望まぬ婚姻
彼等が、心の底から喜んでいない事を
オーゼンは知っている。
「我が神、エイラー神に祈りを捧げる。
ナウラー・ハラー・サッハーナー…」
神官が、キツネの像、エイラー神に向かって手を上げると、国民も一斉に手を上げる。
「ナウラー・ハラー・サッハーナー…」
「どうか、この国に神の恵みを。
この大地に、天の潤いを…!」
神官がうやうやしく頭を垂れている。
それを見て、オーゼンは馬鹿みたいだと思った。そんな事をして、皆救われるのならば、こんな事にはなっていないのに。
神への祈りは、まだ続いていた。
「では、お二人、こちらへ…。」
いよいよ、婚礼の儀が始まるらしい。
神官が腰をおり、頭を垂れると、城の奥から、きらびやかな金などの装飾を身につけたブクブクと太った男と、今まで見た事のない程、青白い肌をした女性が現れた。
とても対照的な二人だった。
男の方はこの国の王子で、綺麗な格好をしてはいるが、それを下卑た顔で台無しにしている。
しかも、婚姻がよほど嬉しいのか、隣を見て「ニチャニチャ」と笑っていて、この上なく不快だ。
他の王族も端から見ているが、どいつもこいつも似たような感じだった。
痩せ細った国民と太った王族。
これが、この【クヒラ】という王国を
如実に物語っている。
しかし、その王子の横に立っている女性…
相手の国の姫を見た瞬間、何かがオーゼンの心を鷲掴みにし、オーゼンは視線を反らす事が出来なくなった。
あまりの衝撃に、神官の言葉が入ってこなかったが、彼女の名は、【ヨルム・ユーラン】というらしい。年齢は19くらいか?
淡いウェーブのかかった、腰まで垂らした髪の毛・ある意味、化け物に近いような生気のない青白い肌…。
太陽に弱いのだろうか。
隣にいる従者らしき男が、彼女の頭上に大きな傘をさしている。
少し分厚い黒いドレスを身に纏ってはいるものの、鍛える事を怠らなかった事が伺えるような、筋肉質な体はとても美しく、それを青白い肌が逆に引き立てている。
まるで…、彫刻の様だ。
赤い口はキュッと閉じられており、その瞳は金色に爛々と輝いている。
その目が一瞬大きく見開かれたが、すぐに哀れみを含んだ。
【この人は…、この人だけはまともだ。】
オーゼンは、確信した。
この狂った世界の中で唯一、この人だけは自分と同じ感覚を持っている。
異常を異常として、きちんと捉えられる感覚。
人々が、置き去りにしてしまった感覚。
だからこそ、(何故、あんな奴の妃などにならなければならないのだ!?)と思ってしまう。
オーゼンは、自分でも知らないうちに、人々を掻き分けて集団の前に来ていた。
私の周囲にいる、いわゆる【視える人】は、パチンコをしているし、色々な経験をしていて、したたかな生き方をしている人が好きな人が多い気がします。
意外にも、【人類みな愛す】とか、自分から神秘的な格好や雰囲気を出している人はいない気がするので、神様は裏表のない分かりやすい生き方をしている人が好きなのかもしれません。
善とか悪とかのルールは、人間が決めたものであり、神様には関係ないのかもしれません…。私が思うに、神様は人の容姿などは見ておらず、分かりやすく輝きを放っている人を見つけているのかもしれません。
もしくは、目が見えていないのかも。
実態がないのであれば、それこそ鼻が利くのかもしれませんね。【ただの私の感想ですが】