1話
「今日もいい天気でござるなぁ」
川辺を歩きながら、気持ちのいい天気につい言葉がこぼれる。
上を向けば、きらめく太陽。雲一つないこれ以上ないほどの快晴である。ミンミンと蝉の鳴き声が響く木を横目に歩いて行く。
「こんな気持ちいい日は散歩に限るでござるなぁ。拙者の気分までウキウキでござるよ」
どうしても独り言が多くなってしまう。
テンションの上昇と共に独り言が増えるのは誰しも同じことだろう。けっして拙者だけではないと思っている。
江戸の世は、今日も平和だ。ちらほらと侍が歩いているのを見かけるが問題が起きることもない。
「おい、見ろよ。あいつまたやってるぞ!! 絶対頭がおかしいんだって」
「やめろって、指さしたりして俺たちの方に寄ってきたらどうするんだよ。ほら、行こうぜ」
少し離れたところから拙者のことを馬鹿にするような声が聞こえる。
ゆっくりと振り返り声のしたほうへ視線を向ける。
「うわっ!! こっち向いたぞ!!」
「言わんこっちゃないって。あいつにいきなり斬りかかられた人もいるって話だぞ。気味悪いし、離れようって」
失礼な、それは拙者の虫の居所が悪い時に限ってちょっかいを出してきた愚か者が悪い。よう、タイミングだ。
「でもどうしていつも武士みたいな格好して歩いてるんだ? 実は、先祖が武士とかそういう関係なのか? 隣のクラスの山本だよなあれ」
「ああ、学校だと普通の格好してるくせに外で見かけるときは絶対にあの格好なんだよ。もう学校中で噂になってるんだぞ」
「マジでやべぇよ。あの腰に指してる刀、まさか本物じゃないよな?」
「このご時世に本物の刀何て持ち歩けるはずないだろ。どうせどっかの通販で買った模擬刀だろ」
そう、拙者は学校では普通の一般人としてふるまっている。人が大勢集まる場所でこの格好でいると目立ってしまうからな。世を忍ぶ仮の姿というわけでござる。本当の拙者は武士なのでござるよ。
「おぬしらも一緒に散歩をするでござるか? 気持ちいいでござるよ」
「なんか言ってるぞ!! やべぇ逃げろ!!」
「おい、俺を置いて行くんじゃねぇって。一人で逃げるな!! ちょっと待ってくれぇ!!」
拙者が声をかけると、二人は一目散に逃げ出して行った。
ただ声をかけただけでこの怯えようはいかんせん傷つくでござるな。拙者はただこの気持ちいい日に一緒に散歩をしようと誘っただけに過ぎない。他意はなかったでござる。
いつものこととは言え、流石に精神的に来るものがある。
拙者のこの格好は来るべき、武士としての使命をまっとうする瞬間のためにいつも準備をしているのでござるよ。その瞬間はいつやってくるか拙者にもわからない。だからこうしていつでも対応できるよう刀も常備している。
あの二人組は模擬刀だとか言っていたが、この刀は我が山本家に代々伝わる大業物だ。何でもこの刀ですさまじい戦果を上げたご先祖様がいるとかいないとか。まだ、持ち歩くことは許されていないが、時折こうして無断で持ち出しているのだ。この刀を握るだけで不思議と万能感が満ちてくる。自分にできないことはない、そう思わせてくれるのだ。
「お巡りさん、あいつです。刀を持ち歩いている不審者です」
おっと、今度は何でござるか?
「君、ちょっと話を聞かせてもらってもいいかい? その刀はまさか本物じゃないだろうね?」
「どうしたでござるか? もちろん、正真正銘この刀は本物でござる。切れ味を見せてござろうか?」
「待ちなさい。君を逮捕する。話は署で聞かせてもらおうか。こっちへ来なさい」
警察のお兄さんが、俺の手に手錠をはめようと手を伸ばしてきた。
いきなり何をしようって言うのだろうか? 拙者は武士、刀を持つことは義務に等しい存在だ。それを逮捕しようとは……こいつは拙者の使命を邪魔しようとする不届き物でござるか?
「そう簡単に掴まらないでござるよ」
「無駄な抵抗はよしなさい。罪が重くなるだけだよ。これで刀が偽物だったら注意くらいで済むんだから、僕についてきなさい」
「うるさいでござるな。っせい!!」
目障りな警察めがけて、刀を抜き、上段から振り下ろした。
ズバンッ!!
肩のあたりから真っ二つになり、警察だった肉塊が地面へ転がった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!!」
警察を呼んできた不届き物にも制裁を与えなければならないでござるな」
「っせい!!」
ズバンッ!!
警察と同じ要領で上段から真っ二つに斬る。
地面は一面赤い血で真っ赤に染まっているがこれはこれで綺麗でござるな。
拙者の邪魔をする不届き物はこれで成敗されたでござる。
「きゃぁぁーーー!!! 人殺しよぉーー!!」
「やばいって、あいつ今人を斬ったぞ!?」
まだまだ野次馬が集まってくるでござるか? 仕方ないでござるな。これも拙者にかされた試練。乗り越えて見せるでござる。
「っせい!! っせい!! っせい!!」
集まってくる人を次々と斬り、成敗していく。
「少し数が多いでござるな……」
「もうやめるんだ。これ以上は許されないぞ」
「何を言っているでござるか? やめる必要なんてどこにもないでござる」
再度きりかかろうとする。
バンッ!!
なにかが爆発するような音共に、胸のあたりに鋭い痛みが走った。
「かはっ、何が起きたでござるか?」
バタンッ。




