第三十五話 中編 キャシー・ベリー作戦②
午後5時30分。ソウヤとジェシーがホテルに到着する少し前にスカーレット・イーデルステイン、ライラック、アマンダ、ピートはホテルに着いていた。
前日の定例ウェブミーティングでアマンダはバークヒルズの死者・行方不明者についての詳細を聞かされていた。アマンダと親しい人物で遺体が確認できたのはギャバンと母のミランダのみで、アトラス、グレイブ、ジェシーの幹部3人と多くのギャング関係者、ニッキー、姉のビアンカは行方不明のまま死亡として届け出がされている。町内の衛生管理の都合上、身元を確認する間もなく片っ端から遺体を火葬した影響だとされている。バークヒルズの人口は半分を大幅に下回り、復興のための人員が不足しているそうだった。
昨晩から元気がないアマンダをスカーレットはそっとしてくれていた。朝少し遅めに起きても、朝食のパンを焦がしても、コーヒーに砂糖を入れすぎても何も言わなかった。その優しさがアマンダにとっては胸が痛くなるほど嬉しくて、余計に申し訳なく思って目を合わせられないのだった。
「もうすぐパーティが始まるね、アマンダ」
関係者控室となっている客室でくつろいでいる時、スカーレットが思い切ってアマンダに話しかけてみた。
「そうですね。怪しい人物が来ないように見張りを頑張ります」
「今夜は招待客しか大広間に入れないようになっているから気を張りすぎなくて大丈夫だよ。手荷物検査もしてるみたいだし、怪しい人物はロビーで摘まみ出されちゃう」
「そうですか、じゃあ、スカーレットさんの体調が悪くならないよう、サポートします」
「ありがとう。でも、お腹が張ったりもしてないし、今夜は大丈夫だと思うよ」
「はい。それでも、妊婦さんは状態が急に悪化することもありますので」
スカーレットは優しい眼差しをアマンダに向けていた。
「どうかしましたか?」
アマンダは不思議そうにスカーレットに聞き返す。
「アマンダは頑張ってるなと思って」
スカーレットの返事を聞いてアマンダは焦って早口で話し出す。
「当たり前です。スカーレットさんはどこにも居場所のない私を家に置いてくれてこんなに優しくしてくれるんです。ただそれに応えたいだけなんです、私は」
「無理はしなくていいんだよ。悲しい時は体調が悪くなくても寝込んでいいの。辛くて起き上がれないくらい悲しくて、何もやる気が出ない日だって人にはあるんだから」
スカーレットの言っている事はアマンダにも理解できた。スカーレットの優しさにも感謝している。アマンダはだからこそ彼女の優しさに甘えたくなかった。
「いえ、そんなことできません。私はここで暮らすと決めたんですから。もうバークヒルズには戻りません。誰が生きてても死んでても、私にはもう関係ありません」
「わかったよ、アマンダ」
スカーレットはアマンダをそっと抱き寄せた。
「故郷を捨てて私達のために尽くそうとしてくれているんだね。私はあなたがそばにいてくれるだけで嬉しいんだよ。あなたはもう私達の家族みたいなものなのよ。だから、悲しい時は悲しくないフリなんてしないで、辛いよって泣きついてきていいんだよ」
アマンダはスカーレットの背中をぎゅっと抱きしめ返した。何も言わず、スカーレットの肩に顎を乗せて、唇を噛み締めて泣くのをこらえた。スカーレットはさらにもっと強くアマンダを抱きしめてそれに応えた。
「もうすぐ始まります。大広間にお越しください」
ライラック、アマンダ、ピートの耳に取り付けられたイヤホンに選挙応援パーティを取り仕切っているイベント会社の担当者の声が響く。
「了解。そちらへ向かう」
ライラックが代表で返事をした。
「スカーレット。パーティが始まります。行きましょう」
「そうね」
ライラック、アマンダ、ピート、スカーレットは部屋を出てVIP専用エレベーターに乗った。アマンダは緊張した面持ちだったが、先程までよりは穏やかな気持ちがしていた。




