89話
今日も朝から人が多いでござるな。祭りも最終日でござるからな、人が集まってくるのも無理はないでござるか。拙者も大会に出るためにこんなに朝早くから祭りに来ているのでござるからな。
「冒険者ギルドに行かないといけないでござるからな。早く向かうでござるよ」
昨日の調子でござるのなら、マリリンは既に冒険者ギルドについて手伝いをしているかもしれないでござるからな。拙者が早く言ったところで待つことはないでござろう。
それにしても、今日の大会はどんな冒険者が出場するのでござるか? Sランク冒険者も結構出場してくれればいいのでござるが、拙者と当たる前に負けてしまっては意味がないでござるしなぁ。あまり多くても潰しあいになるだけでござるか。
「いくら来ても拙者の相手ではござらんよ。全員ぼこぼこにしてやるでござる!!」
当然の事実を口に出して決意表明をするでござる。
こういうことは口に出しておかなければ意味はないのでござるよ。
「ママァ、あのお兄さん何か叫んでる。何かあったのかなぁ?」
「ダメよ。あれはきっと頭がおかしくなっているの。良い子は見ちゃいけません。こっちに行くわよ」
「ええぇー、きっと面白そうなことをしてると思ったのにぃ……」
声のしたほうをチラッと見ると、子ずれの女性に目をそらされたでござる。
朝一から赤っ恥でござるよ。
何て恥ずかしいことをしてしまったのでござるか。なんで、人が大勢いる大通で叫んでしまったのでござるか? もうこれは目撃者をすべて消し去るしかないでござるな。拙者は本気でござるよ。
「おお、あんたも今日の大会に出場するのか?」
今度は逆から声をかけられる。
振り返ると、槍を持った男の冒険者が立っていた。
軽そうな鎧をつけているところを見ると、スピードを重視するような戦闘スタイルなのでござろうか? それとも、単に金がなくて鎧が部分的になっているのでござるか?
「そうでござるよ。拙者に何かようでござるか?」
「やっぱりそうか。全員ぼこぼこにするとか叫んでたから絶対にそうだろうなと思ったんだよ。随分、自信満々だよな。俺なんて昨日は緊張で全然寝れなかったんだから。その心臓が羨ましいぜ」
こいつにも聞かれていたのでござるか。仕方あるまい、まだ大会は始まっていないでござるがここでこいつは始末するしかないでござるかな。
「俺はケロム、Aランク冒険者なんだ。えーと、あんたは?」
Aランク冒険者でござるか。見た目は大した事なさそうな感じが漂っていたでござるから、てっきり低ランク冒険者かと思ったでござるよ。人は見かけで判断してはいけないのでござるな。
「拙者は武士でござる。ランクはBでござるが、実力はSランクでござるよ」
「タケシって言うのか。一つだけ忠告をしておいてやるが、Sランク冒険者と当たってしまったときは死にたくなかったら棄権するんだ。Bランク冒険者じゃ、死んでしまう可能性すらあるからな」
「聞いていなかったのでござるか? 実力はSランク冒険者だといったでござろう。むしろ、拙者と当たった奴らが全員棄権しないと危ないくらいでござるよ」
「自信もそこまで来ると、暗示みたいなレベルだな。どこまで自分を信じているのかわからないが、Bランク冒険者がSランクの実力を持ってるなてありえないことだ。もう少し自分を見つめなおしたほうがいいと思うぞ」
話の通じない奴でござるな。拙者はまだ冒険者になって数日なんでござるぞ。
実績が足りずに、Bランク冒険者に甘んじているでござるが、実力はSランク冒険者すら凌駕しているでござるからな。冒険者カードのステータスでも見ればこいつも信じるのでござろうか? しかし、拙者が初めてあったこいつのためにそこまでする義理なんてないでござるな。こいつが信じようが信じまいが拙者には何の支障もなかったでござるよ。
「今日の大会を見ていれば自分の間違いに気が付くことでござろう。精々、拙者と当たらないことを祈っておくといいでござるよ」
「はぁ、わかったよ。タケシも頑張れよ。対戦することになったらお手柔らかに頼むぜ。それじゃあ、お互い決勝トーナメントに残れるように頑張ろうぜ。また会場でな」
それだけ言うと、ケロムは走り去っていったでござる。
走り方も凄い弱そうな雰囲気が漂っていたでござるな。あれは、Aランク冒険者でも最弱の部類でござろう。まだドデカの方が強そうでござるよ。
「あいつは何がしたかったのでござるか? 拙者の実力を確かめに来たのでござるか? それにしては、あっさりどこかへ行ってしまったでござるな。あ、そうでござった!! あいつにも聞かれていたのでござった。くそぉ、逃がしてしまったでござるよ」
もし対戦するようなことがあれば、記憶を失う程度に頭を殴ってやることにするでござるよ。
無駄な時間を使ってしまったでござるな。早く冒険者ギルドに行かないと、マリリンが待っているかもしれないでござるよ。
拙者は冒険者ギルドに向かって走り出した。
もうこの町の地図は頭に入っているでござるからな。迷うことはないでござるよ。




