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2.消せない気持ち




夜会から一夜明け。リリアンは今、ベッドにうつ伏せになりながら枕に顔を埋めていた。


「はぁ…………」


ベッドの横に置いてあるブローチを一瞥し、深い溜息を吐き出す。

昨夜は何か変な夢でも見たのかと思ったけれど、どうやら現実だったらしい。


クロードから恋人にならないかと提案を受けたリリアンは結局「少し考えさせてください」と保留にしてしまった。

決心がついたら訪ねてこいと、ブローチを渡されたのだ。多分あれは通行証のようなものだろう。


いつかはユリウス以外の人と結婚するのだろうと覚悟はしていた。例えそこに愛がなくても、家が決めた事ならと理解はあって。

だけど実際、眼前に迫った時に感じたのは拒否感だけだった。


「どうして、」


リリアンは呟く。どうしてユリウスは弟なのだろう。

初めてユリウスが家に来た日から何度だって一人問いかけた。もし、ユリウスが弟じゃなければと想像したりもした。

ユリウスが弟じゃなかったら、他の女の子達のように好きな人を好きだと言えたのに。


コンコン。

ベッドの上で泣きべそをかいていたリリアンの耳へ、ノック音が届く。


「お嬢様、ユリウス様がお見えですがお通ししても宜しいでしょうか?」

「……!!ま、待って!五分待ってもらって!」


侍女の言葉にリリアンはその場から飛び上がった。急いで鏡へと向かい、身嗜みをチェックする。


「ああもうっ、髪がぐちゃぐちゃだわ……!」


つい数秒前まで寝っ転がっていたうえに、癖毛なのも相まって余計酷かった。リリアンは逸る気持ちを抑えながら、急ぎ髪を整える。

普段なら侍女にやってもらう場面だけど、今は頼む時間も惜しかった。


「姉さん、入ってもいい?」

「ええ!」


きっちり五分後、ドアが開きユリウスが入ってきた。リリアンは内心焦っていたのを押し隠して、にっこりと笑う。


「お待たせしちゃってごめんなさい、ユリウス」

「これくらい全然いいよ。それよりも姉さん、昨日は一人で帰ったでしょ」

「あ……ごめんなさい。ユリウスの上着を借りっぱなしだったわね……!」


ユリウスが他の女の子達と話す姿を見たくなくて少し離れるだけのつもりだったのに、クロードからのとんでもない提案のせいですっかり忘れてしまっていた。

ユリウスを置いて帰るだけじゃなく、掛けてくれた上着まで勝手に持ってきてしまうなんて。

慌てて立ち上がるリリアンの手をユリウスは掴んで苦笑う。


「姉さん落ち着いて。上着は気にしてないから。ただ、心配だっただけだよ。姉さんはいつも危なっかしいからね」


アクアマリンの瞳が柔らかく細まる。姉は自分の方なのに、まるで子供のような扱いにリリアンは唇を尖らせた。


「もう、ユリウスは心配性なんだから。でも次からはちゃんと声をかけるわ」

「うん、そうして」


安心した表情で紅茶を口にするユリウスに、リリアンは思案する。こういう所が、ユリウスの良いところで悪いところだと。


ユリウスは誰にでも優しい。けど、リリアンには特別もっと優しい。

その事に一瞬浮かれそうになるけれど、すぐに〝家族だから〟という理由を思い出して気持ちが沈んでいく。


「どうしたの?急に落ち込んで」

「何でもないわ……」


リリアンは暗くなる気持ちを切り替えるように、別の話題を口にした。


「そ、そういえばもうすぐ剣術大会ね!ユリウスも出るのでしょう?私も応援に行くわ」

「本当?なら姉さんに良いとこを見せれるよう頑張らないと」

「……ちょっとくらい格好悪くても大丈夫よ」


じゃないと、皆ユリウスのこと好きになってしまうもの。

リリアンはその言葉を呑み込んで、ぎゅっと唇を結ぶ。ユリウスは励ましに聞こえたのだろう。「姉さんは優しいね」と言って微笑んだ。




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