特訓
モアイ像事件は、すぐに城中に広まった。
五日後にレッドベリーとマヤが決闘をすることは周知の事実となっていた。
翌日、マヤは城内にある広場で、アイルから魔法の特訓を受けていた。
最初に教わったのは、強化魔法だ。
体内の魔力を体の一部に送り、力を増幅させ、人並外れた身体能力を実現させる。
「では勇者様。今言った通りやってみて下さい」
「はい、えっと…」
マヤは、体内にうごめく大量の魔力をアイルに教わった通りに感知し、それを脚へ送った。
「そうです、そうです。ではそのまま飛び跳ねてみましょう」
「はい!」
じゃんぷ!
マヤが脚に力を入れ、精一杯踏み込むと、ピョーンと体が宙に浮いた。
(わあ、すごい…)
マヤの小さな体はどんどんと天高く登っていき、気付くと地面から三〇メートル程離れていた。
(すごい…高い…でもこれ………)
一定程度まで上がると、今度は急激な落下運動。
マヤの体は地面に向かって一直線に落下した。
「わわわわ、死ぬううう」
ひんっ…!と泣きながら胎児のように体を丸めた。
(人生終了しちゃううう)
地面に叩きつけられるかに思えたその時、マヤの体がぴたりと停止した。
「え…?」
マヤの体は青い炎に包まれ、地面スレスレの場所で浮いていた。
「僕が得意な炎魔法です」
ニコニコと優しい表情を浮かべるアイル。
マッチ棒を片手にマヤの前にしゃがみ込んだ。
「落ちて死ぬかと思いました…」
ひぃんと情けなく泣くマヤに、アイルはふふふと笑った。
「それにしても、さすがの魔力ですね。初めてなのにここまで脚力を強化出来るとは。調整が難しいな」
「ありがとう…ございます…?」
褒められてるんだよね、とマヤは心の中でと自問した。
「これだけ魔力が多いと制御も大変ですね。訓練あるのみです」
アイルは、ニコッと無邪気な笑みを浮かべた。
「一緒に頑張りましょう!」
「はい…」
落下運動の反動で、マヤの目は未だにクラクラと回る。
マヤが体の揺れを止めようと踏ん張ると、カキーンと何か小さな金属が落ちる音が聞こえた。
(なに…?)
音の方を見ると、アイルの真下に小さな金色の鍵のようなものが落ちていた。
「アイルさん、落し物…」
マヤがそれを拾おうと手を伸ばしたところで、突然アイルがその手首をがっと強く掴んだ。
「…? あの、鍵が落ちましたよ…」
「教えてくださってありがとうございます。自分で拾うので大丈夫ですよ」
「…はい」
普段からアイルは紳士風の穏やかな笑みを浮かべている。
だがこの時だけは何だか違った。
口元は笑っているが、目が、鋭く光っている。
マヤは不審に思いながら鍵を拾うアイルに尋ねた。
「その鍵、すごく大事なものなのですか?」
アイルは鍵を拾い懐に仕舞うと、ニコリといつもの笑顔に戻った。
「気になりますか?」
ーーファンタジーの世界。
ーー美少年魔術師が大事に持つ謎の鍵。
マヤの好奇心を刺激しないはずがない。
マヤはホクホクと頬を林檎のように赤く染めた。
「は、はい…すごく」
アイルはそれを聞くと、楽しそうに微笑した後、ぴとりと人差し指を口に付けて言った。
「そうですか。では六日後、悪魔を無事に倒せたら教えてあげますよ」
それから、魔法の特訓は夜まで続いた。
強化魔法に続き、魔力放出、防御魔法など、戦闘に使用する様々な魔法を教わった。
アイル曰く、マヤは魔力の量もさながら、魔法の才能も凄まじいく、呑み込みがかなり早いらしかった。




