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 「早乙女モミジ先生。貴女は死んでしまいました。よって、異世界へ召喚します」


 高雄マヤは気が付くと不思議な空間に立っていた。

 あたり一面真っ白で、どこまでも終わりのない果てしない世界。

 目の前にはこの世の美を凌駕するような、絶世の美女が佇んでいた。

 漆黒の艶髪、清光に輝く大きな黒目、白雪の肌。

 どれをとってもこの世のものとは思えないほどに美しい。

 マヤが目の前の美女にすっかり魅入っていると、美女はそのチューリップのような口元を動かし、淡々とした調子で言った。


 「高雄マヤ。十二歳。漫画家。ペンネームは早乙女モミジ。死因は飛んでいる蝶々を追いかけながら写生していたところトラックにはねられた…で、あってますね?」


 この美女は誰だろう、ここはどこ? と心の中で疑問を浮かべながら、マヤはコクコクと頷いた。


 「はい、あってます…」

 「良かったです。ところでやけに落ち着いていますね。死んだのですから、パニックになると思っていました」


 ふふっと華麗に笑う美女。

 マヤは、ドキリと胸を高鳴らせながら、ぶんぶんと首を横に振った。


 「…驚いたんですけど、トラックに轢かれてから事切れるまで結構時間があったので、心の中で色々整理はできてたんです…」

 「そういうことですね。今の気分は如何ですか?」

 「激痛から解放されて、なんだか清々しいです」

 「そう」


 美女は頷くと、右手でパチンと指を鳴らした。

 するとどこからともなく、木製の机と椅子が現れた。

 「まあ座ってください。お話しをいたしましょう」


 ***


「まず私は女神です。ここは世界と世界の境界に存在する空間」

 「へえ…漫画みたい…」

 「で、単刀直入に聞きますね。生き返りたいですか?」


 マヤは勢いよく顔を縦に振った。


 「できることなら、もちろんです!今日、連載が決定したばかりですから、未練があるんです!」

 「では、生き返らせてあげましょう」


 マヤの顔がパアと明るくなった。

 体を乗り出して、女神の手を握る。


 「ありがとうございます!」

 女神はマヤの手を握り返すと、「ただし」と強い口調で言葉を続けた。


 「条件があります」

 「…条件?」

 「はい。貴女を剣と魔法のファンタジー世界ーー〈シーランティア〉に送るので、一本、最高の漫画を仕上げてください。七〇ページ以上の長編をお願いします」

 「………へ?」


 目を点にするマヤに、女神はそっと顔を近づけた。

 キョロリとあたりを見渡した後、小声で言った。

 「実は私、デビュー当時からモミジ先生のファンなんです。柔らかいタッチの絵柄が好きで…」

 「えー! そうなんですか。嬉しい…」


 マヤは目をウルウルと潤して、歓喜の表情を女神に向けた。

 女神はふふっと可憐に笑っていたが、急に声を低くして、


 「ですが何でしょう…絵は完璧なんですけど、ストーリーの方が物足りないんですよね。なんというか…雑」

 「うっ…そうですか…?」


 急転直下の厳しい指摘に、思わず声を吃らせるマヤ。


 (…うう…そういえば担当さんにもよく言われてたなあ)


 生前の記憶が蘇る。

 マヤのネームを見た担当さんの失望した表情。

 あの視線を向けられた時の情けない気持ちと言ったら何とも形容し難い。

 苦い思い出に浸るマヤを尻目に、女神は情け容赦ない言葉を更に続ける。


 「それとリアリティがないんですよ」

 「はうっ」


 ぐさり、とマヤの心に、女神の言葉が矢のように突き刺さる。

 一瞬よろめきそうになったのをグッと耐えて、マヤは肩を小さく丸めて言った。


 「…自覚してます……」

 「それなら良いんですけどね。ところでモミジ先生、漫画を描くにあたって絵以外の勉強はまるっきししてないですよね。読書とか。取材とか。受けてる作品の研究とか」

 「あうううう」


 図星である。


 「それから、モミジ先生はリスペクトしていらっしゃる漫画家さんがいますよね」

 「は、はい…世田ミルキー先生です。あの方は、私が漫画家を目指したキッカケなんです。昔から大好きなんです」

 「ですよね、モミジ先生の漫画を読んでいたら、似せようとしているのがヒシヒシと分かります。あの人は正体不明の天才漫画家と称されていましたね。…数年前に失踪して以来行方不明ですが…」

 「ですです…」

 「モミジ先生の漫画、正直彼に似てないですよ。似せようという意図は伝わってますが、画力も内容もまるっきりレベルが違う」

 「ぐさぁっ」


 HPを削りに削られたマヤはぐったりと机に突っ伏した。


 「まあそう言う事なので、面白い漫画を描くために、実際に剣と魔法の世界で冒険をしてもらおうと思います。OK?」

 「………はい、面白い漫画を描くためなら何でもします…」

 「それは楽しみですね。では、異世界で生き抜く為にモミジ先生には最強の魔力と、素敵なプレゼントを差し上げます」


 マヤは、プレゼントという言葉にパチクリと瞬きをした。


 「プレゼント?」

 「はい、向こうに行ってからのお楽しみです」


 女神は言うと、マヤの頬を優しく撫で、ニコリと微笑んだ。

 どきり、とマヤの鼓動が高鳴る。

 「では、過酷な冒険になりましょうが、頑張ってくださいね。期待してます、モミジ先生」

読んでくださりありがとうございます!


少しでも面白いと思っていただけましたら、

ブックマークと、

広告下から★を入れていただけると感無量です!


何卒よろしくお願い致します!


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