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たつがみ  作者: まよいひと
14/16

薔薇の棘

間を空けてしまって本当にすみません。

これからも頑張って執筆を続けていきたいと思っているので温かい目で見守っていただければありがたいです。

「すいません。付き合ってもらっちゃって」

「いいのよ。細かい作業ばかりで少し動きたかったから」


付き添いの高校生は深雪さん。クラスのなかではしっかりしていて、この文化祭でも中学生達の面倒をよく見てくれているお姉さんだ。


「そう言えば龍也君、零奈ちゃんから離れるために教室を飛び出したけど何を買うかわかってないでしょ」

「えっ!…あぁ、聞いてなかったです…」


はぁ、と深いため息を龍也がつくのを聞いてから、深雪は笑顔をつくる。


「大丈夫よ。ちゃんと聞いてきたから。さぁ、行こう?」


魅力的な笑顔を崩さずに歩き始める深雪をみて、龍也も一緒に歩き出す。


買うものを一緒に探す二人は龍也がカートを押して深雪が小さなメモを見ながら目的のものを積んでいく。教室での作業よりも楽しそうな二人はたわいもない話をしながら買い物を終わしていく。


会計も終え重いものが入った袋を龍也が持ち、二つ持たせるのは悪いからともうひとつを深雪が持つ。

休憩するためにお店の外のベンチに腰を下ろし、一日頑張ったご褒美らしいジュースを深雪が差し出し、赤くなりながら隣に座る。


「ふぅ、つかれたわね」

「結構な量でしたからね」


作業をしながらのときはすらすら話せていたのに隣合わせに座りながらだとその雰囲気のせいで緊張してしまう。


「零奈さんは家ではあんな感じなの?」

「あそこまでじゃないですけどね」

「ふぅーん」


会話が続かない。

龍也は体をほんのちょっとだけ後ろに傾け顔は動かさずに横目で深雪の様子をうかがう。

疲れていると言うより悩んでいるとゆう感じの表情だ。

しかし深雪は何かを決めたように目を閉じ静かに深呼吸をしたあと目を開け、いつもの魅力的な笑顔を作り立ち上がった。


「みんな待ってるだろうから帰ろう」




「遅いよー、何してたの?」


クラスに戻るとみんなからの大ブーイングが待っていた。

サボるために買いだしに名乗り出たんだろー、深雪さんと行けるなら俺が行ったのにー、とか。

そしてあの人は…………


教室の窓際でねこちゃん達とさびしそうに座っていた。


「委員長さん、零奈さんどうしたんですか?」

「さぁ?聞いてみれば?」


仕方なく零奈のほうに寄って行く。


「ど、どうしたの?」


零奈は悲しそうな顔をあげ、龍也、深雪と視線を向け一段と悲しそうな顔になりながらプイッとそっぽを向いてしまう。


しかたがないので、しゃがみこんでもう一度聞く。


「どうしたの?」


相変わらず悲しそうな顔をあげた零奈は、


「浮気者ーーーーーー!!!!」


叫んだ。


「深雪ちゃんもりゅうくんも行く前と雰囲気違ってるもん!!ねっ」

「にゃ!」


泣きながら叫び、教室を飛び出し学校に連れて来ていたらしいねこちゃん達とどこかへ走り去ってしまった。


「はぁ〜、昔から龍也君の事になると……」


委員長が面倒そうに呟くが、


「深雪さん、龍也君。探して連れ戻しなさい。急いで!」


さすが委員長。

クラス中からの『零奈さんを泣かしたな』オーラが身に染みながら二人で探しに教室をでていく。


「出てきたはいいけど…どこを探せばいいものか?」

「龍也君こっちに行きましょう」




「ぐすっ。りゅうくんのバカッ!深雪なんてっ、深雪なんて……。

………確かに深雪は可愛いけど………

りゅうくん…」


零奈が泣いているのは二階の教室とは違う階にある四階の工作室。技術の授業でしか使われない人が一番こない教室だ。

しかも、実際にいるのは隣の準備室。カッターややすり、その他の工具がしまってある部屋だ。


フーーッ!!


「ねこちゃん?どうしたの?」


ねこちゃん達が小さな窓の端に前足をのせ、外を睨んでいる。

零奈も窓から外を見下ろしてみるとそこには龍也がいた。


「りゅうくん!」


自分を探しに来たんだとわかると満面の笑顔を浮かべ窓を開けて飛び出そうとするが、あまり使われていないらしく窓は開かない。

龍也は分厚い窓に阻まれ零奈の声が聞こえずあたりをキョロキョロ見回している。

なんとか開けようとする零奈だが全く開く気配さえない窓を壊して外にいこうとしたとき龍也が一人でないことに気がついた。


「龍也君、…あのね…」

「??」


深雪の言葉を待つが何を話そうとしているかが全くわからないとゆう顔の龍也。

そんな龍也を上目でちらっと確認した深雪は意を決したように話し始めた。


「あのね…。私ね、今までね、好きになった人っていないのね。でね、一生ねそんな人できないと思ってたの…。でもね、零奈さんが龍也君にくっついてるとき……いぃなぁ、って思ったの。」


ひとつひとつ言葉を選んで丁寧におもいを伝えていく。


「龍也君を思うと胸が苦しいの。だから今日、おもいを伝えるね。

……あなたが好きです」


「………………………」

「………………………」


静かな時間が流れる。秋らしい温かな日光に涼しい気持ちの良い風が吹く。

眩しい緑から優しい赤や黄に変わりはじめた葉っぱの音よりも自身の心臓の音が大きく聞こえ始めたとき


「深雪さんの気持ちは嬉しいんだけど、そこまでには今は思えない。やっぱり姉さんが一番大切だから。………ごめん」


瞳に涙がたまり世界が滲んでいく。

何かが耳に入ってくるが関係なく、涙を見せまいと駆け出してしまう。


龍也は追えなかった。理由はいくつかある。そしてそれらは龍也の精神を著しく乱した。



シュッ!



どこからか飛んできた普通の定規。それは正確に龍也の足首を傷つけ赤い血が付いている。


そんな傷に気づかないのか無視しているのか、空を仰いだまま動かないでいる。


そんな龍也に痺れをきらし校舎の陰から一人の男子生徒がでてきた。


「いつまでそうしているつもりだ?

君に怨みはないが運命だと思って倒させてもらうよ」


よく晴れた空がいつの間にか曇り空になり雨が降り出してきた。

そんな雨がつらくなったのか、今度は少し俯いた後その男子生徒を見つけ悲しさが浮かんだ顔で男子生徒へ向け走り出そうとする。


ヒューン、トスッ


走り出そうとした龍也の前に軽やかな音をたてながら着地した零奈がたっていた。


「りゅうくん、ダメッ!

そんな状態じゃ力を抑えきれないでしょ」

「姉さん…」

「ここは私がやるから雨の当たらないところで座って休んでなさい」


コクッと頷いただけで何も言わず校舎の端に座って膝を抱えてしまう。

そんな龍也を心配そうに見つめため息をはいた零奈は男子生徒へ向き直った。


「ごめんね。相手がりゅうくんじゃなくて」

「できれば好きな人は殴りたくないんだけどね」

「あらっ、ごめんなさい。りゅうくんよりいい人はいないからねぇ、私より強い人は」

「じゃあ、あなたに勝てば僕を認めてくれるんですね?

そっちの方が龍也君を倒すより楽そうだ」

「………むりよ」

「どうでしょうか?」



それ以上言葉を発せず二人は間合いまで歩み寄る。そしてお互いの拳が届く距離まで近寄った。


「僕のリーチの方が長いですからこのぐらいでいいでしょう?

どうぞレディーファーストで」

「……言っとくけど、りゅうくんに血を出させた罪は大きいんだからね」


そう言うと、零奈は常人には見えない速さの右の張り手を見舞う。構えも踏み込みも無しに打ったはずの一撃はバッチィーン!と小気味よい音をたて、正確に男子生徒の左頬を叩いた。

音程のダメージがないにしろ見事な一撃を喰らった男子生徒は少しの間呆然とするも、自分の女性を見る目は間違っていなかったとばかりにわずかに微笑み反撃にでる。

拳を握った右腕をゆっくりと真上に上げそこから一気に振り下ろした。

零奈は両手でそれを受け止めるが重過ぎる攻撃で地面に足がめり込む。

しかし攻撃は一発で終わらず二発目の左拳が間髪入れずに振り下ろされた。

何発もの攻撃が続き腕力で劣る零奈は必死で受けつづけた結果足は地面に刺さり両手は痺れて動かせなくなってしまった。


「零奈さん、降参しますか?」

「い・や・だ!」

「しょうがないです。僕の実力として能力を見せましょう。零奈さんも能力者だから気絶はしても死にはしないでしょう。僕の能力は蹴体術です。足技を中心とした攻撃に特化したものです」


自分の能力を少しだけ説明すると背を向け少し距離をとった男子生徒。

一息大きく吐き出し、今までとは明らかに違う雰囲気を身に纏う。おそらくこれが彼の戦闘状態なのだろう。

そして男子生徒は強化された足で一直線に突っ込んでいった。凄まじい速さで零奈の目の前にたどり着き、そのままの速さで頭を下に潜らせ胸を中心に前方に一回転しかかと落としを見舞う。

わずかな距離で一回転出来る回転力は恐ろしく速く強いもので、必殺と呼ぶほどのものだ。

落とされた踵は零奈の脳天を直撃した。


「ふぅ、やっと両手の痺れがとれてきたよ」


踵落としは確かに当たったはずだ。しかし零奈は平然としている。両手を下に向けるとフワッとはまったはずの足を抜く。

そして当たったはずの蹴りをものともせず、地面に刺さったはずの足を地面にも触れずジャンプするように抜け出てしまった事。この異常な出来事にも動揺せず男子生徒は頭を働かせていた。

零奈の能力は何なのか?と。


「まだまだ、能力者の戦いはここからだよ」


余裕な零奈は再び距離をとっている男子生徒目掛けてまたも足を動かさずに飛び出していく。

しかし今度は男子生徒の目がしっかりと見ていた。飛び出す瞬間、一瞬だけわずかに零奈の足元が赤く光るのを。

手掛かりを考察する前に零奈が迫ってきていて、迎撃は間に合わず防御を選択した。

右足の上段、左手のボディー、左足の踵落とし、右足の前蹴りとかわし防ぐうちに何となく零奈の能力がわかってきたようだ。


『おそらく僕のような運動能力の底上げ。そしてたぶん足のみ。なら』


そう考えている男子生徒は次の一撃で仮定を確証に変えようとした。

零奈の右と左の手をわざわざ上に跳ね上げるように防御し、無防備な胴に先ほど見せた前への縦回転からの前蹴りを放つ。

手での防御が出来ず、かわす事が出来ない体幹への攻撃、喰らわないためには運動能力の上がっている足のみなはず。


ドフッ!


鈍い音は足と足がぶつかる音だった。男子生徒の思惑通り、足で防御した事で男子生徒が勢いづいた。

強化された足で速さ重視の攻撃。体術なら自信があるのだろう。同じ系統の能力なら負けるはずがないと思っているからこそ攻撃にでていた。

一つでも捌ききれなかったら致命傷になる両者。そして自分の能力に自信を持っている男子生徒。

勝負はすぐつくと思われ た。

しかし意外な結果で勝負はついた。


男子生徒の勢いが増しはじめてから足だけで手足の攻撃を防いでいたが間に合わず、鳩尾に改心の一撃が入ったと思われたが、


!!!


零奈は崩れ落ちもせず真っ直ぐ立っている。

そして何より、男子生徒は足で前蹴りを入れたはずだが感触が感じられなかった。

一撃目の渾身の踵落としも感触は感じなかったが、それは絶妙な足のクッションで柔らかく止めたと思っていたが違うようだ。


「…っ!!な、なんでだ!?」

「どうしてでしょーか?

ひとつめ、君は私の能力を勘違いしている。まさか私の能力が身体能力の強化、足限定、とか思ってないよね!?」

「違うのか!?だって君は……」

「ふたつめ、私と君とでは実力に大きく差がある」


男子生徒の言葉を遮るようにして零奈は続ける。


「でも、私も能力を使っちゃったからなー。まだまだだ!」

「一体どんな能力を?」

「そんなの教えられるわけないでしょ。じゃあ、風邪ひいちゃうからもう終わりにしよう」


息を整え構える。

そして…


ドスッ!


腰を落とし、お手本のような正拳突き。防御する隙さえ与えない拳は派手さはないが、貫通するかのような鋭く重い。


「じゃっ、風邪ひかないでね!」


そう残し、今だに俯いたままの龍也のもとへ歩いていく。


「教室もどろ」


ハンカチを渡して龍也の手を引く。

龍也は立ち上がらず呟く。


「…深雪さん……泣いてた……」


深雪が隠そうとしていた涙は隠しきれるほどの量ではなく、それ龍也は見てしまったらしい。


「そりゃあ、泣くわよ。大好きな人にふられたんだもの」


龍也の前にしゃがみゆっくり話す。


「でもね、りゅうくんは本当の気持ちを言ったんでしょう?それでいいじゃない。

あそこで嘘ついたら深雪はもっと傷ついたわよ。それにたぶん嘘だってわかるしね。」


女の子はわかるのよ、と満面の微笑みをつくる。


「それに深雪はりゅうくんが思っているほど弱くないよ。だから笑顔で教室もどろ」


大好きな姉からの優しい言葉が、思わぬ人の思わぬ涙を見たことで深く沈んでいた体を引っ張り上げていく。

そしてもう一度差し出された手をしっかり握り教室へと歩きだした。



ガラッ!



「龍也君!濡れてるじゃない!風邪ひいてない?」


教室にはすでに戻ってみんなと作業を進める深雪の姿があった。

最後に見せた涙とは真逆の満面の笑顔で龍也を迎えるその様子に龍也は戸惑っているようだ。


「龍也君、零奈ちゃんがまだ一番大切なんでしょ?

でも、愛するのは他のだれかから探すけどまだいないんでしょ?

じゃあ、私に振り向いてもらえるように頑張るね!」


教室で出た、みんなの憧れからの一言に皆が固まる。


「じゃ、こっちで一緒に作業しよう」


そう言って手をとり積極的にアピールしていく深雪だが、


「こらっー!!りゅうくんに手を出すなー!!」

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