3間 少女と、コンタクトと、もじゃもじゃ頭
あれから一体どれだけ時間が経っただろうか。
いくら待っても、1人として私に返信などのアクションを起こしてくる人はいなかった。
このまま誰も反応してくれないんじゃないか、そう思うと段々あせってきた。
……大丈夫、家政婦の三間さんには友達の家に泊まりに行くと言って出てきたからあせることは無い。
気持ちを落ち着けるためにも、私は丁度お腹も減っていたということもあって、食べ物をいくつか注文した。
部屋に届いた料理ははっきり言って美味しくない。学校で出る給食の方がはるかに美味しい。
それにしても、本当に今更だけど、こんなことで泊まらせてくれる人が現れるのだろうか。
倉持さんは物知りだけど私よりバカだからこれが嘘の情報でも何も驚きはしない。
しないけど、困るな…………。
そう思いながら、動画サイトで動物の動画を見ながら美味しくも無いピザを口に運んでいると、
『初めまして、ヒゲの人と言います。大丈夫?』
そんなメッセージが飛んできたという通知が画面下に表示された。
慌てて飛び起きて、動画を止めて開きっぱなしだったSNSのページを表示する。
それはSNSの機能の1つであるダイレクトメッセージだった。
誰にも見られずにやり取りが出来るチャットルームだ。
ダイレクトメッセージでわざわざあちらから接触してくれるのはなんともありがたい。
『初めまして、ヒゲの人さん。31と申します。はい、今はひとまずインターネットカフェにおりますので何とか……』
『そう、うちでよければ泊めようか?』
『良いんですか!』
あんまりにもすんなりとスムーズに事が進むものだから、少し疑いもあったけど、ここで引くわけにもいかない。
『いいよー事情はその時聞くとして、今どこ?』
『えっと三軒茶屋の――――』
私は今いる場所を正確に教えると、『分かったすぐに向かうから店の前で待ってて。一応俺のチャームポイントは凄い無精髭だからすぐに分かると思う』と返信があった。
嬉しさに椅子の上で小さくピョンピョン飛びながら、『分かりました! お待ちしてます!』と返信した。
すると、『ヒゲの人』さんは思い出したように、『あ、そうだ』と前置きしてから、
『一応訊くけど、31さんって、ネカマじゃないよね?』
ネカマ? 聞いたことのない単語だ。
すぐに新しい検索ページを開いてメッセージの脇で調べると、ネットの中のオカマという意味だった。
なるほど、ようは『ヒゲの人』さんは私が女の人に成りすました男の人だと勘違いしているのか。
『違いますよ、私はネカマではありません』
『それならいいんだけど……そういえばキミ今何歳? 女子高生かなにか?』
それを見て、一瞬答えに迷ったが。
『12才の小学6年生ですが』
まあ誰も見ていないし、どうせ知られることだからと素直に答えた。
しかし、それから『ヒゲの人』さんからの返信は無かった。
もう家を出たのだろう。なら私もさっさとここを出なければ。
そう思って、私は大量に頼んだ美味しくも無い料理を半分以上残して、レジでお会計をして外に出た。
一応財布は持ってきていたけど、ここまでの交通費とインターネットカフェでの食事代やらですっからかんになってしまった。
まあ、小学生のおこづかいならこれが限界でしょう。
でもお金が無くなっても大丈夫、何故なら私には『ヒゲの人』さんがいるから。
まだ会ってはいないけどきっといい人だ。なぜなら唯一私に手を伸ばしてくれた人だから。
インターネットカフェのあるビルの前に立って壁に寄りかかり、『ヒゲの人』さんを待っていると、目の前がなにやらやけに騒がしい。
先では、みすぼらしい恰好をした、もじゃもじゃ頭の恐らくホームレス男が、なんともまあみっともなく自分の前に立つスーツの男の人たちに向けて土下座している。
なんとみっともない、ああはなるまい。
私はそう強く決心して、もじゃもじゃホームレスから目を離した。
それにしても。
「『ヒゲの人』さん、いつ来るんだろう…………」