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24話

「女将殿、温泉はどこでござるか? もちろんあるでござるよな?」


「当旅館は名湯で有名なのですよ。数々の効能がある源泉を引いております。こちらへどうぞ」


「おお、それは期待できるでござるな。部屋も料理も最高でござったから、より期待が膨らむでござるよ」


「お客様のご期待に沿えることを確信しております」


 女将もかなりの自信がある温泉ということでござるな。

 これほどまでに期待させておいて大したことないなんてありえないでござろう。もうすでに、何度も最高の体験をさせてもらっている身からすれば、もう拙者自身もいいものであることはわかっているでござるよ。あとは、どれくらいのものが出てくるかということだけでござるな。


 廊下を進んでいくと、のれんがかかっており、どうやらここが温泉のようでござるな。


「こちらが当旅館の温泉でございます。一緒に同行して説明したいところですが、男湯に入るわけにもいかないので、ご自身で楽しんでくださいませ。では、ごゆっくりしていってくださいね」


「すまぬな」


 女将はそれだけ言うと、するっとこの場を立ち去って行った。


「ここが温泉でござるか、期待が膨らむでござるな」


 のれんをくぐって脱衣所へ入る。

 ここはよくある銭湯と変わらない普通の脱衣所でござるな。


「さてと、ここでゆっくりしていても意味はないでござるし、さっさと温泉へ入るでござるか。チッ、服が置いてあるから、誰か中にいるでござるな。どうせならば、貸し切りがよかったでござるがそうもいかないでござるよな」


 ご飯を食べた後のこの時間帯では人が多いのは当然のことでござろう。むしろ、脱衣所を見渡した限り人が一人しかいないのはラッキーなほうではござらんか? 拙者よりも先に入っているのでござるから、先に出て行ってくれるでござろう。


 よく考えたら着替えを持っていないでござるが、もう同じ服を着るしかないでござるな。この服は、拙者が生前来ていたお気に入りの服でござるから、どれだけ着ても全然平気でござるよ。


「さあて、温泉へ入るでござるかな」


 ドアを開け、中へ繰り出す。


「おお、これは相当広いでござるな」


 目の前にはこれぞ大浴場といったサイズの温泉があった。


 かけ湯を済ませ、このまま温泉に入りたい気持ちもあるがここはグッとこらえるでござる。やはり先に体を洗うのがマナーというものでござる。




「ふぅ、これでゆっくり温泉につかれるでござるよ」


 体と頭を洗い終わり、温泉へと近づく。


「あれ? もしかして師匠じゃないですか? ……ああ!! やっぱり師匠じゃないですか!!」


 どこかで聞いたような声が温泉のほうから聞こえてきたでござるな。


 声のしたほうへ、目を凝らしてみると、拙者が町へ入る前くらいから付きまとってきた男が温泉につかっているでござる。


「急に消えるからどこに行ったのかと思いましたよ。まさか師匠もこの宿に止まっているなんてやっぱり俺と師匠は運命の糸でつながってるんですね」


「えーと、人違いではござらんか? 拙者はお前なんて見たことないでござるよ」


「そ、それはないですよぉー。あ、でも、やっと返事してくれましたね。ずっと無視されてて寂しかったんですからね。これも俺がずっと耐えた成果ですかね」


 まずいでござる。そういえば、こいつのことは無視するって自分で決めていたでござるよ。すっかり忘れていたでござる。武士に二言はないとか言っておきながらこの体たらく、ありえないでござるよ。自分が許せないでござる。


「怖い顔してどうしたんですか? 俺とまた再会できた嬉しくないんですか?」


「ずっと付きまとってくる鬱陶しい奴なんて誰が考えても嬉しいわけがないでござろう」


 もう一度返事をしてしまっているのだ、今更無視をつづけたところで意味なんてないでござる。

 ああ、最悪でござるよ。最高の宿だったのが、こいつの出現で最悪の宿へ早変わりでござる。なんで、こいつがここにいるのでござるか?


「もしかして、拙者のことを追いかけてこの宿へ来たのでござるか? 気持ち悪いにもほどがあるでござるよ。偶然を装うあたりも気持ち悪いでござる」


「誤解ですって、ここが師匠に紹介しようとしていた宿なんですからね。師匠を見失って途方にくれていたんですけど、一旦諦めて宿に来たって言うわけです。決しておってきたわけじゃありませんから」


「素直に信じると思うでござるか? 拙者には到底信じられないでござるな」


 これが偶然など、そんな都合のいいことがあってたまるかでござるよ。それも、拙者にとってではなくこの男にとってでござるよ? ありえないでござろう。

偶然だと言うなら、神であるあのじいが俺に対する腹いせにした行為としか考えられないでござるよ。未だ、生死不明ではござるが、きっと生きているのでござろう。


「確かに偶然だと証明する方法はありません。だから、信じてもらうほかないです」


「まあ、もうどうでもいいでござる。拙者はこの温泉を楽しむでござるから、お前は先に出ていくでござるよ」


「嫌ですよ、せっかく師匠と再会できたんですから、積もる話もあるじゃないですか? 一緒に楽しく温泉に入りましょうよ」


「断るでござる!!」


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