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14.敵意




グレース・フルク令嬢のことは勿論リリアンも知っていた。直接的な関わりはなかったけれど、シャーロット同様あまりにも有名だったからだ。

遠目から見た時もオーラがあって凄い美人だとは思っていたけど、至近距離で見るグレースはもっと綺麗で、求婚書が絶えないという噂は本当なのだと確信した。


「クロード様、今日はおひとりなのですね。良ければご一緒しても宜しいでしょうか?」

「目の前に人が居るのが見えないのか」

「まあ、お連れの方がいらしたとは。全く気付きませんでしたわ」


その時になって、グレースはようやくリリアンを視界に入れた。不快だという態度をクロードは隠そうともしていないのに、そんなことは全く気にせずに話しかけ続けるメンタルが凄いとリリアンは尊敬した。


「もう話は済んだだろう。ならどこかへ行ってくれ。今はデート中なんだ」

「……デートですって?」

「ああ、当然だろう。恋人なのだから」

「恋人にしては随分と……」


グレースは座っているリリアンを品定めするかのように、上から下まで眺める。最後に、テーブルに五つも乗ってあるケーキを一瞥して「ふっ」と鼻で笑った。


これを頼んだのは私じゃなくてクロード様なのに!

リリアンは少しだけ悔しかったけど、グレースの気持ちも理解できた。

内臓が本当に入っているのか疑わしいほど薄いお腹は、きっと彼女が毎日努力して手に入れたものだろう。日々積み重ねてきたその努力が自信になっている。所作一つひとつからそれが伝わってきた。

でも……だからと言って馬鹿にされるのが当たり前だとは思わない。リリアンはぎゅっとフォークを握り、顔を上げた。


「く、クロード様!」

「ん?」

「クロード様も一緒に食べましょう!」


フォークで一口大に切ったケーキをクロードへと差し出す。リリアンの予想外な行動に驚いたのか、クロードは目を瞠った。


「あら、クロード様は甘い物がお嫌いなのよ。恋人なのにそんなことも知らないの?」

「……っ、それは」


知らなかった。クロード様は甘い物が嫌いだなんて。グレースの言葉に、リリアンはぐっと押し黙る。

そのまま引っ込めようとした手を、クロードがパシッと掴んだ。


「いい加減にしろ。リリアンに余計なことを言うな。せっかくのデートを台無しにする気か」

「クロード様……?」


クロードは差し出されたケーキを躊躇なく一口で食べる。


「確かに今までは自ら口にしたことはなかったが……君がくれた物ならば好きになれそうだ」


唇についたクリームを親指で拭いながら、困惑するリリアンに甘く微笑んだ。


「っ、この貧相な小娘のどこがそんなにいいと言うのですか!?」

「ひ、貧相……」


グレースが叫んだ。確かにグレースと比べたら、月とスッポンくらいの差だけれども。それにしてもストレート過ぎる物言いにリリアンは打撃を受けた。


「愛らしいと言え。リリアンの良さは俺だけが知っていればいいから君に言う必要はない」

「クロード様……」


それはあまりフォローになっていないのでは?リリアンは二重でダメージを受けることとなった。


「私が誘った時は動揺すらしなかったくせに、どうしてこんな小娘なんかに……っ」


ギリッとグレースが歯を食いしばり、リリアンを睨み付ける。そのまま踵を返す後ろ姿を見て、先日ソフィアから聞いた話をふと思い出した。


『公爵と結婚したいって女に裸で迫られた時も眉一つ動かさなかったから、不能なんじゃないかって噂もあったくらいだし』


まさかその話しに出てきた相手は、と予感が過ぎていく。同時にクロードが信じられなかった。グレース程の美人に迫られたのに誘いを受けないどころか、眉一つ動かさないだなんて。不能と言われても仕方ないことだと、思わず納得してしまう。リリアンが男なら確実に誘惑に負けていたはずだ。

リリアンは「正気ですか?」と、現在疲労真っ最中であるクロードの肩を揺さぶりたい気持ちを我慢した。


「邪魔が入って悪かったな。……リリアン?難しい顔をしてどうかしたか?」

「いえ。ただ、たとえ私が誘惑しても、クロード様は全く動じることはないんだろうなと思って」

「…………勘弁してくれ」

「あっ、いや別に迫ろうと思っているわけではなく!」


クロードが掌で顔を覆い項垂れる。「あんな美人でスタイルも完璧な相手に誘惑されても断るくらいだ。リリアンが相手だったら……」という軽い想像から出た言葉で、深い意味がある訳ではなかったとリリアンは慌てて弁解した。


しかし弁解した後もクロードは黙り込みながら下を向いたままで。どうすればいいのか分からなくなったリリアンは、黙々とケーキを食べることに集中した。




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