実家参り
遅くなりました、すいません。
「ただいまー!」「りゅ〜く〜ん!おかえり〜!」
ドアを開けた俺に向かって玄関先から3メートルぐらい跳んで抱き着いてくる。
もう慣れた事とはいえ、今回は人の目があるので少々恥ずかしい。
「姉さん!恥ずかしいからはなれてよ!」
「むふふ〜、いいじゃないの〜。愛情表現だよ〜。
あっ、ドール!お帰りなさい!」
「またお世話になります」
今日のドールの格好は真っ黒いスーツに真っ黒なネクタイである。
タキシードなんかで街中を一歩下がって歩かれてもどこぞのお坊ちゃまになってしまうので山を降りる前に言っておいたのである。
「姉さん、ご飯ある?お腹すいたわー」
「ちゃんと作ってあるよ。じゃあ用意するから、いろいろ済ましてきなさい」
「いっただきまーす!」
「いただきます」
「どうぞ、召し上がれ!」
目の前に用意されたおいしそうなご飯に、感謝の気持ちを込めて挨拶をすると、一週間ぶりに食べるちゃんと調理された料理達を食べ尽くしていく。
食事は30分程で終わると気になる事を聞いてみた。
「姉さんも修行してたって聞いたけど、どんな事してたの?」
「うーん、細かい事は秘密だけど…、自分の身を護るためのものだよ」
「へぇー、どんなの?」
「たぶんりゅう君の知らないものだよ。マザードラゴンに教わらずに人間が理論的に創りあげたものらしいからね。代々母親から娘にだけ伝わってきたらしいよ」
「へぇー!面白そうだな。見せてみて!」
「だ〜め!後でね」
「…………。まぁいいや。
で、話は変わるけど明日からどうするの?なんか予定ある?」
「ごめんね。明日からまた私だけ修行があるらしいの。でね、りゅう君にお母さんから伝言で『りゅうはお父さんと一緒に実家へ挨拶に行ってきなさい!』だって」
「へっ?実家なんて一回も行ったことないのになんで今更?」
「さぁ?まぁ、そんなわけだから明日、お父さんが迎えに来るってさ」
「わかった」
翌日
「うわー、かなり降ってるね、父さん」
「……そうだな」
「これは父さんに乗っては行けないでしょう?どうするの?」
「……あぁ、無理だな」
「で!どうするのさ!?」
「………電車だ」
心ここにあらずな父親との会話を諦め、ビニール傘ごしに雨模様の空を見ながら駅へと足を向ける。
父親の様子がおかしい。
普段とは明らかな違いがあることには気付いた龍也だったが、単なる体調が悪いとかなんとかだろうなどと軽く考えていたのが間違いだった。
「なぁ、龍也。…実家って……覚えてるもんか?」
真昼間、誰も乗っていない車両のボックス席に向かい合わせに座り相変わらずに雨空を見続ける龍也に一は呟いた。
「…覚えてる訳がないよ」
いきなり事に驚きながらも質問に答える。
「…そうか」
それだけ言うと再び一は黙ってしまった。
外は以前雨。どこまでも灰色な空は逆に龍也を引き付ける。
暗い世界は降り注ぐ哀し気な雨で満たされる。
そこに居たって満たされるはずないのに。
差し込んだ光は暗い世界に降り注いだ哀しい雨をも世界を光り輝かせるための物へと変えてしまう。
だから、その光だけは……
「覚えてる訳ないよなぁ」
再び話し出し始めた。
「お前が生まれてから一週間後に一度だけ行ったんだよ」
さっきよりもやわらかな表情で、ゆっくりと語り始めた。
「父さんと母さんの両親、お前の爺さんと婆さんはなあまりいい人じゃないんだよ。
爺さん達は俺達に期待してたんだよ。でも、結果的に力があるにも神様候補までは届かなかったから俺達には厳しくてな。
だから、俺達は爺さん達には育てられてないんだ。昔から一族の手伝いをしている家系がいるんだがそこの人達に育てられたんだ」
零奈と龍也は初耳だった。
「で、たぶんの話だが、お前達も嫌われてると思う。嫌いな俺達の子供があれほど欲しがった神候補になったんだからな。
そこで何故わざわざそんな所に行くかというと、ある物を取りに行くためだ。それはお前達に必要な物だ。
まっ、詳しい事は向こうで話す」
話しているうちに目的の駅に着いたようだ。
一と龍也はとりあえず電車を降りて駅から出ようとしたとき、一の足が止まった。
「はー、やっぱりかー。めんどくせーけど行くしかないしなー」
「なに、この人達?やばい雰囲気が漂ってるんだけど!」
そうは言うものの駅の外は田舎の駅らしくひとっこひとりいない。
「たぶん、実家の使いっぱしり」
「なんで!?」
「そーとー嫌われているらしいよ、俺ら。
つまりは、およびでないってことだろ」
「……………どうするのさ」
「ここは格の違いっつーやつを見せ付けつつ、修行ということで、…………一発もくらわず通り抜ける!」
そう言った後、一は一歩踏み出す。
隠れているらしい人達はまだ動かない。
龍也は父親の無茶苦茶な言葉にため息をこぼしながら父親に続いて歩き出した。
一は実家のある山の方へと歩いて行く。
ここまでは襲ってくる様子はなくただつけてくるだけのようだ。
そして二人が山道へさしかかったところで、事態は一気に動き出した。
息を殺し、気配を絶ち後をつけて来ていた人達は一斉に飛び掛かってきた。