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ロザリー

ーー予言の日。

 マヤは目を覚ますとゆっくりと、この日の段取りを頭の中で確認した。

 悪魔が現れるとされているのは、南の方角。

 既に、南門には数千の兵隊が置かれている。

 マヤは、アイルと共に馬車で南門に向かうことになっている。


 「よし、絶対にみんなを守る!」


 マヤは気張ると、ベッドから起き上がった。

 その時、部屋の扉がコンコンとノックされたのであった。


***


 城内にある絢爛豪華なティールーム。

 その中央にはポツンと机が一つ、椅子が二つ。

 そして二人の少女が紅茶を啜っていた。 


 「お姫様…。私、そろそろ行かなくちゃ…アイルくん待ってるだろうし…」


 そう困ったように言うのはマヤである。


 「良いから良いから。私はこの国の姫よ。姫との用事より優先すべきことってあるかしら」


 和かに言うのは姫・ロザリー。

 今朝マヤが部屋を出ようとしたところ、ロザリーが突然訪ねてきて、決戦に向かう前に茶をしようと誘ってきたのである。


 激励でもしてもらえるのかとマヤは喜んで応じた。

 しかし、既に半刻は経過しているが、ロザリーの口からは、最近読んだ小説の話や、他愛もない出来事の話題しか出てこなかった。

 アイルとの約束の時間は当に過ぎている。


 (なんでだろう…国の存亡がかかってる日なのに…)


 マヤは決心すると、失礼を承知で立ち上がった。


 「あの…すみません。私行きます。この国を救わなくちゃ…」


 ロザリーは小首を傾げ、


 「何言ってるのマヤちゃん。もっとお話ししましょ」

 「ごめんなさい!」

 「マヤちゃん…」


 ロザリーはしゅんと寂しそうにマヤを見つめた。

 マヤは、罪悪感を抑え扉の方へ歩いた。

 するとロザリーが突然、マヤの腕を掴んだ。


 「マヤちゃん、なんで行こうとするの」

 「時間だから…」

 「そうじゃなくて、やっぱり…やっぱり私…貴女を行かせたくない。死んじゃうかもしれないから…」


 ロザリーの目から、ポツリと一筋の涙がこぼれ落ちた。

 マヤは、ロザリーの頬にそっと触れ、その水晶のような涙を拭うと、にこっと笑顔を浮かべた。


 「大丈夫です、私は絶対に死なないです」

 「そう」


 次の瞬間、


 ーーチクリ


 マヤの首に小さな痛みが走った。


 「なに………」


 はっとした。

 ロザリーが、小さな注射器のようなものをマヤの首に刺していたのだ。

 マヤは、驚く間も無くふらりと目が回るのを感じた。

 と同時に、段々、意識が遠のいていく。


 「……お姫…様…………なに……を……」


 ーーごめんなさい、マヤちゃん。私はこうするしかないーー。


 そう、微かに耳元でロザリーが囁いた。

次の時にはもう、マヤの意識は暗転していた。



***


 「あーあ、本当によろしいのですか? 姫様」


 ティールームで、意識を失ったマヤを抱えるロザリーに、魔法使いアイルが訪ねた。


 「…あなたいたのね」

 「ええ、勇者様が中々いらっしゃらないので」


 アイルが、サラリと左側の髪の毛を流す。


 「アイル、命令よ。戦いが終わるまでこの子を守ってなさい。そしてもし国が滅びたら、この子を連れて遠くへ逃げなさい」


 アイルが目を薄め、怪しげに笑う。


 「良いのですか?」

 「ええ。この国の姫が決めたことよ。従いなさい」


 アイルはその場で膝をつくと、かしこまりました、と返事をした。


***


 王には、マヤが突然急病に罹り、意識を失ったためこの度の戦いには参加できないと伝えられた。

 王と兵士達は報告を聞き、大いに落胆した。

 勇者は国を救う一縷の望みだったのだ。

 負けるかもしれない。 

 負ければ国が滅びる。

 が、勇者の力を頼みにせず自分達の力で戦うしかないのである。

 兵士達は、まさに必死の覚悟で戦場となるであろう城壁外へ向かうのであった。

 南門には、沢山の兵士が列をなしていた。

 竜使いである騎士・レッドベリーは草むらの上で大胆に胡座をかき、瞑想していた。

 竜を操るための精神統一である。


 そして、ついにその時がきた。

 南の方角から、ずしん、ずしん、ずしん、と地響きが鳴り響く。

 兵士達は恐怖した。

 来るな、立ち止まってくれ、と祈った。

 しかし、そんな事は関係ない。

 それは徐々にこちらへ近付いていた。

 何かとてつも無く大きなものが、ゆっくりと、歩いてくるのが分かった。

 兵士達は息を呑んだ。

 各々の武器を構え、待つ。

 ずしん、ずしん、ずしん

 それが近づくにつれ、地面の揺れが大きくなる。

 兵士達は今までに感じたことのない恐怖心を呑み込みながら、南の方角を見つめていた。


 「…あ、あれは……」


 誰かが、わなわなと震えた声で、呟いた。

 その瞬間、兵士達の中から絶叫が上がった。


 「あ、あ、あんな恐ろしいものが……」

 「あ…あ…死ぬ……」


 兵士達は、恐怖に慄き、口々に絶望の声を上げた。

しかし、逃げる者は一人としていなかった。

 レッドベリーは瞑想をやめ、かっと目を見開いた。

 その瞳に映ったのは、真っ赤な甲羅に蛇のように長い首を持ったトカゲのような生物であった。

 レッドベリーがボソリと言った。


 「竜だ…」 


 普通の竜ではない。

 城よりも遥かに大きく、その頭は雲にも届くのではないか思われるほど巨大である。

 サラマンダー…伝説の四大精霊のうち、火を司るとされている竜である。

 何故、そんなものが我々の国を潰そうとしているのか。

 いやサラマンダーには、理性がないと言われている。 

 だから、サラマンダーの進行方向にたまたま国があっただけで、これは恐らく災害だ。

 レッドベリーは思考した後、ぐっと己の竜の模型を握った。 

 正直、勝機はない。

しかし、戦わなくては国が滅びるのである。

 レッドベリーが覚悟を決めた次の瞬間、恐ろしい事態が兵士達を襲った。

 サラマンダーが突如として口を大きく開けたのだ。

 そしてそこから、巨大な火球が放たれた。

火球はこちらへ向かってくる。

 魔術を扱う兵士たちが、咄嗟に杖を構え巨大な防御陣を張った。

 しかし、火球はそれをどこ吹く風と吹き飛ばす。

兵士たちに直撃した。

 ドカーンと大きな爆発音が鳴り響く。

 地震かと思うほど、地面が大きく揺れた。

 恐ろしい攻撃であった。

 レッドベリーは火球からは逃れたが、爆風に飛ばされ、背中を強打した。


 「……くそ」


 呻き声を上げながら、体を起こす。


 (何だあの攻撃は。ーー兵士達は…)


 右の方へ目線を向ける。

 その瞬間、血の気が引いた。

 先程まで多くの兵士がいた場所が、焦土と化していたのだ。

 今の攻撃で、数千いる兵士達の少なくとも五分の一は死んだであろうことが容易に推測できた。

 レッドベリーは、正気を失いそうになった。

 が、ギリギリで意識を留める。

 そして、キッとサラマンダーの方へ視線を向けると、強く言い放った。


 「…必ず…必ず倒す!」




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