85話
「私は冒険者ギルドで働いてますけど、戦闘力はまったくないんですからね。か弱い女の子なんですよ」
「それなら素直に最初から言うべきでござろう? 無駄にからかってくるのが悪いんでござるよ」
「それは……ちょっとした出来心ですから。ほんとに思ってて言ったわけじゃないですって。嬉しかったんで照れ隠しでつい言ってしまっただけです」
照れ隠しとは可愛いやつでござるな。今言っていることが真実という保証はどこにもないでござるが、これ以上引っ張るのも可愛そうになってきたでござる。これくらいは大量に奢ったでござるし、許されて当然でござろう。拙者の持ってきていた金がほとんど消滅してしまったでござるからな。およそ、祭り程度では使い切ることができない量を念ため持ってきておいてよかったでござるよ。途中で金が尽きて、奢れませんは拙者としても恥ずかしかったでござるからな。
「反省しているのでござるか?」
「もちろんです。夜道を女の子一人で歩くのは危ないですからね。最強の冒険者であるタケシさんに送ってもらうのが最も安全だと考えています」
「わかっているでござるな。その通りでござるよ。拙者に勝てる存在などいないでござるから、拙者がそばにいれば安全は約束されたようなものでござる。何が起きても平気でござるよ」
「心強いです!! では、送ってもらってもいいですか?」
ちょっとおだてられた感じが否めないでござるが、拙者も送ってやるつもりでござったからな。別にマリリンに乗せられたわけではござらんよ。
「仕方ないでござるな。拙者が送ってやるでござる」
「ありがとうございます!!」
マリリンは笑顔を浮かべ、本当に嬉しそうにしているでござるな。
これは流石に本心であると信じたいでござるよ。これも偽物でござったら、拙者は自分の目すら信じられなくなってしまうでござる。
「私の家は、北のほうですのでこっちです。貸家の一室を借りてますのであまり広くはありませんがなれると案外悪いものでもないんですよ」
マリリンの家の詳細情報など興味はないでござるな。
拙者には既に最強の宿があるのでござるから、よっぽどのことがない限り移動しよう何て考えにもならないでござるよ。ここを捨てるときは、拙者が追い出される時だけでござるな。それほどに気に入っているでござるからな。
「拙者は道がわからないでござるから、そこは頼むでござるよ」
「タケシさんは、まだ町の地図は覚えられてないんですか? そろそろ、頭に入れておいたほうがいいと思いますよ。どこに何があるか覚えていないと不便なことが多々ありますからね」
「機会があったら覚えるとするでござるよ。今のところは必要になっていないでござるからな。本当に必要にならないと覚えられない質なのでござる。マリリンも少しはわかるでござろう?」
「今やらなくてもいいことはついつい後回しにしてしまいますよね。ですが、私は後回しにせずにすぐやるように心がけているんですよ。どうですか? 偉いですか?」
何とも得意気な表情でござるな。
まるで拙者に勝ったような雰囲気を出しているでござる。拙者の弱点でも見つけた気になっているのでござろうか。拙者は戦闘だけでなく、頭も超一流ということを今度披露しなければならないでござるな。その自身をへし折ってやるでござるよ。
「町の地図など、その気になればすぐに覚えられるでござる。特に急く理由もないのでござるよ」
「すぐに覚えられるというのならその通りにすればいいじゃないですか。後回しにする意味はありませんよね? 強がってるだけなんじゃないですか?」
「フッ、安い挑発でござるな。その程度のことで拙者の精神を揺さぶろうなど無理なことでござる。しかし、マリリンに舐められたままというのも癪でござるし、今度地図を持ってきておいてくれでござる。すぐに覚えて拙者の記憶力の良さに度肝を抜かせてやるでござるよ」
「それは楽しみですね。この町は結構大きいのですぐに覚えるのは大変だと思いますが頑張ってくださいね。できなくても私はタケシさんのことを笑ったりしませんので、緊張せずに挑んで大丈夫ですよ」
これも拙者の頭脳を知らないからこそ言える戯言でござるな。
残念なことにマリリンは拙者の万能さに打ちひしがれてしまうことでござろう。拙者に勝てるのは大食いだけだということを理解してしまうことになるのでござろうな。可愛そうに。
「あ、ここは右です」
「随分と細い道でござるな。マリリンはこんな狭い路地に住んでいるのでござるか?」
「しょうがないですよ。どうしても安い物件となると場所は限られてきますからね。これでも、割といいほうなんですよ」
「そうなのでござるか」
金のあるないは残酷でござるな。
拙者ほどの稼ぎがあれば、このような場所には絶対に済むことはないでござろう。もっと、豪華で素晴らしい宿がたくさんあるでござるよ。マリリンにも一度拙者が泊っている宿を体験した欲しいものでござるな。しかし、手の届かない場所を体験させるのも酷というものでござるかな。




