73話
今朝もまだ朝早いというのにかなりの人が歩いているでござるな。
昨日は祭りの初日で盛り上がってしまって浮かれているのだとばかり思っていたでござるがまさか今日もこの調子とは恐れ入ったでござるよ。流石はなんとか祭でござるな。国を上げて行う祭りなだけあるでござるよ。
「この時間から出店も営業しているとは商魂たくましいでござるな。拙者でももう少し遅くスタートするでござるよ」
拙者の世界では朝早くから開けていたところで訪れる人は少なかったでござろう。祭りに行ったことはないので勝手な予想でござるが、間違ってはいないはずでござる。
それにしてもなんでこんな朝から店を開けているのでござるか? この世界では祭りで朝飯を食べるのが基本なのでござろうか? でも、それならば女将さんが気を使って一言言ってくれているはずでござる。なにも言わずに朝飯を用意してくれていることを考えるとそれも違う気がするのでござるよな。何かほかに理由があるのでござるか? それとも、単にこの世界の人は早起きなだけなのでござろうか。
「マリリンに聞いてみればいいでござるかな。拙者が考えたところでわかるわけもないでござる。時間を無駄にするのはダメとか言っておきながら自分自身で時間を無駄にするところでござったよ。危ないでござるな」
祭りで出店に並ぶ人たちを、眺めながら拙者は冒険者ギルドへ向かう。
このまま行っても時間より早くついてしまうでござるが、時間を潰す場所もないでござるし仕方がないでござるな。
「いやー、朝の冒険者ギルドは人が少なくていいでござるな。いつもこれくらいでござったら拙者も楽なのでござるが」
祭りの影響もあるのかもしれないでござるが、冒険者ギルドのなかはガラガラで拙者の貸しきりでござる。今のところは職員さんと拙者がいるだけでござる。朝早くからお勤めご苦労様でござる。
「あれ? タケシさん? もう来たんですか? 約束の時間にはまだ大分ありますよね?」
冒険者ギルドのロビーの奥にある部屋からマリリンが出てきたでござる。
マリリンも早く来ていたのでござるな。
「早く目が覚めてしまったので、仕方なく来たのでござるよ。二度寝して寝坊したら目も当てられないでござろう?」
「それはそうですね。遅刻なんかしたら私が怒っていたところですよ。命拾いしましたね」
「いささか大げさでござるな。拙者は寝坊しただけで命の危険にさらされないといけないのでござるか? 横暴でござるよ」
「例えですよ。本当にそんな仕打ちをしようだなんて思っていませんから。でも、遅刻されてたら怒っていたのは事実ですので早く来てもらえて嬉しいです」
時間よりも早く現れた拙者にご満悦のようで何よりでござるな。
わざわざ朝早くから冒険者ギルドに来た半分くらいは報われたかもしれないでござるよ。
「マリリンこそ時間にはまだ余裕があるでござるが一体どうしたのでござるか? 拙者との祭りが待ちきれずに気持ちがはやってしまったのでござるか? 照れるでござるなぁ」
暇でござるし、少しからかってみるとするでござるよ。マリリンならきっとリアクションしてくれるはずでござる。
「タケシさんの名誉のために、そういうことにしておきたいのですが、私は今日お休みをいただくのでせめて朝の時間くらいはお手伝いしようと思っただけです。早起きにはなれていますから」
「残念でござるよ。拙者がぬか喜びしていただけなのでござるな。マリリンは拙者の心を弄んだでござるよ」
「冗談を言っているような雰囲気ですけど、本気で言ってますか? 適当なことを言っているとそのうち罰が当たりますよ」
「悲しいでござる。拙者の気持ちはマリリンには通じていないのでござるな」
雰囲気で嘘かどうかを見抜くとはやるでござるな。しかし、拙者も負けないでござるよ。何としても信じさせてやるでござる。こうなったら意地でござるよ。
「はぁ、タケシさんは嘘をつくのが苦手なんですね。正直なことはとてもいいことだと思いますよ」
「なんで信じてくれないのでござるか? 拙者はマリリンと今日祭りを回るのを楽しみにしていたのでござるよ!!」
「ありがとうございます。ですが、大げさに反応していますよね? ここまで感情を出すほどではないと私は予想しています」
本当に鋭いでござるな。まるで拙者のいうことは全部作り話のような感じでござる。取り付く島もないとはこういうことを言うのでござるな。やるではござらんかマリリンよ。
「もうやめましょう。私も今日は楽しみにしていましたから。いつもは一人で回っていたお祭りが今日はタケシさんと二人で回れます。先輩の私がいろいろ教えてあげますね。対価は屋台の食べ物でいいですよ」
「拙者はマリリンに奢ることになっているのでござるか? まあ、いいでござるよ。昨日と一昨日で大分稼いだでござるからな。それで、マリリンはまだ仕事をするのでござるか?」
「どうしましょうか。せっかくタケシさんが早く来てくれたので私も切り上げて祭りに向かいますか」
「拙者待つのは苦手でござる」
「わかりました。少しだけ片づけをしてくるので待っていてください」
それだけ言うとマリリンは出てきた部屋に戻って行ったでござる。




