84話
「いくら食べても終わりが見えませんね。嬉しくてたまりません。まだまだ食べてないものがありますからね」
「終わりが見えなくて喜んでいるのはマリリンだけでござるよ。拙者なんて絶望させられているのでござるからな。これ以上まだ食べるつもりなのでござるか?」
お昼の比ではないでござる。この調子で食べ続けるのでござれば、拙者の金は消滅し、祭りの出店を制覇してしまうかもしれないでござるよ。目の前で起こっていることがまるで違う世界のことのように思えて仕方ないでござる。食べたそばから消化しているとしか考えられないでござるよ。本当にどうかしているでござる。これは、スキルの恩恵でござるよな。きっとそうでござるよな。
「マリリンはおかしいと思わないのでござるか? 自分の体のどこにそんな量の食べ物が入るところがあるというのでござるか?」
「深く考えても解決しませんよ。現に私は食べ続けているわけですからね。どこに消えて行っているかなんてわかりません。私の胃袋は文字通り底なし何ですよ」
「ありえないでござる。もういっそ、スキルが関係していると言ってほしいでござるよ」
「スキル? あ、もしかしたらその可能性はあるかもしれませんね。私は冒険者ではありませんので、冒険者カードを見たことがありません。食べることに関するスキルを持っていても不思議ではありませんね」
そうでござるよ。この意味わからない現象を説明できるすればスキルしかないでござる。
無限食べ放題とかのスキルを持っているのでござろう。でなければ説明ができないでござるよ。
「もしスキルの力だったとしたら少し残念ですね。私自身の力だと思っていたことが、実はスキルによるものだったと言うことになってしまったら悲しいですよ」
「スキルも自分の力のうちでござろう。そんなことを言ったら拙者のスキルも同じことになるでござろう。拙者のスキルは確かに強力でござるが、それだけではござらんからな。拙者は素でも強いのでござるよ」
「そういうものなんですか? 私にはわかりませんね」
スキルは自分自身の力でござるよ。拙者の場合はじいさんから貰った力でござるから、純粋に自分のものかと言われると少し戸惑ってしまうでござるが、拙者が手に入れた時点でこの力は拙者のものでござるよ。ほかの誰のものでもござらん。
「スキルが自分の力ではないというのでござったら、冒険者たちの大半は自分のものではない力で戦っていることになってしまうでござるよな。それはおかしいでござろう。Sランク冒険者ともなれば、強力なスキルを有しているはずでござる。それも自分の力ではないのでござるか?」
「いえ、それはSランク冒険者の方の力ですよ。タケシさんの言う通りですね。スキルは自分の力ということを認めます。私はこの食欲の正体がスキルだったとしても自分の力だと誇りを持つことにします」
「しかし、マリリンは自分でおかしいと思わなかったのでござるか? 会って数日の拙者ですら明らかにおかしいと思うでござるよ。もっと早くに気が付いてよかったと思うのでござるが……」
「そういわれてもですね。昔からお腹いっぱいになったことはなかったですし、大抵の場合は途中で満足しますからここまで食べたのは生まれて初めてですよ。私自身、ここまで食べれるとは思ってませんでしたしね。いくら食べても満腹になる気がしません」
拙者ははじめから勝機のない戦いに身を投じていたのでござったのか。
ここで指摘していなければマリリンは祭りの店を完全制覇してしまうところでござったな。これで、自分のことを理解して自重してくれるはずでござるよ。これで、何とか被害を最小限に留められたのではござらんか? これ以上甚大な被害を被る前でよかったでござる。
「タケシさんの言う通りだったら、これ以上食べ続けても終わりは見えませんね。時間の許す限り食べ続けることになってしまいますよ。流石にそれは申し訳ない気持ちになってしまいますね」
「わかってくれたでござるか。ありがとうでござるよマリリン。拙者のメンタルも金もギリギリのところでござったよ。今日持ってきていた金もほとんどなくなってしまったでござうからな」
「そうとう奢ってもらいましたからね。こちらこそありがとうございます。私はこのあたりでご馳走様しようと思いますが、タケシさんはもう大丈夫ですか?」
「もう食べ物も見たくないでござるよ。拙者は大丈夫……ではないでござるな。限界を超えてしまっているでござる」
とっくの昔に拙者の胃袋は限界を迎えているでござるよ。
少し回復した程度で喜んでいた自分が恥ずかしいでござる。一瞬でマリリンにはついていけなくなってしまったでござるからな。ペースも量もおかしいのでござるよ。
「気が付けば結構いい時間になってますね。もう9時前ですか。タケシさんは明日の大会もありますし、今日のところはこのあたりで解散しておきますか」
「そうしてもらえると助かるでござるよ。拙者は明日にこの疲れを残したくないでござるよ」
「わかりました。それじゃあ、また明日同じ時間に冒険者ギルドにお願いしますね。大会会場へ案内しますので」
「あ、待つでござるよ。家まで送るでござる。もう時間も遅いでござるし、危ないでござるよ」
「ありがとうございます……もしかして、送るふりをして私の家の場所を覚えようとしてるんじゃないですか?」
「また明日でござる」
「ちょっと待ってください。冗談ですよっ、冗談。ごめんなさい。どうか送ってください」
無駄にからかうことを覚えて、悪い子でござるな。




