後の祭
『いらっしゃいませ〜』
『わたあめいかがですかー?』
『午後の部の映画は2時からとなってまーす』
ワイワイ、ガヤガヤ
文化祭最終日
龍也は一人で学校を回っていた。
おととい、昨日と零奈、深雪に一日ずつ付き合わされゆっくり見て回れていなかったので高校生の学級委員長の粋なはからいで二人と被らないように休憩をずらしてくれた。
「とは言え、皆は深雪さんや姉さんを誘いたいがために俺とは休憩をずらしちゃったんだよな」
一人で回るのはさびしすぎるので誰でもいいから知っている人はいないかと辺りをキョロキョロしながら特に人を見ながら回っていると、
「今日は一人で回られるのですか?」
耳元で龍也にだけ聞こえるようにボソッと心地いい低音が発っせられた。
背筋が凍るような感覚にバッと振り返るとそこにはしばらく顔を見せなかった死神、ドールの姿があった。
「後ろに立つな!
そして今まで何してた、母さんも姉さんも心配してたぞ」
「失礼しました。何と言われても私にも仕事がありますので」
「仕事?死神としてのか?
んっ?なんで白衣を着ている?」
「だから言いましたように仕事です。保健医です」
「…いつから?」
「今学期からです。人体には少しばかり詳しいので」
もう何事にも動揺すまいと思っていたため叫ばずにすんだが頭は抱える。
「悩みは人間には必要なストレスですが、過ぎる事は何事も毒ですよ。
さっ、ストレスの後はリラックスといきましょうか。そのようすですと誰とも予定はなさそうですから」
「で、どこへ行くんだ」
「おや、随分ご機嫌ななめですね。
まぁ、どうでもいいですけど」
「一応、お前の契約主だぞ!」
「えーと、今日は三年生の階を…」
「流すな!!」
ほぼ対等な契約をしているので少しの無礼、不躾は許容範囲内である。
そんな何気ない会話をドールはどことなく嬉しそうにしている。
「やけに計画的だな。文化祭を楽しみ尽くす気か」
昨日、一昨日で一年生と二年生の階は全て回ったらしいドールの話を聞いて龍也はドールにもそんな子供みたいな一面が有ることに驚いた。
「いいえ、実は文化祭の審査員になってしまって全部回らなくてはいけないのですよ。
まぁでも、楽しいことは好きだからいいですけど」
「そうか、ならさっさといくぞ」
ドールがこっちの世界にうまくなじんでいることを龍也は温かい目で見ている。
死神が人体に詳しく、人間の体を治すなんて冗談にもならないなぁなんて考えているが直すという字を当てれば別におかしくはないかなと納得している彼は少しずつ人とは外れてきてるかもしれない。
ドールが龍也の前に現れて、自分を評価してもらい契約を交わし交わされ修行を一緒に手伝ってもらったり多くの時間を共にした。そしていやおうなくドールの強さを感じさせられたが、時折ドールが手ごたえのなさからか退屈のようなものを感じているのは知っていた。そして龍也が家族でいるときにすんなり入ってこれていないことも。
龍也の推測ではドールは向こうでも強すぎて相手になる人がいなかったのだろう。いくら龍也の潜在能力は底がしれないとはいったもののドールの相手になるのははるか先のことだろう。そしてコミュニケーション能力が低いのは天界の中でも存在するはずのない死神としてのコンプレックスからのものと群れる必要のなさからだろう。
そんな龍也の心配をよそにドールは最初の教室のたこ焼きをおいしそうにほおばっている。
「どうしたんですか?また悩み事ですか?」
「なんでもねえよ。俺の分も残しとけよ」
「はいはい、わかってますよ」
その後ひとつずつ教室を回っていくがやたらドールに話しかける人が多い。それも女子生徒が。
長身に整った顔立ちそして黒のスーツに刺し色のネクタイを合わせるファッションセンス、頭の良さを表すかのような白衣、夢を一度は見たことのある女子生徒なら惹かれずにはいられない存在だろう。
「人気者だな」
「そうでしょうか?休み時間にしょちゅう保健室に遊びに来てくれる人はたくさんいますけどね」
「・・・絶対に分かって言ってるだろ」
「さて?天使の中で育った私にはそんなに魅力的ではないですが昔の禁断的な甘美な食料の代表は若い魂ですから本能的に感じてしまう部分はありますよ」
「・・・ミスったかな?お前との契約ではお前の本能まで止められるものではないしな。一般人は殺すなよ、としかいえないんだよな」
「おや、そんなのでいいんですか?じゃあ、あとで少しだけ吸ってみましょうかね」
「どうしたもんか」
「これで全部ですね。やっと終わりました」
「あー、やっと終わりか。さすがに全部のクラスはきつかったなぁ」
全部のクラスを回り終え二人はドールの仕事場である保健室へ向かい廊下を歩いているところである。保健室は特別棟の一階グラウンドに面している一番南側にある。教室は渡り廊下を歩いた北棟にある。各クラスの出し物は各教室つまり北棟で行われている。校長、先生、生徒は北棟で文化祭で楽しんでいる。
南棟には人は職員室に防犯のために留守番をしている一人だけしかいない。しかし、職員室は二階である。つまり、南棟一階にはたったの四人だけ。ひとりは龍也、ふたりめはドール、そして残りの二人は・・・
「早く出て来いよ。近くには誰もいないって」
見えない誰かへの言葉も反応がなくむなしく保健室に響き応えてくる気配はない。
「出てこない・・・か。この距離で気配に気づかれるようじゃたいしたことないんだろ」
そういった途端、デスクの椅子に座る龍也とその横で直立不動で斜め裏に立っているドールの前には二人のお面をかぶった二人の若い男性が出てきた。
「へぇ、そのお面。天狗の一族か」