向かう者
その頃、クヒラ王国に近付いてくる者が
あった。
砂埃をあげながらゆっくりゆっくりと近づいて来るのは巨大なトカゲ、砂トカゲであった。
体長20m程の砂トカゲは、その背に神輿を担いでおり、その神輿にかかる布から何者かが外を見ていた。
「ヨルム姫、もうじき到着致します。」
中の人物へ従者らしき男が声を掛けると、ヨルムと呼ばれた女性が溜め息をつく。
「クヒラ王国か…。嫌だな…。」
しかし、目の前の従者が心配そうに
こちらを見ているのに気付き、「冗談だよ~、冗談!」と悪戯っぽく笑った。
主が強がっているのを、従者は気付いていた。
以前、クヒラ王国に訪問したが、その有り様は本当に酷い物だった。
人使いが荒く、先代が倉庫に遺した非常食に手を付けて、豪遊している。更には、こちらの国ではあり得ない、非人道的な薬にさえも手を出していた。
こちらの国は、クヒラ王国と違って何故か日が当たらず、作物の育ちが悪いものの、国民にその様な事は決してしない。
それは、目の前の主、ヨルム姫が許さない。
あの様な国に、自分の主を捧げるも同然の行為など、許せる筈がない。だが、互いに窮地に立たされている為、どうしようもない。どうしようもないのだ。
刻一刻と見えてくるクヒラ王国。
二人は黙ってその時を迎えるしかなかった。