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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (3) / Melancholic Minuet〜  作者: 御子柴 流歌
第2曲: アフロディーテ

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2-XX-B. 繕えない


「そこら辺で今何て言った?」


 まだ陽は暮れ残っているが、校舎裏はそれなりに暗い。

 しかもちょうどみずきくんからはテントの影になっていて、誰が言ったかはわからない。

 ただし間違いなくその声が聞こえてきた方向に向かって、彼は言う。


「……ゃべ」


「何て言ったと訊いている」


 小声で張本人が呟くが、さらにその声に重ねるように、そして追い詰めるようにみずきくんが続ける。


 テントの周辺の空気がピンと張り詰める。

 これ以上不用意に触れたら最期――それくらいにギリギリの状態になってしまった。


「ちょっとさぁ。今誰が言ったか知らないけど、やべえじゃなくて謝るとかしたら」


「……いい。早希(さき)、もういい。わかった」


 そちらの方へ向かって早希ちゃんが怒りを向けたが、そのセリフは途中でみずきくんに遮られた。


「『ごちゃごちゃめんどくせえ』って言うなら、ハッキリさせる」


「ちょ、ちょっと待って」


 不穏な空気が(いや)でも伝わってくる。

 早希ちゃんが止めようとするより早く、みずきくんは言い切る。


「ステージ担当には悪いけど、さすがにライブ状態では弾きたくないから、断る」


「えっ……」


 すみれちゃんが悲愴な色の声を漏らす。

 それと同時にステージ担当の子たちが息を呑む音も聞こえた。


「だから、それも受け取れないから。……悪いけど」


 すみれちゃんの手の中で汗がいているペットボトルを指差しながらそう言い切ったみずきくんは、一切の雑音を受け付けまいとするようにひとり行燈作業へと戻った。




 その後のテント周辺の空気は、お世辞にもイイものではなくなった。


 十七時前まで作業をしていた人たちが、そのまま作業を続けているだけという状態。

 会話もゼロでは無いけれど、作業関連の必要最低限なものだけ。

 途中からここに来た人がその中に入るなんて出来るわけが無かった。


 小野塚(おのづか)くんと二階堂(にかいどう)くん、さらには井ノ原(いのはら)くんの三人が、みずきくんに何とか心変わりを促そうとしていたけれど、みずきくんは『今日の間だけは放っておいてくれ』の一点張り。

 しばらくしてから、この原因を作った張本人はステージ担当班に取り押さえられ、突き上げに遭いながらもみずきくんに謝罪をした。

 みずきくんもイラついて悪かったと応じたけれど、その後も延々謝り続けていた。


 だけど、それで彼は解放されない。

 今度はすみれちゃんたちステージ担当の子たちが、彼の周囲で必死のお願いを始めた。

 ムリは承知、だれどこれを逃したら絶対にマズイ。

 全員がそんな雰囲気を全面に出していた。


 その中でも、亜紀子(あきこ)ちゃんだけは「他にも方法はあるかもしれないから、そうしたらOKしてくれないかな」という言い回しをしていた。

 まるで自分が同じ立場だったら彼に対してしそうな表情と雰囲気で、――うまく表現ができない気持ちになった。


 地下鉄の駅あたりでそれぞれの帰路へ別れる。

 その時までには、心変わりしたら教えてね、ムリならムリでいいから、とだいぶ強引さは薄くなっていたけれど、彼の首が縦に振られることは無かった。


 列車に乗り、みずきくんとは少し離れたところに立つ。

 チラチラと彼の方を見ていたところで不意に肩を叩かれた。


「おっすー、聖歌(せいか)ー」


美里(みり)……」


 そこにいたのは美里だった。

 美里はあたしの視線を追いかけたところにいたみずきくんに気づき、あたしも連れて声をかけに行こうとしたけれど、それは止めておいた。

 まもなくして次の駅に着くと混雑度合いが増す。

 さすがに大きな移動はできなくなる。

 だけどその人並みの隙間から僅かに見えた、無表情の彼がやたらと脳裏に焼き付いた。





「やっほい、ミズキくん」


「ん?」


「あ、ちょっと美里!」


 乗り換えの星宮(ほしのみや)中央(ちゅうおう)駅のホームで、美里は結局みずきくんに声をかけてしまった。


「やー。だって、聖歌が声かけたそうにしてたし」


「そ! ……そんなこと」


 否定しようとして尻すぼみになる。

 そんなことが無いわけは無いんだけど。

 でも、何を言ったら良いかわからない。


 ――もしかすると、あたしと彼は今、同じ傷を抉られているような気がしているから。


「ウワサに聞いたけど、何かそっちのクラス大変そうだね」


「あー……、まぁ、うん」


「ごめんなさい」


 乗り換えまでの間に、さっきあったことは美里に聞き出されていた。

 こういう内容の話は聞かれたくなかったはずで、咄嗟に謝ってしまう。


「いや、聖歌が謝ることじゃないから」


 笑顔を作ろうとして、繕い切れていない。

 痛々しさのようなモノが垣間見えたような気がしてしまった。


「まー、そりゃーヤだよねぇ」


 美里はそう言って苦笑いを浮かべた。


「私だって、いくらなんでもクラスの出し物で『ひとりで歌え』って言われたら、さすがにイイ顔はしないわ」


 本心なのか、それとも彼への慰めなのだろうか。

 半々か、でも恐らくは後者の方に重点が置かれていそうだ。

 美里はそう言いながらみずきくんの肩を何度か撫でた。


「あたしも、その……。ムリしないでイヤならイヤって言った方が良いと思うよ」


 美里の言葉を聞いたおかげなのか、自分の口から自然とそんな言葉が出てきた。

 みずきくんは一瞬だけ目を大きく見開いて、軽くため息を吐いて――。


「悪目立ちみたいなことは、もうしたくなかったんだけどな」


 視線を落として、哀しそうに笑って――。


「ごめんね、ふたりとも」


 ――そのままの微笑みを、あたしたちに向けた。






               ○






 ――『今日はごめん。考え直した。当日がんばるから、よろしくお願いします』


 時計の針が深夜を示すころ、クラスのグループにみずきくんからのメッセージが流れて、あたしは眠りに落ちるまで静かに泣いた。

第3部でこの辺りの原因が語られる……予定です。

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