28話
「そんなに体ばかり鍛える暇があったのでござったら、もっとほかに修行することがあったでござろう。お前は剣を使って戦うのでござるよな? それならば、素振りだけでなく、剣技を身に着けるとかの方が絶対によかったでござるよ」
「小手先の技なんて筋肉の前ではすべて無意味なんですよ。筋肉がすべてを解決するんです。剣技なんて覚えている暇があったら腕立てをしたほうがいいはずなんですから」
「まずその考えを捨てるでござる。拙者だって修行の時は肉体トレーニングと技術的なものと両方やっているでござるよ。片方だけでも効果はあるかもしれないでござるが、両方やることによって相乗効果が生まれるのでござるよ。効率のいい修行になるというわけでござる」
「そ、そんなことがあり得るんですか? そいじゃあ、俺が今まで筋肉を信じて来たのは間違いだったということですか? そんなのショックすぎて無理です」
「別に間違いというわけではござらんよ。もっと効率のいい修行があるということを理解してくれればそれでいいでござる」
「ありがとうございます!! 師匠のアドバイスなら俺も信じれます。これからは、筋肉と小手先の技の両方を頑張っていこうと思います」
なんか小手先の技とか言っているのを見るとどうもまだ筋肉のことを最優先に考えていそうでござるな。一度その考えを完全に捨ててほしいのでござるが。いきなりはそうもいかないのでござるかな。
こんなに話し込むとは思っていなかったでござるよ。それに、無駄に離れて温泉に浸かっているせいで声を張らないといけないのがめんどくさすぎるでござるよ。
「拙者のいう通りに修行すればお前もすぐにSランク冒険者に到達できること間違いなしでござるよ。きっとそう……間違いないでござる」
「流石は師匠です!! それとお願いがあるんですけど、一度師匠が戦闘をするところを見させてもらいたいんです」
「それは、無理だといったはずでござろう。お前が近くにいると巻き込んでしまうでござるからな」
「俺だって立派な冒険者です。そんなへまはしません。だから、俺も一緒に連れて行ってください」
この情熱は一体どこからきているのでござるか? 拙者としては、ついてこられると冒険者ギルドでクエストを受ける時なんかに本当は冒険者ですらないことがバレてしまうのではないかとちょっと心配になっているのでござるよ。
「お前がへまをするとかそういう問題ではないのでござるよ。拙者のスキルは強力すぎて周囲を巻き込んでしまう可能性があるのでござる。強大な力はそれに伴って使い方も難しいものになるのでござる」
「そんなぁ。ちょっと離れてたりしてもダメなんですか? 師匠の戦っている姿を見てみたいんですよ」
「拙者の戦う姿を見るために死ぬ覚悟がお前にはあるのでござるか? そこまでの覚悟があるというのでござったらもう拙者も止めないでござるよ。存分に見学していくといいでござる」
「いや、流石にそれはちょっと怖いですよ。師匠の力量ならそれくらいも調整も……」
ザバンッ!!
何事でござるか?
急に飛び込むような音がしたのに反応し、男が湯船に浸かっていた方向を見ると、死体と間違う程自然に温泉に浮かんでいるでござる。
「おい、どうしたのでござるか? おい、返事をするでござる!!」
流石に驚いた拙者は、すぐに男の方へ駆け寄り、窒息しないように、体を引き上げる。
これは、一体どうしたというのでござるか? この温泉の中には拙者とこの男の二人きりでござった。気配も感じないでござるからそれは間違いないでござる。ということは、別の誰かにやられたというわけでもないでござろう。そうなると、こいつはどうしたのでござるか?
「起きるでござるよ」
「……え? あ、し、師匠……俺ちょっと……のぼ…せちゃった……みたいです」
とぎれとぎれになりながらもゆっくりと自分の状況を教えてくれたのはいいのだが、まさかののぼせているだけでござるか。心配して損したでござるよ。それなら、こいつはここに捨てておいても問題ないでござるな。
ドボンッ!!
抱え上げていた男を湯船に投げ捨てる。
水しぶきが上がり、男はまたぷかぷかと湯船に浮いてきた。
なんでまだ浮いているのでござるか? のぼせている程度でこの有様とは情けないにも保護があるでござるよ。拙者なんてサウナに1時間入っていても全然平気なのでござるよ。それに比べれば温泉に浸かっているだけなど何ともないはずでござろう。
確かに、少しばかり長話にはなってしまったかもしれないでござるが、それにしても大げさな男でござるよ。これも拙者の気を引いて、同情を煽る作戦とか言わないでござろうな。
少し待っているが、男は浮いたままピクリとも動かないでござるな。
これはこのまま放置していたら窒息して死んでしまうでござるよ。まったく、こいつが死ぬことなんてどうでもいいことではござるが、拙者の目の前で窒息して死ぬって言うのがダメでござるな。拙者の経歴に傷がついてしまうでござる。拙者の目の前で死ぬときは、拙者が手を下すときのみでないといけないのでござるよ。
少々手まではござるが、このまま脱衣所まで連れていくしかないでござるな。こんなやつのために拙者が苦労しないといけないなどとてつもない屈辱でござるよ。最悪でござる。




