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カオス

 仰向けに横たわっている。

 狭くて暗い。

 ちょっと体を動かせば壁に当たる。

 試しに手を上にかざしてみると、三〇センチほどのとこころで天井に当たった。


 「狭い…どこだろう…」


 閉所恐怖症ならば間違いなく発作を起こしていたに違いない。

 マヤは、置かれているか分からず不安になった。

 はっとする。


 (もしかして、私の体は既に焼失してしまっていてる…? ここは虚無の場所? 魂だけが彷徨っているという…。すると私は幽霊となり永遠に暗い場所に閉じ込められる無限地獄にーーーー)


 と、マヤが想像を膨らましていると、どこからともなく、少女の啜り泣きが聞こえた。


 ーーぐすっ…ぐす…マヤちゃん……ごめんなさい…本当にごめんなさい…全部私が悪いの…!


 声の主が姫・ロザリーであることはすぐに分かった。

 マヤは居ても立っても居られなくなった。

 天井が低いのも忘れ、体を勢いよく起こす。


 ばこーん!


 と物凄い音を立てて、自分の頭が天井の板を吹き飛ばしたのが分かった。

 が、それもお構いなしにマヤは叫ぶ。


 「お姫様は悪くないです!」


 しーーーん


 場内に走る静寂。

 はっと我に帰る。


 マヤは、煌びやかな灯りに照らされているのに気付いた。

 辺りを見渡すと、黒い衣装を纏った兵士や高官がずらりと並んでいた。

 目の前には涙で頬を濡らすロザリーがいる。

 その場の全員、目を点にしてマヤを見つめていた。

 ロザリーも、何か信じられないものでも見るような表情で、マヤを凝視している。


 「えっと……ここは…」


 己を見ると、鮮やかな花たちに包まれていて、真っ白なドレスに身を包んでいた。

そして、今の今まで寝ていた真っ暗な場所はと言うとーー。


 「棺桶……?」


 マヤは、状況を理解した。

 恐らく、マヤの葬儀中であったのだ。


 「あっ…ああ…マヤ…ちゃん…」


 口をパクパクとさせながら、ロザリーが呟く。


 (ビックリさせちゃってる…)


 と思いながら、何をどのように説明すれば良いのか分からず、マヤは一先ず、その場の人々を見て言った。


 「お…お久しぶりです…。なんか私、死んでなかったみたいです……えへへっ」


 マヤの言葉で、場内の静寂は崩せなかった。

 むしろ、より一層警戒するように皆が表情を強張らせた。。


 (ううう…視線が痛い…)


 喪服に身を包んだ兵士の一人が震えた声で呟いた。


 「まさか…今になってネクロマンサーの能力が発動したのか…?」


 マヤは慌てて立ち上がり、首を横に振る。


 「…ち、違います! マヤです!」


 マヤは刺された場所を見せ、傷が癒えていることを確認させると、城での出来事を事細かに話した。


 それでやっとマヤがネクロマンサーに操られていないことを証明した。

 場内は沸きに沸いた。


 「うおおおおおお」

 「勇者様復活だああああああ」

 「奇跡だああああああ」

 「勇者様! 勇者様! 勇者様!」


 自然と勇者様コールが起こっていた。

 マヤが苦笑いで頭を掻いていると、ロザリーが勢い良く抱きついてきた。


 「マヤちゃん! 生きてて良かっだあああああ! ごめんねえええ」

 「あはは、治癒魔法に時間が掛かっちゃったみたいで、火葬されなくて良かったー」


 それからマヤは、棺桶から出されると混乱する城内を抜け、王に謁見するのであった。


***


 城内に用意されたマヤの部屋。

 その真ん中に設置された豪華絢爛なフカフカベッドに、マヤはダイブするのであった。


 「だはー! 説明大変だった!」


 国の者達に、あれやこれや質問を受けた。

 何故背中を刺され心臓が停止したにも関わらず生きていたのか。

 マヤはその全てを「刺された直後、咄嗟に治癒魔法を使った。魔法が効くのに時間が掛かった」の一点張りで通した。

 正直、少し無理がある。

 しかし、マヤはどんなに問い詰められようと同じ事しか言わないので、国の者達は納得いかずとも頷くしかなかったのである。


 「やっと戻ってきたか」


 ベッドに寝そべるマヤの枕元で、ラミが言った。


 「うん〜ただいまラミさん」 

 「女神様からお聞きしたぞ、心臓が変わったんだってな」 

 「そうなの、これからはこのペンが心臓なんだって。大事にしなきゃだねぇ」

 「滅茶苦茶だな」


 ラミが呆れたように溜息をつく。 

 マヤは、ベッドでゴロゴロとしながらふと思った。


 (そろそろ漫画に取り掛からなきゃ。色んな経験をしたし)


 それからしばらくの間、マヤは机に向かい漫画のネタを考えることに没頭するのであった。


***


 その晩の事である。

 マヤがスヤスヤと寝付いていると、黒い影がマヤのベッド横に浮かんだ。

 影はどこからともなく、スラリと短剣を抜いた。

 寝静まっているマヤの上に馬乗りになると、短剣を振り上げ、マヤの胸元へ一直線に擦り下ろしたーーーその時だった。


 「ううう…重い………って、わっ誰?!」


 マヤの声に反応して、影の動きがピタリと止まった。 

 目を覚ましたマヤは、パチクリと丸い目を瞬かせている。


 (誰か…乗ってる…)


 暗くて影の正体が見えない。

 だが、雲隠れしていた月が顔を覗かせた時、陰の人物が露わになった。

 薄紫の艶髪に、真っ白な肌。

 月明かりに照らされキラキラと輝く赤眼は、涙で潤んでいる。


 「…ネ、ネクロマンサーのお姉さん?」


 地下牢から脱獄したばかりの、カオスであった。

 カオスは、マヤの胸元に短剣を突き付け、ブルブルと手を震わせていた。

 その顔は涙で濡らし、苦悶しているようであった。


 「あんた……あんたのせいで…くそがぁ」

 「どうしました?」


 マヤの問いには答えず、カオスは叫んだ。


 「死ねぇ!」


 が、今度は若い男の声がカオスを静止する。


 「そいつは短剣で刺したくらいじゃ死なないぞ」

 「きゃうっ…! だ、だれ?!」


 カオスが辺りをキョロキョロしながら言うと、マヤの枕元から、ひょっこりと小猿が顔を出した。


 「お前、見てたろ。こいつが刺されるとこ。だが現にこいつは生きている。残念だったな」

 「さ、さ、さ、猿が喋ったあ?!」


 驚きでベッドから転げ落ちるカオス。

 ゴスっと鈍い音が響き渡る。


 マヤは慌てて起き上がると、ベッドからカオスを見下ろした。


 「大丈夫?」

 「さ、さ、さ、さ、猿…喋っ…」


 カオスは混乱しているようだった。

 ラミは大きくため息をついて言った。


 「今どき動物の形をした喋る使い魔なんて珍しいもんじゃないだろ」

 「ひ…ひぃぃぃぃ」


 カオスは顔を真っ赤に腫らし、黒いフードを深く被った。

 何かに怯えているような様子だ。


 「おい、なんか言えよ」

 「…………」


 カオスはキュッと口元を瞑り、フードで顔を隠して押し黙っている。

 マヤは、ブルブルと震えるカオスを見て、何だか不憫な気持ちになった。

 ベッドが下りると、怯えた様子で尻餅をつくカオスに話しかけた。


 「…どうしたの? もしかして、お猿さん、苦手?」


 カオスが首を横に振る。


 「ち、違うわ…そ、その…私……私………」

 カオスは涙でウルウルと滲む瞳をマヤへ向けると、震えた声で言った。


 「…きょ…極度の人見知りなの…」


 思いもよらぬカオスの返答に、しばし丸い目を更に丸くするマヤ。 

 ラミが室内の沈黙を破る。


 「はあー? 何言ってんだ散々兵士たちを虐殺したくせに。そんなわけないだろ」

 「ひうぅっ」


 カオスは、さっとマヤの後ろに隠れた。

 マヤが心配そうに尋ねる。


 「ネクロマンサーさん、大丈夫?」

 「大丈夫じゃない…もう嫌だ穴があったら入りたい…」 

 「おいちょっと待て。仮にお前が本当に極度の人見知りなら、何でマヤとは普通に喋ってるんだよ」


 苛立ったように言うラミに、カオスは怯えたようにビクリと肩を震わせた。


 「………だ…だって…その…殺す予定の人にだったら………嫌われても、変な人って思われても………良いので……大胆になれる……」


 マヤがポンと手を叩く。


 「なるほど」

 「いや、なるほどじゃねえよ! 俺はお前が既に嫌いだし、変な奴だと思ってる」


 途端にカオスの顔が真っ青に染まった。

 フードを更に深く被ると、床に頭をつけて、背中を丸めた。

 震えた声で一言。


 「…き…嫌いとか………傷つく……」


***


 カオスはネクロマンサーである。

 人間に関わらず、あらゆる生物の死骸を操り人形として、傀儡にすることができる。

 ただし、二体以上同時に操り人形にすることはできない。 

 殺したにも関わらず、その体を手に入れられ無かったのはマヤが初めてであった。

 これには驚いたが、原因を考える暇はなかった。

 マヤが死んだ後、カオスの正体がばれ、国の地下牢に閉じ込められた。

 汚い地下牢で手と足を繋がれ、拷問にあった。

 ある時、足元に一匹の鼠がやってきたので、器用に足の爪で刺して殺した。

 カオスの操り人形となった鼠は、カオスの意思の下、監視の隙を見て鍵を盗んだ。

 そうして脱獄してきたのだった。


 「ということよ…」


 カオスがモジモジと指をこねながら言った。

たまにチラチラとラミの方を見て、様子を伺っている。

 「なるほど、すごいね…カオスちゃん」

 マヤはカオスの話に関心したように頷いた。


 「でしょ? ねえ、マヤはどうしたら殺せるの? 体をバラバラにしても死なないんでしょ。教えて欲しいわ」

 「うー…それは言えないかな…。殺されちゃったら困るし…」

 「良いわ。不死身ってわけじゃなさそうだし、絶対に殺す方法を見つけて、マヤの体を手にいれてやるんだから」


 あはは、とマヤが苦笑していると、部屋の外からダンダンダンとけたたましい足音が近付いてきた。

 マヤが「なんだろう」と呟くと、カオスは「ひっ」と声を上げた後、急いでベットの中へ潜り込んでいた。


 バタン!


 と大きな音を立てて、扉が開く。

 そこにはレッドベリーの姿があった。

 右眼には黒い眼帯をつけていて、体中に包帯が巻いている。

 先の戦いで、負傷しものであろう。 

 焦っているのだろうか。

 額に汗を垂らし荒々しく息を切らしている。


 「おい!クソガ………勇者!」

 「は……はい」


 マヤが戸惑いつつ返事をすると、レッドベリーは頷いた。


 「逃げられた」

 「え、あ…はい」


 脱獄者カオスの顔が頭の中で浮かんだ。

 カオスがこの部屋にいることを言うべきか、マヤが考えているとレッドベリーが言った。


 「預言者ハルヒの姿が地下牢から消えていたんだ」

 「え?! そ、そうでしたか」


 ふう、と安堵の息をつくマヤ。

 しかし、最強の護り人が脱獄したのは、大変な事である。


 「何か知らないか?」


 顔を横に振る。


 「知らないです…」

 「そうか」


 レッドベリーはそれだけ言うと、足早に部屋を後にした。

 レッドベリーの足音が聞こえなくなると、ラミが、ベッドからマヤの肩にヒョイと乗り移ってきた。


 「何か大変なことが起こってるみたいだな」

 「うん……」


 マヤはしばらく無言で扉の方を見つめていたが、突然何かを決心したかのように言った。


 「私、地下牢に行ってみる」

 「は? なぜ」

 「嫌な予感がして…何かある気がするの…。それにーーー」

 「それに?」


 ラミが尋ねると、マヤは爛々と目を輝かせて言った。


 「地下牢というものを見てみたい! あわよくば写真撮りたい! 漫画の資料になりそう!」

 「あーはいはい。んじゃあ俺は疲れたからここで待ってるぞ」


 ラミが枕の上で寝そべる。

 すると突然、ベッドの中からカオスが飛び出してきた。

 そして、ラミを指差すと顔を真っ青にしてマヤに訴えた。


 「ちょっ…ちょっと待って! 私をこの猿と二人きりにしないでよう! なんか…なんか気まずいわ…!」


 マヤは一瞬、困ったような顔をしたが、顔の前でパチンと手を合わせた。


 「ごめんね…! ちょっと我慢してほしいです!」


 マヤはそういうと、レッドベリーに追いつくため急いで部屋から出て行った。

 残されたカオスは涙ながらに叫ぶ。


 「やだあ! 置いていかないでえ」


 カオスがマヤを追いかけようと立ち上がると、突然、ポンと小さな爆発音を立てて、ラミが人間の姿になった。

 カオスの腕を掴む。


 「いい加減にしろ」


 その瞬間、カオスの全身から血の気が引き、身体中から汗が噴出した。


 「うきゃああああああ! 誰ええええええええええええ?!」


***


 マヤはレッドベリーに追いつくと、地下牢に行きたい旨を伝えた。 

 レッドベリーは驚いた様子であったが、すぐに「分かった」と頷いた。

 それから、城を出ると街の郊外の森まで馬車で向かった。

 森の中の小さな小屋に案内された。

 中に入ると、地下へと続く階段があった。

 長い螺旋階段を下りる。

 蝋燭を手にしたレッドベリーが尋ねた。


 「何でまた牢獄を見たいと言い出したんだ?」

 「…え、えっと…手掛かりがあるかなあと思いまして…」


 異世界の地下牢を見てみたい、というのが本心だが、そのことは黙っておく。

 レッドベリーは「ふん」と鼻を鳴らした。


 「言っとくが、俺はお前のことが大嫌いだ」

 「…は、はい」


 分かってます、と心の中で呟く。

 だけど、面と向かって言われると中々傷付くものである。

 先ほどのカオスの気持ちが少し理解できた。

 レッドベリーはしょぼくれるマヤを一瞥すると、「だが」と言葉を続けた。  


 「感謝は…してる…。お前がいなければ、今頃この国の者は全員死んでいただろう。皆を助けてくれて…ありがとう」


 レッドベリーの最後の言葉が、心なしか少し声が上擦っているように感じた。

 マヤも、ニコッと笑いながら返答した。


 「私も…! こちらこそ、ありがとうございます」

 「なんでだよ」 

 「お城に住まわせてくれたり、実践練習させてくれたり…」

 「実践練習じゃねえ! あれは決闘だ! 二度と言うな!」

 「は、は、はい…!」


 地雷だったようである。

 その後しばらく階段を降りていくと、レッドベリーが立ち止まった。


 「ここだ」


 レッドベリーはそれだけ言うと、目の前に現れた大きな扉を手で押し開けた。

 ギーと鈍い音が響き渡る。

 マヤは、緊張した面持ちでゴクリと一つ唾を飲んだ。

 扉の先には十畳ほどの岩でできた空間があった。

 地面には大きな魔法陣が描かれており、周りには無数のろうそくが置かれている。

 そして、その中央には主人のいない壊された鎖が置かれていた。


 (わああああ、なんか雰囲気ある! 描きたい…)


 マヤがピコンと目を輝かせ、自然とリュックに手を伸ばしたその時、レッドベリーは鎖の方を顎でしゃくった。


 「あそこに、預言者がいた」

 「は、はい!」


 我に帰るマヤ。


 「奴がいないのに気が付いたのは一刻ほど前だ。今は、兵士たちが血眼になって街や門外で探している」

 「なるほど…」


 マヤも何か力になりたいと思い、手掛かりになりそうなものを探そうと部屋を見渡した。

 その時だった。 

 マヤの背中にゾクリと不思議な感覚が走った。

はっと背後を見る。

 すると、足のすぐ近くに、小さな鍵が落ちていた。

 金色に輝くそれは、見覚えがあった。


 「これ…アイルくんが持ってたやつ」 


 そう。

 アイルに魔法を教わっていた時に、アイルが落とした鍵と同じものであった。


 「なんだ? 何かあったか?」


 レッドベリーもマヤが視線を落とす先の方へ目をやった。

 「鍵…?」

 「はい、これ、アイルくんが持ってたんです」


 マヤはその場にしゃがみ込むと、手を伸ばし鍵を拾った。

 その瞬間、マヤの脳内に映像が流れ込んだ。


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