱり付き合ってるんじゃないの」


返事を出した翌日。早速ソフィアに呼び出されたリリアンは今、腕を組みながら自分を見下ろす彼女の前で縮こまっていた。


「親友よりも先に知った人間があんなに居るだなんて酷い話よね。私が聞いた時は否定してたってのに」

「あの時は本当にそういう関係じゃなくて……!」


頬に手を付きながら愁いを帯びた表情をしているソフィアにリリアンは弁解する。しかし、彼女は「ふーん?」と目を細めるだけで納得していないのが明らかだった。

そしてリリアン自身もまた分かっていた。本当ならば話す機会はいくらでもあったことを。分かっていながらも、そうしなかったのだ。


親友に嘘をつきたくなかったから。


ソフィアは侯爵令嬢でありながらも護衛騎士に恋をした。彼女は次女とはいえ、自由に結婚相手を選べる立場ではなかったから、苦しむ所を何度も隣で見てきた。

そんな彼女はリリアンに言ったのだ。『リリアンも好きな人ができたら一番に教えてね。誰が相手でも応援するから』と。

ユリウスのことが好きだと、結局リリアンは言えなかった。『できたら一番に言うわ』とただ笑って嘘をついた。


「ごめんね、ソフィア。言わなかったのはソフィアを蔑ろにしているとかではないの」


だから、ソフィアにはこれ以上嘘をつきたくなかった。


「公爵様とお付き合いしているのは、一時的にというかなんというか……とにかく色々あったんだけど今は話せなくて」

「……」

「だから話せるようになるまでもう少し待っててほしいの」


口外しないという約束はなかったとはいえ、それは暗黙の了解のようなものだった。しかしこれでは他言したも同然で。

ごめんなさい、クロード様。リリアンは心の中で謝罪した。


「……今はそれでいいわ」

「え?」

「だから、見逃してあげるって言ってるの。それに……よりは……」

「?ごめんよく聞こえなかったのだけど、今なんて……」

「何でもない。それより気をつけなさいよ」

「へ?」


ソフィアからの容認に胸を撫で下ろす。てっきり和気藹々な空気になると思いきや、真剣な顔つきをした彼女にリリアンは首を傾げた。


「いい?ウィノスティン公爵はアンタが考えてるよりずっと人気なのよ」

「ええ。私もびっくりしたわ!」

「はぁ、全然分かってないのね」


ソフィアが溜息を吐きながら眉間を抑える。リリアンは十分分かってるつもりだけどと返したかったけど、空気を読んで口を噤んだ。


「人気ってことは、他の女も狙ってるってこと。だから急に近寄ってくる女が居たら警戒しなさい。アンタはお人好しなんだから、すぐ蹴り落とされるわよ。あの鉄壁公爵が必ず守ってくれるとは限らないんだから」

「て、鉄壁?」

「あら、知らないの?隙がなく女を寄せつけないからそう呼ばれてること。あとはまあ、単純に強いからって意味もあるわね」

「強いって、クロード様が?」

「そうよ。剣の腕なら皇室騎士の中でも団長クラスじゃないかしら?私は噂くらいでしか知らないけど」

「そうなんだ」


いつも帯剣しているから剣を扱うことは知っていたけど、そんなに強いとは思わず目を丸くした。次に会ったら聞いてみようかなんて呑気にしているリリアンに、ソフィアは頭が痛くなるのを感じながら口を開く。


「とにかく、もし話したこともない女がいきなり寄ってきたら絶対何か企んでるに決まってるんだから。相手にしちゃダメよ」

「う、うん……」


ソフィアが疑い深すぎるんじゃないかと思いつつも、気迫に押されてリリアンは頷く。けれど、はたとあることに気がついた。


「相手にしちゃダメって、例えばお茶会に行くとかは?」

「お茶会なんて以ての外よ。毒でも盛られたらどうするつもり?」

「毒……!?」


てっきり悪口を言われたりする程度だと構えていたのに、予想以上に物騒な言葉が出てきてリリアンは震える。


「そ、ソフィアったら大袈裟ね。恋人ができたくらいでそんなことする人が居るわけないでしょう」

「素直で純粋なのがアンタのいい所でもあるけど、世の中良い人ばかりじゃないんだから覚えときなさい。人を蹴落とすためには手段を選ばない人間だって居ることを」


くらりと目眩がする。今にも倒れそうなくらい顔を真っ青に染めたリリアンを見て、ソフィアはゆっくり口を開いた。


「まさか、もう受けたとかじゃないわよね?」

「そのまさかだったり……」


リリアンは半泣きになりながらも頷く。

お茶会の日はすぐ目前まで迫っていた。




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