1-4-B. 追憶のベリー
「そういえば、ミズキもそんなに良くないよね。くじ運」
「……んぁ?」
ヤバい。
完全に油断した声が出た。
集中力が切れていたのはボクもだったらしい。
「ぶふっ!」
ほらもう、これだ。
悪い言い方をすれば、神流は人の弱みを見つけるのが大好きなヤツだ。
スキを見せた自分が悪いのは明確だけど、ここまであからさまな反応をされるのは心外だ。
もっとも、ある程度は節度を持ったイジりに留めてくれるので、そこまで嫌な感じにはならないが。
「先輩たちのお土産で、明らかにハズレっぽいヤツもらったことあるよね」
「ハズレっぽい土産はピンポイントで渡されたこともあるから、それについては別に痛くも痒くもないな」
「春紅先輩のだっけ? 何かもらってたよね」
「ぺらっぺらの星条旗のパーカーか。あれはじゃんけんで勝ち抜けしたから」
「おー、男気」
平松さんがそう言って笑う。
おそらく彼女の想像の中でボクはアメリカ国旗に身を包まれているのだろう。
二年生の先輩たちが見学旅行で関西方面に行ったときに、大阪・アメリカ村だかで買ってきたとかいう絶対に日常的なシーンでは着られない代物を渡されたことがある。
――ああ、たしかに痛くも痒くも無いけれど、その代わりに変な汗が出てきそうだ。
「あの後個別でよくわかんない小物掴まされてるんだよ」
「なるほどねえ」
持たされているところを写真に収められているので、きっと家に帰ってからボクと中学時代の同級生である妹の紅音と笑い転げていたのだろう。
「片付け的なのでも負けること多いよね」
「……それも、別段困ったことは無いな」
タイムセールに合わせるには敢えてそうしていることもあったりする。
ただ、神流としては『ああ言えばこう言う』状態のようで、少し不満げに口を尖らせた。
ついでにノートの上の消しカスをこちらに飛ばしてくる。
それはやめてくれ。
「素直じゃないなぁ」
「ひねくれてもないだろ」
「その言い方はちょっとひねくれてるけどね」
半笑いの神流に、平松さんが助け船を出してしまった。
そしてボクは墓穴を掘ったらしい。
「たしかに~」
「カワイイとこあんじゃーん」
「うっさいうっさい。集中できない」
強引に話を打ち切らせるに限る。
敗走だのハイ論破だのと言ってくる向かい側の席のかしましい三人娘はとりあえず無視しておく。
予想通りに三人はある程度ボクのことをからかい終わって満足したらしく、誰からともなくおとなしくなって、自分のノートに向かっていった。
ここで余計なことを言うと元の木阿弥、鰯で精進落ち。
本当に小さくため息を漏らして、無言のまま自分の勉強に戻ろうとしたところで小さなミス。
消しゴムをペンケースから取り出そうとして手が滑った。
使い込んで小さくなってきた消しゴムは、大した勢いもなかったわりに回転が止まらずそのまま机の下へ行ってしまった。
途中までは目で追えていたけれど、机から落ちてしまってはどうしようもない。
さっきとは少し違ったため息を漏らしながら、椅子から降りてしゃがみ込む。
「……あ」
「だいじょうぶだよ」
ボクとほぼ同じタイミングで聖歌が椅子から降りた。
聖歌の視線の先にはさっき落とした消しゴム。
運が良いのか悪いのか、聖歌が座っていたところの足下のあたりにあった。
たしかに、潜り込んで手を伸ばすのは、若干躊躇われるような場所だ。
おとなしく聖歌ががんばってくれているのを見守る。
――事故があるとよくないので、視線は外しておくけれど。
だったら見守ってはいないか。
くだらないことを考えている間もあまり無く、消しゴムはすんなりと聖歌の手の中に収まった。
「はい」
「ありがと、助かったよ」
「どーいたしまして」
にこりと微笑んで、ふんわりとベリーの香りがした。
「事故」を自ら回避しようとする瑞希は、紳士だけどフラグクラッシャー。




