悪巧み
鎖に繋がれた一人の青年が、魔法陣の中央で膝をつき俯いていた。
腰まで伸びた黄緑色の髪に、ボロボロの白い衣装。
傷だらけの顔。
青年のヒュー、ヒュー、という小さな呼吸だけが響き渡っている。
そこへ、一人の少年が姿を現した。
水色の艶髪に、中世的な顔立ちーー魔術師アイルである。
アイルは青年の前にしゃがみ込むと、ニコニコと上機嫌に笑った。
「こんにちは。預言者ハルヒくん」
「………」
ハルヒは答えない。
「いやあ、まさか君の予言が外れる日が来るとは思いもしませんでしたよ」
その時、初めてハルヒがアイルに視線を向けた。
その瞳は、怒りに燃えているようであった。
「ちょっと、そんな目で見ないでくださいよ。僕は何もしてませんから」
あはは、と笑うアイル。
ハルヒが口を開く。
「何しにきた…?」
「うん。今日はね、君を解放してあげようと思いまして。僕と一緒に逃避行しましょうか」
「………からかっているのか?」
「いえ、真面目ですよ」
アイルがパチンと指を鳴らす。
その瞬間、ハルヒを繋いでいた無数の鎖が突然青い炎に包まれた。
炎は数秒ほどで鎖を焼失させた。
ハルヒは驚いたように目を瞬かせると、己の手を見つめた。
手首には、黒ずんだ鎖の跡が残っている。
「目的は何だ?」
ハルヒが問う。
アイルは手に持った小さなマッチ棒を眺めていて、何も言わなかった。
ニヤニヤと妖しげに微笑んでいてーー不穏だ。
「おい…何か言ーーーもごっ?!」
アイルが間髪入れずハルヒの口にマッチ棒を突っ込んだ。
「…っ…」
アイルは右手でハルヒの口を覆うと、水魔法で手から大量の水を放出させ、ハルヒの口の中に流し込んだ。
「…んっ…ぐは」
苦しそうに目を剥くハルヒ。
アイルはその様子を涼しげに見つめていた。
「ごほっ…がはっ」
アイルが手を離すと、ハルヒは大量の水を吐きながら顔を真っ赤にしてむせ返った。
「はあ…はあ…貴様何をした…」
アイルは人差し指をハルヒの口にピトリとあてた。
「もしも君が僕に楯突くような事があれば、今君の中に投入したマッチ棒が、たちまち燃え上がり、苦しみの中死ぬことになります」
「……?!」
ハルヒはゲホゲホと胃の中のものを吐き出そうと、嘔吐した。
しかし、マッチ棒が出てくることはなかった。
「てめえ…」
「あはは、さてと…」
アイルは立ち上がると、どこか別の方向を見た。
手で口を抑え、すっと表情を消す。
「ではでは、僕らはこれからとんでもない悪行を企みましょうか……好奇心旺盛な勇者様はついてこれるかな?」
ハルヒは真っ赤に腫らした目をすぼめた。
「お前…誰に言ってるんだ?」
「さあ」
アイルはくくく、と喉元で微かに笑うのであった。
***
鍵を手にしたまま硬直するマヤの肩を、レッドベリーが揺さぶった。
「…おい! どうしたんだ?!」
はっと我に帰る。
「あ、レッドベリーさん…」
「やっと気付いた…。ずっと呼んでたんだぞ」
マヤは、ポカンと口を開けたまま、再度鍵へ目をやった。
レッドベリーは眉を吊り上げ、不審そうにマヤを見つめた。
「何か分かったのか」
マヤは、レッドベリーの方へ向き直ると、ホクホクと頬を赤らめ、目を爛々と輝かせた。
「アイルくん…実は悪者だったみたいです…!」
「はあ? 何言ってーーー」
マヤの赤らんだ顔を見て、レッドベリーは思った。
(何でこいつ、ちょっと楽しそうなんだ?)
マヤは、脳に過った映像をレッドベリーに説明した。
レッドベリーは瞠目した。
そう言えばここ数日アイルの姿を目にしていない事を思い出す。
レッドベリーとマヤは地下牢から出ると、すぐに王へ報告した。
その後、国の魔導士が調査した結果、預言者ハルヒの封印を解き、放ったのはアイルであると言うことが判明したのであった。
***
それから三日が過ぎた日のこと。
額に包帯をグルグルと巻いたマヤは、自室で〈魔法のGペン〉で生み出したホワイトボードと睨めっこをしていた。
ネクロマンサーのカオスが、ベッドに腰掛け、暇そうに足をぶらつかせていた。
「何やってるのよ。さっきからずっとその板に絵なんて描いて」
「うーん…漫画のネタを考えてるんだけど、アイデアが出てくる割にまとめ方に悩んでるの」
「マンガって確か絵と文章で紡がれるストーリー本だっけ?」
「うん!」
カオスがニヤリと笑った。
「へー。どんなの考えてるの? 聞かせてみなさいよ」
すると、ラミがどこからともなくベッドの上にやってきた。
「興味あるな。俺にも聞かせろ」
マヤは、ラミ達の方へ向き直ると顔を赤くして頭を横に振った。
「うう…恥ずかしいから、ダメ…」
ラミが呆れたように大きく溜息をつく。
「将来漫画家になって多くの人に読んでもらうのが夢なんだろ? 女一人と猿一匹に聞かせるくらいが何だって言うんだ」
マヤは「たしかに…」と呟くと、仰々しく居住いを正した。
「分かった。 じゃあ言うね」
ラミとカオスが、同時にごくりと唾を呑み込む。
マヤは、ホワイトボードに恐ろしいほどの速さで絵を描き込んだ。
絵は、黒いフードを被った女の子と、ドラゴンが対峙している様子が描かれていた。
マヤはスーと息を吐くと、恥ずかしそうに言った。
「ネクロマンサーの女の子と、ドラゴンの恋物語…です」
カオスが「おー」と声を上げる。
「ねえ! それってモデル私?!」
「うん」
「わ〜素敵! 私、実は素敵なお嫁さんになるのが夢なのよ」
カオスは嬉々として言うと、手を合わせ、上機嫌そうに鼻唄を歌った。
ラミが尋ねる。
「んで、恋の行方はどうなるんだ?」
マヤは突然、ホワイトボードをバンバンと叩くと、興奮したように「ふんす!」と鼻を鳴らした。
「オスだと思っていたドラゴンは、実はメスだったの。人間の姿に変えてから気付くんだけど…それからは怒涛の百合展開!」
鼻歌を歌い舞っていたカオスがぴたりと止まる。
すっと真顔に変わり、
「えっ…きも」
「えええ?!」
ショックを受けるマヤ。
するとその時、コンコンと扉が二回ノックされた。
「はい」とマヤが返事をすると、扉が開く。
そこには、まだ傷が癒えていない騎士レッドベリーの姿があった。
「おい勇者、お前にーー…」
レッドベリーの目に、ベッドの上に座るカオスが姿が映った。
カオスの肩がびくりと震える。
持ち前の人見知りで徐々に赤面していくカオスに、レッドベリーが尋ねた。
「…ん? 誰だ? …どこかで見た気がするんだが…」
その瞬間、マヤは物凄い速さでカオスにタックルをした。
ベッドの上でカオスに覆い被さり、歪な体勢でレッドベリーの方に顔を向けた。
「…こ…この間街で出会ったお友達です…」
カオスは脱獄者である。
預言者ハルヒとアイルの逃亡事件のせいで有耶無耶になっていたが、レッドベリーに見つかればカオスはまた獄に戻され、罰を受ける事になるだろう。
レッドベリーは不審そうに目を窄めた。
「何をしているんだ?」
「えっと…スパーリング…」
ど、ど、ど、と激しい心臓が高鳴る。
マヤの下ではカオスが涙で顔を赤く腫らしている。
レッドベリーは次に、マヤの額に巻かれた包帯に視線を向けた。
「その包帯はどうした?」
「ス…スパーリングで頭ぶつけちゃって…」
嘘である。
マヤが寝ている最中、カオスがマヤを殺そうと刃物で額を刺し、傷跡が残っていたため巻いている包帯である。
レッドベリーはしばらく二人を見ていたが、やがて「ふん」と鼻を鳴らすと、言葉を続けた。
「程々にしておけよ。そんな事より大事な用だ」
マヤがホッと安堵の息をつく。
「何でしょうか…?」
「王がお前をお呼びだ」
(え、王様が…?)
それから、レッドベリーと共に御前に向かうのであった。
***
マヤとレッドベリーは、王の御前に出ると慇懃に跪いた。
王は髭を撫で、玉座の上から二人を見下ろしている。
「よく来てくれたな。此度は勇者様に頼があってのう」
マヤが顔を上げる。
「なんでしょうか」
「叛逆者アイルとハルヒをひっ捕えて欲しい」
「ほう」とマヤの瞳が輝く。
「アイルくん達はどこにいるか分かっているのですか?」
「うむ。恐らくの見当はついておる。彼らは他の七人の護り人も解放する事が目的であることは容易に想像できる。して、彼らが向かう先は、護り人が封印されている国で言うと、最も近いデアロス帝国であろう」
「じゃあ、そこへ向かえば良いのですね?」
「そう言う事じゃ。困難な旅になろうが、頼まれてくれるか?」
「…困難な…旅…」
マヤは、目を閉じ夢想した。
アイルの野望を阻止する旅。
きっとそこには幾多の困難が待ち受けているであろう。
だが、旅先で仲間も増えるのである。
仲間と共に目的のために粉骨砕身し、アイル達と戦う。
ーードラゴンと戦ったり、ダンジョンを攻略したり、地面から剣を引っこ抜いたり、魔王を倒したり、村人を呪いから救ったり、女の子達と温泉に入って胸の大きさを比べたり………
気付くとマヤの顔はホクホクと熱っていた。
マヤは、顔の前で祈るように手を握り、いつものように爛々とした目を輝かせた。
「…あり!」
その瞬間、後頭部にゴーンとものすごい衝撃が走った。
「いたいっ」
レッドベリーが、マヤの頭にチョップをかましたのである。
「馬鹿野郎! そんな返事があるか! 王の御前だぞ」
「ごめんなさい…つい」
しゅんとするマヤを王はさも愉快そうに笑った。
「ほほほ、まあ良い。勇者様はこの国を救って下すったのだからのう。では、受けてくれるのだな」
「はい、もちろんですっ」
すると、兵士の一人がマヤの前にやってきて、四つ折りにされた地図のようなものと、綺麗に畳まれた黒布を置いていった。
「勇者様よ。それは八人の護り人を封印せし場所が描かれた地図と、マントである。旅のお供に持っていきなさい」
「わあ…ありがとうございます」
ふふふ、と楽しそうに笑うマヤの横で、レッドベリーは大きく溜息をつくのであった。
***
「ーーということで、冒険に出ますっ」
マヤは、甲冑を被った自分と、その仲間らしき四人のキャラクターが描かれたホワイトボードの前で元気よく言った。
カオスが小首を傾げる。
「ねえちょっと待って、話は分かったけど何でその絵の中に私がいないわけ?」
「…え、カオスちゃんも冒険するの?」
カオスが頬を大きく膨らます。
「当たり前じゃないっ。どーせ故郷に帰ったって期待外れだって後指さされるだけだし、かと言ってここにいれば私はただの罪人で逃亡者。私にはマヤを殺すと言う大事な目的だってあるの」
マヤがなるほどという風に大きく頷いた。
胸元でパンと手を叩き、朗らかな笑顔を浮かべる。
「うん、じゃあカオスちゃんも行こう」
カオスは拗ねたように口を尖らせた。
「そうよ…行くの…」
コンコン、と扉がノックされた。
カオスが驚いたように肩を強張らせる。
「もうっ…今度は誰よ。私あの赤髪の男の人嫌いよ。顔が怖いんだもん」
小猿のラミが、カオスの尻を蹴り上げベッドの裏側へ飛ばした。
「ほぎゃ」
「良いから早く隠れろ」
マヤは、カオスの姿が見えなくなったのを確認すると、「はい」と返事をした。
扉が開く。
そこには、陰鬱な表情で佇む、姫・ロザリーの姿があった。
マヤは驚き、ロザリーのもとへ駆け寄った。
「お姫様、お久しぶりです…」
「ご無沙汰ね、マヤちゃん。入っても良い?」
「もちろんです」
二人でベッドに腰掛けると、マヤはロザリーの手にそっと手を重ねた。
心配そうにロザリーの顔を覗く。
「なんか、お元気じゃなさそうです…大丈夫ですか?」
ロザリーはへにゃりと笑った。
「ええ、平気よ。あのね、マヤちゃん…」
「はい…」
ロザリーはマヤの方へ向き直ると、突然、涙を溢した。
「えっ」
思いもよらない突然の涙にマヤがオロオロとしていると、ロザリーは声を震わせた。
「行かないで」
その言葉に、マヤがピタリととまる。
ロザリーは念を押すようにもう一度言った。
「行かないで、冒険」
「なんでですか?」
ロザリーは、マヤの肩を抱いた。
突然のことに思わずマヤは頬を紅潮させる。
「もう、貴女を失いたくない…」
「なんで…お姫様は一度も私を失っていないですよ…」
「一回本当に死んだかと思っちゃったんだから! もうあんな思いしたくない。アイルたちのことなんてどうでも良い」
ロザリーはマヤから離れると、真正面からマヤを見つめた。
マヤは、恥ずかしくて視線を逸らす。
「それにアイル達を捕まえるのは貴女がやるべき事じゃないわ。悪魔討伐の時もそうだったけど、貴女には何の責任もないの。国で対処しなければならない問題だから」
「うう…そうかもしれないですけど…」
マヤは、心の中で「困った」と呟いた。
こうなるとお姫様はかなり頑固なのである。
以前は、マヤを戦場へ行かせたくないがために、隙を見てマヤに睡眠薬を打ち込んできたのだ。
今回ももしかしたら、何か思いも寄らぬ手段でマヤが冒険に阻止してくるかもしれない。
(心配してくれるのは有難いけど、どうすれば良いんだろう…)
ロザリーの熱い視線を浴びながら、頭を捻る。
月光が、窓から二人を照らした。
その時、マヤの頭に一つのアイデアが降り注いだ。
マヤは、ニコリと無邪気な笑顔をロザリーに向けた。
「私、冒険したいんです」
「………そういうと思ってたわ…貴女って皆が怖がるような事でも楽しむ人だから…。でもやっぱり心配なの…絶対に…行かせたくない」
「じゃあ、ちょっと良いですか?」
「え…」
マヤは、立ち上がると窓辺に立った。
ロザリーもその横で自信満々な笑顔を見せるマヤを不思議そうに見つめた。
マヤは、月を見上げた。
綺麗な満月が輝いている。
「どうしたの…? マヤちゃん」
「…わ、私がすごく強いということを証明したいと思います…」
と、言いながらマヤは緊張からか心臓をバクバクと高鳴らせていた。
(一度…やってみたかったんだよね…)
マヤは〈魔法のGペン〉をポケットから取り出すと、そのペン先を満月へ向けた。
(マヤちゃん…何するつもり…?)
真剣な面持ちで月を見つめペンを構えるマヤの姿に、ロザリーは目が離せなくなった。
マヤは、月の中心でゆっくりと円を描いた。
すると、満月の中心にポックリと穴が空いた。
(成功したっ)
「ど、どうですか?」
嬉しそうに尋ねるマヤ。
ロザリーはドーナツ状に変形した月を見て、目を丸くした。
「えっ…うそでしょ…月が…」
驚嘆するロザリーをマヤは満足げに見つめた。
(月を壊すって、いかにも漫画やアニメの強者っぽい)
と、常々思っていたことをついに実行してしまったのである。
マヤは、以前祭りの際にロザリーに作ってもらったペンダントを見せた。
黄色いドーナツ状の形をしたペンダントだ。
「ほら、このペンダントと一緒になりました」
へへ、と無邪気に笑うマヤをロザリーは呆然と見ていた。
が、何を思ったのか突然ふっと笑い出した。
「ふ、ふふふ…もうマヤちゃんて凄い! 月の形を変えてしまうなんて」
「えへへ…だから私、冒険に出ても無事にアイルくん達を捕まえて戻ってきます…『月に誓って』です」
その後、ロザリーとマヤは談笑した末、ロザリーは帰って行った。
ロザリーがいなくなり静になった部屋で、マヤはベッドに座り込んだ。
すると、ベッドの下からカオスの声が聞こえた。
「ドン引きだわ」
「えっ」
カオスがベッドの下から顔を覗かし、ジトリとマヤを睨んだ。
「どこから月を変形させるなんて発想出るのよ」
「えっと…マンガからかな…」
ロザリーは「ふーん」と頷くと、ドーナツ状の月を見た。
「マンガってろくでもないのね」
***
翌日、旅支度を終えたマヤは王から授かったマントを羽織り、門前で城の者達から送別を受けていた。
「勇者様! どうかご無事で!」
「勇者様〜我々寂しいです〜」
マヤは涙ながらに見送りに来てくれた兵士たちにペコペコと頭を下げた。
「頑張ってきます…」
大勢の兵士たちに囲まれ、マヤは恥ずかしそうにキョロキョロと視線を動かした。
マヤの後ろではフードを深く被ったカオスが「早く行こう」と言わんばかりにマヤの袖を引いている。
その時だった。
「ちょっと待て」
声の方を見ると、レッドベリーが立っていた。
後ろには十人ほど従者の騎士を従えている。
マヤの背後では「ひえ」とカオスが小さく悲鳴を上げた。
「レッドベリーさんっ」
マヤが言うと、レッドベリーは仁王立ちした。
「俺たちも共に行こうと思う。良いか?」
レッドベリーの提案にマヤの顔がパアと明るくなった。
「本当ですか? 心強いです!」
「ああ、いくら何でも子供だけで冒険させるわけには行かんしな。兵達も連れているから安心しろ」
「レッドベリーさん! ありがとうございますっ」
カオスが、マヤの肩をチョンチョンと突く。
マヤが振り向くと、カオスは今にも泣かんばかりに顔を真っ赤に染めていた。
「どうしたの?」
カオスは小声で言った。
「私、嫌よ。この人たちがついてくるの。知らない人達と昼夜を共にするなんて御免だわ。絶対に断ってよね」
「…でも、沢山いた方が楽しいと思うし…」
「私、この人達と生活したらストレスで死んじゃうわっ。いえ、その前に私が寝込みを襲って全員殺しちゃうんだから」
「…うっ…それは困るなあ」
マヤはレッドベリーの方へ向き直ると、ペコリと頭を下げた。
「ごめんなさい、やっぱり一緒に行くのはよして欲しいです…」
レッドベリーが意外そうに眉を吊り上げる。
「なぜだ」
「えっと…人数が多いと、方向性の違いとかで解散しちゃうかもしれないし…」
ラミが心の中で「バンドか」とツッコミを入れる。
レッドベリーは「はあ?」と呟くと、強い口調で言った。
「何を言っているんだ、向かう方向は同じだぞ」
「…で、でも、価値観や文化の違いで衝突しちゃうかも……」
マヤがモゴモゴと断る理由を考えていると、小猿のラミがマヤの耳元で言った。
「面倒くさい、とっとと行くぞ」
「え?」
すると突然、マヤの肩からラミが飛び出し、強烈な光を放った。
「なんだ?!」
その場の全員が目を伏せる。
次に、爆発音と共にモクモクと煙が立った。
「ラミさん…?」
マヤがラミの名前を呼ぶ。
煙はだんだんと晴れていき、可憐な白鳥が姿を現した。
成人男性が両手両足を広げたくらいの大きさはある。
白鳥と化したラミは、マヤに目配せで「乗れ」と合図した。
マヤは「お〜」と目を輝かせると、ラミの背中に乗った。
目を丸くして立ち尽くしているカオスの方へ、マヤが手を伸ばす。
「いこっ」
カオスははっとすると、口を綻ばせた。
「うん」
その場の全員が、目の前に突如出現した美しい白鳥に目を奪われていた。
「なんだ…あれは…」
「魔法か…?」
「まさかこれも勇者様の力?!」
白鳥が飛び立つ。
マヤは、仰天した様子のレッドベリーをラミの背中から見下ろした。
「レッドベリーさん、ありがとうございました。また会いましょう」
ベッドベリーは、「くくく」と笑った。
「分かった。どちらが先にアイルを捕まえるか勝負だ」
可憐な白鳥と、その背にまたがる二人の少女が飛び立っていくのを、兵士達は手を振って見送るのであった。




