71話
拙者も冒険者ギルドでの用はすべて済んだでござるし、今日のところは撤退するとするでござるかな。
仕事へ戻っていくマリリンの後姿を見送りながら、拙者も帰ろうと方向転換を仕様としたとき、急にマリリンがこちらを振り返り走ってきたでござる。
「すいません、忘れてました。明日の集合場所なんですけど、まだタケシさんはこの町に不慣れだと思いますのでここにしましょう。時間は9時でどうですか?」
「拙者も失念していたでござるよ。わかったでござる。明日の九時に冒険者ギルドでござるな。心得たでござる」
「遅刻したら怒りますからね。それじゃあ、今度こそまた明日です」
仕事へ戻っていくマリリンを見送り、拙者も冒険者ギルドから出て行った。
「明日はマリリンと祭りでござるか。拙者がこんなことに時間を使うなんていつぶりでござろうか? そもそも、前世で修行以外に遊んだりした覚えがないでござるな」
自分自身でも過剰だったと思ってしまうほどのハードワークでござったからな。
この世界とは違い修行をしたところでレベルが上がるわけでもないのに、よくあれほど頑張っていたものでござるよ。少しずつ上達していてはいたのでござるが、どうしても己の限界というものがちらついてしまっていたでござるからな。それに比べてこの世界ではまだまだ限界を知らないでござるよ。毎日が楽しくて仕方がないでござる。
拙者の力はまだまだ上がって行くでござるよ。一度転生した拙者に死角はないでござる。
そんなことを考えながら、宿の方向へ向かって歩いていく。
「やはり、人が多いでござるな。出店も出ているでござるし、これが祭りというものでござるか」
実際に祭りに行くのは初めてでござるからな。伝え聞いた話ではいろいろな食べ物が普段よりも高い値段で売られているというでござるが、本当なのでござろうか? 拙者であれば値段が上がっているようなものを買うなんて考えられないでござるよ。
「夕飯をここで済ませていくのもいいでござるが、どうせ明日マリリンと回ることになるでござるしなぁ。楽しみは取っておくべきでござるか?」
ここで一人で楽しんでは明日に響きそうでござる。
マリリンがあっちの店に行こうといってきたときに今日実は一人で行ってたとなれば、拙者も心から楽しむことはできないでござる。そこは昨日も言ったでござるなと心の中で思うことになってしまうでござるよ。そんなことをしてはマリリンに不義理でござるな。今日はいつものうまい宿の飯を食べることにするでござるか。結局宿の飯が最強であることはゆるぎない結論でござるからな。
出店に並ぶ大勢の人たちを視界に映しながらも拙者は一人宿への帰り道を急いだでござる。
「今日の飯も最高でござったな。本当に高い金を払っているのがどうでもいいと感じてくるほどでござるよ」
夕飯を食べ終わり満腹になった拙者は部屋でゴロゴロとしている。
本来ならば食後に修行をするところなのでござるが、この世界に来てからというものめっきり普段の修行をしていないでござる。それも、冒険者としてクエストをこなすほうが何倍も効率的だと気が付いてしまったからでござるよ。
ここで修行をしたところでレベルが上がることはないわけでござる。しかし、クエストでモンスターを討伐すれば実戦経験と同時に経験値を手に入れ、レベルまで上がってしまうのでござる。普段通り真面目に修行をするのが馬鹿らしくなるでござるよ。レベルアップすれば、何日分の修行をしたよりも大きな成果があるかなど想像もつかないでござる。それほどまでにレベルアップは強烈なものなのでござるよ。現に拙者の身体能力は前世で修行に励んでいたころよりも数倍、いや数十倍以上に向上しているでござるからな。変に体力を削ってクエストに支障が出るほうがよほど問題でござるよ。
「明日は遅れるわけにも行かないでござるし、今日のところは風呂に入って早めに寝ることにするでござるかな。九時に集合といっていたでござるから、ここを8時過ぎに出れば余裕を持って到着できるでござるかな」
風呂へ入るために一階にある大浴場を目指した。
「風呂はやはり疲れを吹き飛ばしてくれるでござるなぁ。もちろん、ここの風呂がいいものだということもあるのでござろうが、一日の疲れを癒してくれるでござるよ」
風呂に入ってすっかりご満悦でござるが、大浴場へ行くと、あのストーカー男のことが頭の隅をちらつくのでござるよな。のぼせて湯船に浮かんでいるところを無視して出てきたでござるから運が悪ければ窒息して死んでいるのでござるが。そういう話は出てきていないのでござるよ。ならば、どうにか助かっているのでござろうが、拙者に何もコンタクトしてこないのが不気味でござるよな。あれだけ弟子にしてくれとか言ってきていたでござるに、まあ、関わらないで済むというのであれば拙者はそっちのほうがいいのでござるがな。
「いいでござる。あんな奴のために思考を使うのはもったいないでござるよ。もう寝るでござる」
気分を切り替え、布団に入った。




