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30話

「……武士の情け!! ……おう? もう朝でござるか……」


 すさまじい大激戦を繰り広げている最中に意識が覚醒したでござるな。まあ、拙者は夢だとわかっていたでござるが、それでも負けるわけには行かないでござるからな。1対100の多勢に無勢の理不尽な戦場でござったが、どうにかこうにか80人ほど殺していたのでござるがな。もう少し夢を見ていれば、全滅させてやっていたところでござるのにまったく空気が読めないものでござるな。


「いいイメージトレーニングにはなったでござるな。こんな大勢の人間を相手にすることなんて滅多にないとは思うでござるが、万が一にも備えておくのが武士というものでござるよ。いついかなる状況にも対応してこそ一人前の武士でござる」


 拙者はすでに一人前の武士ではあるのでござるが、向上心は捨ててはいけないでござるからな。どこまででも高みを目指して修行をしてこそ、拙者の人生は輝くというものでござる。


 しかし、目が覚めてしまったのはいいのでござるが、今が何時なのかわからないでござるな。この世界には時計がないのでござるか? 拙者レベルになれば、太陽の位置さえ確認できれば時間なんてすぐにわかるでござるが……今日のところはやめておくでござるかな。


「まずは、朝飯でござるな。また受付の女将に言えばいいのでござるかな。それに今日は冒険者として金を稼いでこないといけないでござるよ。この宿の宿泊料はつけになっているでござるからな」


 一日の計画建ては一旦おいておいて、まずは朝飯でござるな。

 腹が減っては戦はできぬという名言が残されている通り拙者も空腹では発揮できる力が半減してしまうのでござるよ。もちろん、そうならないよう修行しているから実際のところは三日くらいは何も食べずとも問題はないのでござるが、100パーセントのパフォーマンスを出そうと思うと、当然飯は食べるべきでござる。


「時間になったら料理が運ばれてくれば楽なんでござるがな。まあ、ほかに宿泊客もいるでござろうから、一人一人の部屋に届けるのは難しいでござるかな。拙者は待つのは嫌いでござる。自分からいったほうが早そうでござるな」


 とりあえず、洗面所で顔を洗い、歯磨きを済ませる。

 この世界にも歯ブラシが備え付けられていてよかったでござるな。拙者は朝歯を磨かないと気持ち悪い質なのでござるよ。


「これで準備完了でござる。武士たるもの、身だしなみにはそれ相応に気をつけなければいけないでござるからな」


 しっかりと外へ出る準備を終え、女将がいるであろう受付を目指して外へ出るでござる。






 受付へ向かうと、せかせかと働いている女将を発見したでござる。

 拙者と同じような時間に起きているとは女将もなかなかに早起きでござるな。


「あら、おはようございます。お客様は随分朝が早いのですね。まだ、5時を少し過ぎたばかりですよ」


 拙者に気が付いた女将が挨拶をしてくるでござる。


「早寝早起きは武士の基本でござるよ」


「はあ……そのぉ、武士とは一体?」


 まさかこの世界の人間は武士も知らずに生きてきたというのでござるか。これは、拙者が世界中に武士の素晴らしさを伝えていかないといけないようでござるな。


「武士を知らないのござるか!? それは人生を9割損しているといっても過言ではないほどの重大事故でござるよ。今度時間をかけて武士の何たるかを教えてやるでござる。今日のところは朝飯を食べに来たのでござるが、まだ準備はできていないでござるか?」


「はい、それではまたの機会によろしくお願いいたします。朝食でしたら、部屋にお持ちいたしますので、もう少々お待ちください」


「ああ、それは助かるでござるな。では、拙者はおとなしく部屋で待つとするでござるかな」


 朝食も部屋まで運んでくれるとはサービスのいい宿ではござらんか。

 今日も金を稼いだら、この宿に宿泊をすることはほとんど確定したようなものでござるな。


 そういえば、女将が普通に仕事をしているということはあの名前も知らない男は溺死せずにすんだということでござろうか。拙者としてはどうでもいいことではござるが、一応確認くらいはしておいてやらないとでござるからな。






「ふぅ、食った食ったでござるよ。朝飯もなかなかいいでござるな。本当に隙のないいい宿でござるよ」


 運ばれてきた朝飯を綺麗に平らげた拙者は、布団に転がり一息つく。

 満腹になったら気持ちよくなってきたでござるな。このまま昼寝としゃれ込みたいところではござるが、今日の拙者には金を稼ぐという極めて重要な任務が課せられているでござるからな。


 あまり気は進まないでござるが、冒険者ギルドというものに一度出向くでござるか。

 場所がわからないでござるが、女将にでも聞けば教えてくれるでござろう。この町にすんでいる人間ならば誰でも知っているようなものであればいいのでござるが……少し面倒でもあの男に案内を頼むべきでござったか? いやいや、まだ女将に聞いてもいないのに、大丈夫でござるよ。拙者の判断に間違いなんて決してないでござるからな。


「それでは、冒険者ギルドを目指して出陣と行くでござるか」

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