72話
「……ふぅ、今日も気持ちのいい朝でござるなぁ」
布団から起き上がり、伸びをしながらつぶやく。
窓を覆っていたカーテンを開け、日光を浴びる気持ちよさがたまらないでござるな。これだから早起きはやめれらないでござるよ。
「それで、今は何時くらいでござろうか? 拙者の感覚からすると7時くらいだと思うのでござるが……」
意識を覚醒させながら、部屋においてある時計を確認する。
拙者の言った通りちょうど7時でござるな。太陽の位置を確認すれば時間など一目瞭然でござるよ。この精度であれば時計なんて必要ないでござるな。太陽がもはや時計でござるよ。
「少し早く起きすぎてしまったでござるな。このまま準備して宿を出たら随分早くついてしまうでござるよ。二度寝でもするべきでござるか?」
拙者も二度寝というものにあこがれを抱いているでござるが、実際にしてしまって寝過ごしたなど武士としてあるまじき行為でござる。切腹するしかなくなってしまうでござるな。
寝るのではなく、部屋でゆったりと過ごしておくとするでござるかな。何も考えずにまったりするのもリラックスできていいでござろう。
「まあ先に朝飯をいただいてからでござるな。拙者も起きたばかりとはいえ、腹が減ったでござるよ」
空腹を訴える自分の腹と相談しながら先に朝飯を食べたほうがいいという結論へ至るでござる。
別段難しいことでもないでござるな。腹が減っているのでござるから飯を食う、ただそれだけでござる。
「早速、女将に朝飯を用意してもらうとするでござるか」
今日の朝飯は何でござるかな。出てくる前から楽しみで仕方がないでござるよ。
朝飯を食べ終わり、気持ちのいい満腹感に身を任せ部屋でゴロゴロしてしまうでござるな。
「うまい飯を食ったらゴロゴロするのは人間の本能でござるよ。拙者が武士とはいえ、人間本来の本能は耐えがたいものでござる」
誰に言い訳をしているのか謎ではござるが、拙者が欲に負けて、ゴロゴロしているのではないことはわかってもらわなければならないでござるからな。これを仕方のないことなのでござるよ。
しかし、飯を食べ終わってもまだ8時前でござる。昨日考えていた通りこの宿を9時過ぎに出るようにしておけば余裕を持って冒険者ギルドにつくことができるでござる。準備に少し時間がかかることを考慮しても一時間近い時間が暇な時間として残されてしまっているでござるな。こういう時に話し相手でもいれば違ってくるのではござろうが、生憎とそういう相手はいないのでござるよ。それに、ここは宿の一人部屋でござる。居たとしても、部屋が違うから話すのは無理でござるな。拙者が友達がいないとかそういうわけではないのでござるよ。
「暇な時間はつらいでござるな。これならば、まだ冒険者ギルドでクエスト達成報告の列に並んでいるほうがマシでござる。こっちは何を得られるわけでもない本当に無為な時間でござるからな。時間を無駄にすることを嫌う拙者にしてみれば耐えがたい苦痛でござるよ」
本当に二度寝をしていればよかったのでござろうか。確かに、二度寝を初めてするという充足感と、疲れをいやすという2段構えのメリットがあったでござるが、寝過ごすかもしれないという見過ごすことのできないデメリットが存在していたでござるからな。適当に二度寝するわけには行かなかったのでござるよ。
「もう無理でござる。部屋でゴロゴロしているくらいなら冒険者ギルドに行ってクエストでも眺めながらマリリンを待つほうがまだいいでござる。よし、そうと決まればもう支度をして宿を出るでござるか」
ここで待つ作戦から冒険者ギルドで何かしながら待つ作戦へと変更するでござる。
同じ待つにしても何も得られない、することがない待つと、冒険者としての知識が身につく待つであれば当然後者を選ぶでござろう。
「持っていくものは……特にないでござるな。少しだけ金を持っていけば後は何もいらないでござろう」
何万ゴールドかが入った袋をポケットに入れ、冒険者ギルドに向かうべく部屋を出た。
「あら、お客様こんなに早くからお出かけですか? 今日もクエストに行かれるのですか?」
「女将でござるか。今日は違うのでござるよ。ちょっと祭りを一緒に行かないかと誘われてでござってな。約束の時間より早くなっていまったでござるが、部屋にいても何もすることがないでござるからもう向かうというわけでござるよ」
「それは羨ましいですね。私も祭りに行きたいところですが、ほかの町からたくさんの人が訪れる繁忙期に旅館を開けるわけには行きませんからね。今日は楽しんできてくださいね」
「拙者もそのつもりでござるよ。女将の分まで楽しんでくるでござるからな」
祭りに行きたくてもいけない女将はかわいそうでござるが、それも仕事でござるから仕方がないでござる。拙者だって金がなかったら今頃クエストに向かっていたのでごるからな。そう考えると、拙者はこの世界に来てからかなりついているといってもでござるな。大抵のことがうまくいっていて怖いでござるよ。
「行ってらっしゃいませ。私のことは気にせずに楽しんできてください」
「ありがとうでござる。それじゃあ、行ってくるでござるよ」
女将に手をふり、宿の玄関から出ていく。
これで後は冒険者ギルドに向かうだけでござるな。本当に時間が早すぎるでござるよ。ちょっと寄り道していくでござるか? 先に一人で店を回ったなんてマリリンにばれたら怒られそうな気がするでござるな。拙者も一緒に行くと約束していたやつが一人で満喫しているのを目撃してしまったら嫌な気持ちになるでござるよ。
ここは、冒険者ギルドでおとなしく待つしかなさそうでござるな。




