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12.嘘の代償




伯爵家へ迎えに来てくれたクロードと共に街へと向かう。馬車に揺られながら、リリアンは向かいに座っているクロードへと尋ねた。


「今日は何の演劇を見るんですか?」


演劇を見ることに決めた際、リリアンは劇選びをクロードに一任した。だから、今日は何を見るのかまだ知らないのだ。


「ああ、最近流行っているものにした。何でも、実際にあった話が元になっているらしい」

「そうなんですね。楽しみです」


リリアンは心を踊らせる。

馬車はあっという間に目的地へと到着し、先に降りたクロードが中にいるリリアンへと手を差し伸べた。


その手を取ったリリアンが馬車から降りた瞬間――ざわりとその場の空気が揺れた。


『ウィノスティン公爵様だわ。演劇を見にこられたのかしら』という疑問が『ウィノスティン公爵様が女性と一緒に居られるわ』という好奇の視線に変っていく。


興味、驚嘆、疑念、羨望。色々な視線が入り交じる。一気に注目されたリリアンは緊張で喉を乾かせた。

人気のあるユリウスの姉だから視線を注がれたことは今までもあったけど、それはあくまで〝ユリウス・ハーシェルの姉〟として。リリアン自身に注目が集まったわけではなかった。


「あんまり不安そうな顔をするな。大丈夫だ、俺がずっと隣に居るから」


緊張するリリアンの手を掬って、甲へと口付ける。再度、周囲が賑やかになった。

周りの反応を一切気にすることなく堂々としているクロードの姿は、不思議とリリアンの気持ちを落ち着かせた。



「わあ……」


クロードが事前に取ってくれた座席を前にリリアンは呆ける。他の席と違って、そこは二人用の席――所謂カップルシートだった。


「こっちの方が恋人っぽいだろう?」

「それはそうですが……」


あんなの使うなんて、バカップルだけよと言っていたソフィアを思い出した。

クロードの芝居に対する本気が凄い。リリアンは思った。




***




意外なことにクロードが選んだのは平民の女性と孤独だった皇子が出会い恋に落ちる、ラブロマンス物だった。


「ずっと会いたかった、エレナ」


リリアンはデート中だということをすっかり忘れて、劇へと熱中する。

抱き合う二人をラストシーンに、劇が終わり幕が閉じた瞬間、思わず立ち上がりそうになった程のめり込んでいた。


「とっても良かったです……!最後のシーンは特に!」

「そうだな、いい話だった」


クロードは舌打ちしそうになったけど、喜ぶリリアンを目にしたおかげで何とか耐えた。

興味の欠片もない恋愛物を敢えて選んだのには、ちょうど秘密があったのだ。

クロードの本来の計画では、恋愛劇を見ながら良い雰囲気へ持っていくつもりだった。カップルシートを選んだのもその為だったし。

しかし実際はリリアンが前のめりで真剣に観ていたのでそんなチャンスは訪れず、ただ劇を見て終わってしまった。


「クロード様、次は――」

「……クロードさま?」


カフェへ移動するために、リリアンがクロードへと声を掛けた時だった。可愛らしい声が割って入り、二人は反射的に振り向いた。


「やっぱりクロードさまですよねっ!クロードさまも演劇を見に来られたのですか?」


まるで小鳥が歌うような声色でクロードを呼んだその人は、社交界の花とも呼ばれているシャーロット・ローレヌ令嬢だった。軽い足取りで近づいてきたシャーロットは、チラりとリリアンへ視線を向ける。


「……そちらの方はご友人ですか?」


初めよりも固い声だった。クロードはすかさず否定した。


「見たら分かるだろう、恋人だ」

「こ、恋人って……まさか……冗談ですよね?」

「何をもって冗談だと言われるのか分からないな。悪いがデート中なのでこれで失礼。行こうリリアン」


クロードがリリアンの肩を抱き促した。その行動を目の当たりにしたシャーロットはぎゅっと唇を噛み締めて顔を歪める。


「……」


リリアンはその時ようやく気が付いた。

たとえ偽とはいえ、クロードの恋人になるということは、クロードを好きな人たちを傷つけるということだ。想いが叶わないことがどれほど辛いのかリリアンは知っていたのに、どうしてそこまで考えつかなかったんだろう。

自分の浅はかさが嫌になった。

けれど今更悔やんだ所で、もう後戻りはできない。


シャーロットが気になったけど、リリアンは後ろを振り向くことはしなかった。




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