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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生賢者の成り上がり 〜異世界最強の賢者は既に最強であることに気づかない〜

「午前零時——なんとか定時で終われたな」


 俺の名前は諸星公輝(もろぼしこうき)

 二十七歳のアラサー会社員である。


 今日は新月の夜。

 分かってはいたが、いつにも増して真っ暗である。


 俺が働く会社はいわゆるブラック企業。

 上司の帰りを見送ってから数時間ほど作業するので、帰りは毎日この時間になる。


 正月以外は休みもなく毎日会社とアパートの往復だけの生活に不満がないわけじゃないが、世の中そんなもんだろう。


 辞めた方が良いなんてことは重々分かっているが、


 不況の中すぐに新しい職場が見つかるのか?

 次の職場がまたブラックじゃない保証は?

 そもそもみんなこんなもんじゃないのか?


 そんな言葉が頭の中をグルグル回って、一歩踏み出せずにいた。

 やらない決断を後押しするような理由を自然に探そうとしてしまう。


「おっ、まだ頑張ってるな」


 オフィスを出て駅へ向かう途中。

 まだ明かりがついているオフィスビルが目に止まった。


 どこの誰が働いているのか知らないが、俺が退社するこの時間でも、いつも明かりがついている。


 あの会社も確か九時始業だから、俺よりも頑張っている誰かがいるのだ。


 平日なら比較的深夜にも明かりがついているオフィスは多いが、今日は日曜日。

 俺なんてまだマシな方である。


 上には上がいる。


 名前も知らない仲間がいるというだけで、不思議と明日も頑張れそうな気がしてくる。

 そう思わないと、やってられなかった。


 青信号であることを確認し、


「よし」


 ——と横断歩道に一歩踏み出した瞬間だった。


 キキキキキキキキィィィィッ!


 なんと、赤信号なのに大型トラックが減速もせずに突っ込んできていたのである。

 気づいた時には、歩道に戻れないところまで来ていた。


 ……いや、仮に引き返せたとしても方向から判断したところ、逃れられなかった。


 運転手は、ハンドルを握ったままうつ伏せになってしまっている。


 俺は、運悪く居眠り運転のトラックに遭遇してしまったらしい。


 コマ送りのようにゆっくりと映像が流れるが、俺の身体は言うことをきかない。

 ああ、これは疲れのせいだ——と直感した。


 今日で六十日連勤だっけ……?

 ははっ……。


 乾いた笑いが込み上げてくる。


 これで、俺の人生も終わりか。


 成す術もなく大型トラックと接触し、その瞬間に俺の意識は暗転した。


 ◇


「ここは、どこだ……?」


 生きている。

 まさか、目を覚ますとは思わなかった。


 俺の記憶が正しければ会社からの帰りに居眠りトラックに跳ねられて、大怪我を負ったはず……。


 しかし——


「痛くない……な。それに、病院でもなさそうだ……」


 窓から見える景色は、喉かな暗い森の中。


 暗いのはまだ太陽が出てすぐだからというだけで、昼間になれば長閑な明るい森に変化するはずだ。


 いや、長閑——でもないか。


 窓の外には、まるでゲームに出てきそうな魔物がウロウロしている。


 狼やスライムのような見た目をしている生物なだけで魔物であるとは限らないのだが、魔物以外の表現が見つからない。


 夢でも見ているのか? と思って頬をつねってみるが……。


「痛っ」


 夢ってわけでもなさそうだ。


 なるほど……ということは、トラックに跳ねられた俺は死んでしまって、異世界に転生してしまった——という可能性が高そうだな。


 でも赤ん坊でもなさそうだし……これは転生じゃなくて転移なのか?


 どっちでもいいか。一度死んでるんだし、どちらかというと転生と言うことでいいだろう。


 前世ではそんな小説を電車の中で読んでいたので、大きな驚きはない。


「にしても、困ったな……」


 こんな魔物ばかりの森じゃなくて、どこかの街の中にでも転生できれば良かったのだが……いや、それは変な目立ち方をしそうだな。


 ひとまず冷静になって、一通り四方を観察してみる。

 ここは森の中にポツンと浮かぶ小屋の中らしい。


 生活感は全くなく、壁際に大きな本棚が一つと、部屋の中心に俺が寝ていたベッド。それとトイレのみの簡素な造りである。


 他にはご丁寧に食べてくださいと言わんばかりに乾パンのような食べ物と飲み水が用意されている。


 この小屋の持ち主はどんな用途に使っているのか気になるところだ。


 とりあえず、一旦魔物が離れたタイミングで外に出てみよう。

 ——と思って、扉を開けようとしてみたのだが。


「……外から鍵がかかってるのか?」


 どういうわけか、俺は閉じ込められているようだった。

 ……まあ、いざとなれば扉を壊すなり、窓を破って外に出るなどの方法はある。


 俺を閉じ込めた相手にどんな意図があるのか判然としないが、ひとまずジッとしていることとしよう。


 この部屋で魔物の手を逃れて、どこか人がいる場所まで避難するプランを思いついてからでも遅くはない。


「——となれば、情報収集だな」


 壁際の大きな本棚には、ギッシリと本が詰まっている。


 どの本の背表紙も見たこともない言語が書かれているのか、不思議と何が書いてあるのか理解できる。


 この本だと、『賢者の心え』と書かれている。


 一冊ずつが分厚く、五百ページはあるだろう。

 そんな分厚い本がざっと百冊。


 俺は、意を決して本を開いてみた。

 本の中身も一応ちゃんと理解できそうだ。


 パラパラとページをめくっていく。


 意外にも厚いわりには文字が少ないし、速読には慣れているから、ページをめくる手が止まらない。


 そして、一冊読み終えた時だった。


【レベルアップしました! ステータスを確認してください】


 ——と頭の中に、無機質な女の声が聞こえてくる。


 レベルアップ? ステータス?

 そういえば、本の最初の方にそんなことが少し書いてあった気がする。


 確か、『ステータス・オープン』と頭の中で唱えることで能力値が確認できるとか書いてあったような……。


 一応確認してみるか。


 頭の中で『ステータス・オープン』と唱えてみる。

 すると、目の前にAR画像のような現代的な映像が映し出された。


 ————————————————————————————————————

 名前:諸星公輝 Lv1

 種族:人族

 職業:賢者

 称号:なし


 攻撃力:E

 防御力:E

 魔法攻撃力:E

 魔法抵抗力:E

 攻撃速度:E

 移動速度:E

 敏捷性:E


 ◆保有スキル:『火球』『水球』『風球』『地球』『聖球』『闇球』


 ◆保有熟練スキル:なし


 ◆限定スキル:なし

 ————————————————————————————————————


 レベルアップしたのにレベル1……?

 ということは、さっきまでの俺はレベル0だったってことなのか……?


 それはともかく。

 レベルが1とはいえ、なかなかに酷いステータスである。


 いや、酷いのかどうかすら基準がないのでわからないのだが、常識的に考えてEランクが良いというはずがない。


 でもレベルアップしたということは、これでも多少なりともステータスが上昇したんだろう。


 本を一冊読むだけで強くなれるのなら、案外悪くないコスパかもしれない。


 まだ本を読むことでレベルが上がるのかどうかは定かではないのだが、ひとまずやることもないので本棚から二冊目の本を手にとった。


 この本を読破すると——


【レベルアップしました! ステータスを確認してください】


 また、無機質な女の声。


 しかし、ステータスを確認してもレベル2になっているだけで、他は何の変化もない。


 レベルと能力値は比例しないのか……?


 そんな疑念も浮かんだが、他にやることがあるわけでもないので、そのまま読み続けた。


【レベルアップしました! ステータスを確認してください】

【レベルアップしました! ステータスを確認してください】

【レベルアップしました! ステータスを確認してください】

【レベルアップしました! ステータスを確認してください】

【レベルアップしました! ステータスを確認してください】

【レベルアップしました! ステータスを確認してください】

【レベルアップしました! ステータスを確認してください】

【レベルアップしました! ステータスを確認してください】


 ………………。

 …………。

 ……。


 レベル20に達した時だった。


 ————————————————————————————————————

 名前:諸星公輝 Lv20

 種族:人族

 職業:賢者

 称号:なし


 攻撃力:D

 防御力:D

 魔法攻撃力:D

 魔法抵抗力:D

 攻撃速度:D

 移動速度:D

 敏捷性:D


 ◆保有スキル:『火球』『水球』『風球』『地球』『聖球』『闇球』


 ◆保有熟練スキル:なし


 ◆限定スキル:なし

 ————————————————————————————————————


 能力値がDランクになっている……?


 戦っていないので全く強くなった自覚がないのだが、ステータス上は評価が上がっているようだった。


 この時点で一日経っていたのだが、小屋の持ち主が帰ってくる気配はない。


 外をウロウロしている魔物も、ここにいる限りは襲ってこようとはしてこないらしい。


 もしかするとネトゲの雑魚的のように自ら襲いかかってこないタイプの魔物なのかもしれないが、今の時点で確かめる勇気が俺にはない。


 ひとまず本を読めばレベルが上がるらしいので、本棚の本を全部読破してレベルを上げきってから外に出てみるとしよう。


 あと八十冊。


 明日に回してもいいが、一日に二十冊ずつとすると五日かかる計算になる。


 しかし普通に考えると、用意されている食料はあと三日くらいで底をついてしまう。


 食料が補給される僅かな可能性にかけるよりも、急いで読みきった方が良さそうだな。


 やるか、徹夜——


 社畜として働いていた頃は、平日に二徹は当たり前だった。

 納期の前は最高五徹まではしたことがある。


 あの時を思い出せば、本を読むだけで三徹するくらいは容易い。


 ——それから、さらに二十冊読んで時点で一つ気づいたことがあった。


 ————————————————————————————————————

 名前:諸星公輝 Lv40

 種族:人族

 職業:賢者

 称号:なし


 攻撃力:C

 防御力:C

 魔法攻撃力:C

 魔法抵抗力:C

 攻撃速度:C

 移動速度:C

 敏捷性:C


 ◆保有スキル:『火球』『水球』『風球』『地球』『聖球』『闇球』


 ◆保有熟練スキル:なし


 ◆限定スキル:なし

 ————————————————————————————————————


 スキルなどは相変わらず何の変化もないのだが、能力値がまたランクアップしていた。


 レベル20の時にもランクアップしていたということは、もしかすると20レベルごとにランクアップするのかもしれない。


 ランクアップごとに大きな変化がある……というわけではないのだが、何度も経験するとレベルが上がるごとに少しずつ力が漲る感覚を覚える。


 少なくとも、明らかに握力は強くなった。


 しっかり力をコントロールしないと乾パンを摘んだだけでボロボロにしちゃいそうになるんだからな……。


 このまま百冊読破すれば、外にいる強そうな魔物とも良い勝負ができるかも……?


 この頃には、そんな期待を抱くようになった。


 ◇


 ——そして三日が経ち、目標の百冊を読破した。


【レベルアップしました! ステータスを確認してください】


 ————————————————————————————————————

 名前:諸星公輝 Lv100

 種族:人族

 職業:賢者

 称号:なし


 攻撃力:S

 防御力:S

 魔法攻撃力:S

 魔法抵抗力:S

 攻撃速度:S

 移動速度:S

 敏捷性:S


 ◆保有スキル:『火球』『水球』『風球』『地球』『聖球』『闇球』


 ◆保有熟練スキル:なし


 ◆限定スキル:なし

 ————————————————————————————————————


「はぁ……疲れた————」


 達成感を感じると同時に、どっと疲れが出てきた。

 と、その時だった。


 ガチャ。


 扉から、金属音が鳴った。

 まるで鍵が開いたような音。


 そっとドアのぶに手を掛け、押してみる。


 ギィィィィ…………。


 開かずの間だった扉が、簡単に開いたのだった。

 扉の先には誰の姿もない。


 森の中の拓けた場所にポツンと建つ小屋なので、どこに隠れることもできないのだが、どこにも人の姿はなかった。


「……あれ?」


 外から扉を観察しても、扉には鍵穴らしきものはなかった。

 最初から鍵なんてかかってなかったらしい。


 でも、確かに開かなかったはずなんだが……。


 気味の悪さのようなものが背筋を上ってくる。

 早くこの小屋から離れたくなってくる。


 ……でも、さすがに三徹したままわけもわからない場所を冒険するのはキツい。


 もう一眠りしてから出ていくとしよう……。


 ◇


 目が覚めても、やはり俺は異世界にいるらしかった。

 寝る前に見たものと同じファンタジー風の景色。


 元の世界に帰れない不安と、苦しい日々に戻らなくていい安心感の両方が同時に頭の中を支配する。


「ともかく、どこか人がいる場所まで辿り着かないとな」


 バタン。


 小屋を出て、まずは小屋の裏をゆらゆら流れる川で水を手の平に乗せた。


 飲んでも大丈夫なのかわからないが、飲まなくても干からびて死ぬだけだしな。


 長距離を移動することになったら、これが命綱になる。

 となると、飲まず嫌いするわけにもいかない。


「見た目は綺麗そうだけど……よし」


 ゴクゴクゴクゴク……。

 ——うまい!


 喉を通る時の気持ちの良い清涼感と同時に、ミネラル感のある独特のさっぱりした味わいが口の中に広がる。


 大昔に一度飲んだことがある高級軟水に似ている気がするなぁ。


 しっかりと喉を潤した後、ふと水面を覗いた。


「——⁉︎」


 水面に浮かぶ俺の顔が、懐かしいものになっていた。

 俺であって、俺じゃない。


 まるで十五歳くらいの時の俺——みたいな。

 疲れ果てたアラサーのおっさん姿はどこへ行ってしまったのやら。


 どういう理屈なのかわからないが、異世界に転生したことで、歳も若返ってしまったらしい。


 確かに三徹したのに、半日寝ただけでもう元気を取り戻している。

 これが若さ——か。


 何にせよ、体力を取り戻せたのは大きい。


 俺は川辺を離れて、小屋の方へ戻った。

 なのだが——


「え……あれ……?」


 約四日間俺が過ごした小屋があった場所には、何もなかった。


 あったはずだった場所は周りと同じような草むらになっており、痕跡の一つすら見出せない。


 俺は呆然としてしばしの間、跡地を眺めた。

 狐に摘まれたような気持ちになってしまう。


「いや、まあ……いいか」


 どうせ戻るつもりがなかった場所。

 これでいよいよ自分だけの力で生きていかなくちゃならなくなったわけだ。


 さて、切り替えてこの魔物ばかりの場所を乗り越えて行かなくちゃな。

 そのためには、今の俺でどこまで戦えるか——だな。


 俺の戦闘力次第で作戦が変わってくる。


 魔物を倒せるのなら、川伝いに歩いて人里を探せばいい。

 逆に倒せないなら迂回して魔物を避けながあ人里を探すのだ。


 確か——いくつかスキルを持ってたよな。


 『ステータス・オープン』


 ————————————————————————————————————

 名前:諸星公輝 Lv100

 種族:人族

 職業:賢者

 称号:なし


 攻撃力:S

 防御力:S

 魔法攻撃力:S

 魔法抵抗力:S

 攻撃速度:S

 移動速度:S

 敏捷性:S


 ◆保有スキル:『火球』『水球』『風球』『地球』『聖球』『闇球』


 ◆保有熟練スキル:なし


 ◆限定スキル:なし

 ————————————————————————————————————


 あった、この六つのスキルだ。

 どれも同じように見えるが、一度試してみるか——


 近くにいたネバネバの魔物……確か、大量に読んだ本の中にこんなやつが紹介されていたな。

 スライム……だっけ?


 『火球』。


 特殊な詠唱はいらないらしく、スキルを使おうと思っただけで使えるようだ。


 身体の中を何か熱いものと冷たいものが同時に流れるような感覚を覚える。

 血液じゃないとすれば、魔力……とかだろうか?


 何にせよ、俺の手の平の上に真っ赤な火の玉が生成された。

 ターゲットのスライムに狙いを定め、火球を発射。


 ドオオオオオオンンンッッッ‼︎


 高速で飛んで行った火球がスライムに衝突したと同時に爆発した。

 黒い煙が散った後も、スライムの姿は見つけられない。


「意外とできそうだな」


 俺は安堵の息を漏らした。

 と、その瞬間だった。


【スキル『火球』がレベルアップしました!ステータスを確認してください】


 おっ、スキルにもレベルがあったのか!


 『ステータス・オープン』——と頭の中で唱えて、すぐに確認してみる。


 ————————————————————————————————————

 名前:諸星公輝 Lv100

 種族:人族

 職業:賢者

 称号:なし


 攻撃力:S

 防御力:S

 魔法攻撃力:S

 魔法抵抗力:S

 攻撃速度:S

 移動速度:S

 敏捷性:S


 ◆保有スキル:『火球 Lv2』『水球 Lv1』『風球 Lv1』『地球 Lv1』『聖球 Lv1』『闇球 Lv1』


 ◆保有熟練スキル:なし


 ◆限定スキル:なし

 ————————————————————————————————————


 さっきまではなかったスキルレベルが追加されていたのだった。

 どれくらい強くなったんだろうな?


 俺は早速スキルレベルが上がった火球をもう一度使ってみる。


 手の平に浮かぶ火球は、さっきよりも少し青白くなった気がする。

 火は、燃焼温度が高くなると青くなると聞いたことがある。


 確かに強くなっているみたいだ。


 でも、敵の強さがわからないとこれが客観的に強いのかどうかよくわからないな……。


 自分のステータスを見るのと同じような感じで魔物のステータスも確認できるといいんだが……。


 その辺を移動しているスライムを凝視し、『ステータス・オープン』と頭の中で唱えてみる。


 しかし、特に変化はなかった。


 さすがに、それは贅沢というものか。

 そう思った瞬間だった。


【シークレットスキル『鑑定』を習得しました! ステータスを確認してください】


 え……?


 シークレットスキルに関してはよくわからないが、鑑定ってことはもしかしてだけど……。


 俺はステータスを開く時間も惜しんで、近くのスライムを再度凝視し、『鑑定』を使うよう意識してみる。

 

 すると——


 ————————————————————————————————————

 名前:スライム Lv1

 種族:魔物

 職業:なし

 称号:なし


 攻撃力:F

 防御力:F

 魔法攻撃力:F

 魔法抵抗力:F

 攻撃速度:F

 移動速度:F

 敏捷性:F


 ◆保有スキル:なし


 ◆保有熟練スキル:なし


 ◆限定スキル:なし

 ————————————————————————————————————


 自分のステータス画面のような表示で、魔物のステータスを覗くことができた。


 なるほど、能力値F……通りで弱かったわけだ。


 この辺りの敵が弱いだけなのか、この世界の魔物が全部弱いのかは不明だが、こうして『鑑定』で敵のステータスを確認しながら進めば安全に移動できそうだ。


 ◇


 基本的に川伝いに村や街が造られるから、川伝いに進んで下流を目指せば村が見つかるはずなんだが……なかなか人里は見つけられなかった。


「しかし、ちょっと気になるな……」


 下流に進むにつれて、だんだんと魔物のレベルが上がっているのだ。

 例えば——


 ————————————————————————————————————

 名前:ウルフ Lv5

 種族:魔物

 職業:なし

 称号:なし


 攻撃力:E

 防御力:E

 魔法攻撃力:E

 魔法抵抗力:E

 攻撃速度:E

 移動速度:E

 敏捷性:E


 ◆保有スキル:なし


 ◆保有熟練スキル:なし


 ◆限定スキル:なし

 ————————————————————————————————————


俺の能力値はSランクだから何の問題もなく瞬殺できるのだが、これがどこまで続くのやら。


時々休憩を挟みながら、目の前に現れる魔物をスキルで薙ぎ倒していく。


スキルレベルは、レベルが上がるごとに少しずつ必要経験値が増えていくようだった。


 六種類のスキルをバランス良く育てており、『火球』以外は全てがレベル5。


 あともう少しで『火球』もレベル5になるはずなんだけど……そんな風に思いながら、ウルフを倒したその瞬間。


【スキル『火球』がレベルアップしました! ステータスを確認してください】


【スキル『火球』『水球』『風球』『地球』『聖球』『闇球』が全てレベル5以上になりました。スキルは統合され、『魔力弾 Lv1』になりました! ステータスを確認してください】


 ——⁉︎


 聞き慣れないフレーズが聞こえてきた。


 つまり、今までの六種類のスキルは全部使えなくなって、これからは『魔力弾』を使えと……そういうことなのか?


 ひとまずステータスを確認しよう——と思った瞬間。


 ザザザザザ…………。


 近くにいたはずの鳥が一斉に飛び立ち、近くにいた魔物はサーと俺の近くを避けるように離れていった。


 明らかに、さっきまでと空気が違う。

 どんよりとした殺気漂う雰囲気。


 何が起きた……?


 ガウルルルルルルル……。


 唸り声が聞こえてきたので、振り向くと——そこには大きな狼の怪物が佇んでいた。


 さっきまでのウルフはせいぜい大型犬くらいの大きさ。

 それに対して、この怪物はウルフの十倍くらいの大きさがある。


 頭には金色の王冠を被っており、まるでウルフの王様……みたいな。


 うろ覚えなのだが、確か王冠を被った魔物は特定の呼称がついていた気がする。


 ウルフの王様は……キングウルフか。


 人間の俺が一飲みで食われてしまいそうだ……。

 こんなのに見つかって、俺……生き残れるのか?


 そうだ、ステータスを確認しよう。

 『鑑定』。


 ————————————————————————————————————

 名前:キングウルフ Lv40

 種族:魔物

 職業:なし

 称号:なし


 攻撃力:C

 防御力:C

 魔法攻撃力:C

 魔法抵抗力:C

 攻撃速度:C

 移動速度:C

 敏捷性:C


 ◆保有スキル:『獰猛な牙』


 ◆保有熟練スキル:『高速移動』


 ◆限定スキル:なし

 ————————————————————————————————————


 さっきまでの魔物と比べると桁違いの能力値だが、俺のと比較する限り勝てない相手ってわけでもなさそうだな。


 まずは、敵の出方を伺うか。

 何事も慎重に、だ。


 数秒の睨み合いの末、キングウルフが襲いかかってきた。


 速い——が、目で追えないレベルではない。


 俺は正確に見切った上で、紙一重で攻撃を避けた。

 あの牙で噛まれていたら、確実に欠損は免れなかっただろうな……。


【熟練スキル『高速移動』を習得しました! ステータスを確認してください】


 キングウルフの動きを完全に見切ったからだろうか、新しいスキルを獲得したらしい。


 『スキル』と『熟練スキル』の違いが何なのかはいまいちわからないのだが……。


 しかし、『高速移動』だけスキルを習得できて、『獰猛な牙』が習得できなかった理由は気になるな。


 もしかして、俺に牙がないから……だったりするのか?


 身体の構造的に不可能なことはできない——だとすると分かりやすいな。


 と、今はそんなことどうでもいい。

 目の前の魔物をどうにかしないとな。


 やるか、覚えたばかりのスキル。


「これでどうだ?」


 『魔力弾』——‼︎


 突き出した手の平の前に、無色透明の球形が浮かび上がったのを感じた。


 『火球』や『水球』の時は分かりやすく赤色だったり、青色だったりしたのだが、今回は無色……まるで、無属性みたいだな。


 いや、ちょっと待てよ?


 さっきまで使っていた火球を思い出して、魔力弾に反映してみる。

 魔力弾が轟々と燃える赤色に染まった。


 なるほど、自由に属性を選べることに加えて無属性も使えるようになったってことか。


 謎の声の主が『進化』だと言っていた理由もわかる気がする。


 どうせなら、無属性とやらで試してみようか——


 ドオオオオンンンンッッッ‼︎


 轟音が反響し、そして——


「よっし——!」


 今までで一番手強かった敵だが、何とか無傷で乗り切ることができた。


 一時の喜びを噛みしめた後、キングウルフの状態を確認した。


 属性球とは違って、無属性だと亡骸の損傷はかなり抑えられるみたいだ。

 考えてみれば当然かもしれないが……。


「これだけ強い魔物なら、どこかで買い取ってもらえそうなもんだけど……重そうだな。あの本に書いてあった『アイテムスロット』でも使えればいいんだけど……」


 アイテムスロットとは、どこでも自由に異空間に物を収納したり、逆に取り出すことのできるスキルだ。


 ファンタジー系のゲームではそんな要素が大体あるし、もはや冒険する上では必須級なんだが……。


 そんなことを思っていたその時だった。


【シークレットスキル『アイテムスロット』を習得しました! ステータスを確認してください!】


 おお——!


 ちょうど良いタイミングで欲しいスキルをゲットすることができたようだ。

 早速『アイテムスロット』を使用して、異空間にキングウルフを収納した。


「ふう」


 そういえば、今のスキルの状況どうなってるんだ?

 少し整理しておきたい。


 『ステータス・オープン』。


 ————————————————————————————————————

 名前:諸星公輝 Lv100

 種族:人族

 職業:賢者

 称号:なし


 攻撃力:S

 防御力:S

 魔法攻撃力:S

 魔法抵抗力:S

 攻撃速度:S

 移動速度:S

 敏捷性:S


 ◆保有スキル:『魔力球 Lv1』


 ◆保有熟練スキル:『高速移動』


 ◆限定スキル:なし


 ◆シークレットスキル:『鑑定』『アイテムスロット』

 ————————————————————————————————————


 大分、増えてきたな。


 しかし……普通の人間ってどのくらいスキルを持ってるんだろうな……?

連載候補短編です!


最後までお読みいただきありがとうございます。


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