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1-3-A. クラス内決選投票


「それじゃあ決選投票の結果ですが、…………二年三組は『バブリー喫茶』を第一候補とすることになりました!」


 結果発表前にちょっとだけタメを作った上で「はい、拍手!」と、お手本通りの進行をしながらしっかりと賑やかしにかかる学級委員長の花村(はなむら)すみれは、「タメが長い!」と叫ぶ気満々だった数名の男子を、絶妙なタイミングであしらった。

 わざとらしくガタガタと揺れた机の音に、思わず笑う。

 黒板に大きく書かれた第一候補である謎の単語にさらに大きな丸を書きながら、ボクはほっと胸をなで下ろしていた。


 バブリー喫茶とはなんぞや、となりそうだがそれは読んで字の如く、バブル期の装飾やら服装やらで行う喫茶室だという話。

 黒板には誰が描いたのやら、ミラーボールがきらめいている。

 装飾品として使う気なのだろう。


 どうしてこうなったかといえば、ふつうの喫茶室だとウケが悪いのではないかということで、付加価値を付けたということらしい。

 当然ながら初出のタイミングでは、ほとんどのクラスメイトの頭の上には『?』が乗っかっていた。

 ボク自身もあそこまでしっかりプレゼンをされなければ、「なんじゃそりゃ」の一言で片付けてしまいそうだった。


 この結果に主に男子の数名がかったるそうなリアクションを見せているけれど、それはあくまでも芝居。

 いちばん怠そうな顔をしているのが、このクラスの賑やかし筆頭格である小野塚(おのづか)大輔(だいすけ)の時点でそれは明らかだった。

 とはいえ、大輔のイチオシは第一候補のモノでは無い。

 それどころか、残念なことに自分以外の票を得られないまま、哀れ大輔の希望は泡沫候補になっていた。


「……なぁ。こういう恰好ってさ、オレらもやんの?」


「やめれや、誰が得すんだよ」


「誰も得しねえだろ」


 ひっそりとそんなボヤキが聞こえてきた。

 見れば教室の廊下側前方、三人ほどの男子が固まって、これ以上無いくらいに眉間にシワを刻みつつスマホを眺めていた。

 恐らく『バブル 服装』のような検索ワードでグーグル先生に教えを請うたのだろう。

 ああいうのは知らぬが花ということもあるのに、なかなかの勇者だった。


 そんな勇者たちについては一旦放っておくとして、ボクは教壇の上に置いてあったプリントに候補になった三つをさっさと書き付けておく。


 各クラスが出す候補は三番目まで、優先順位を付けた上で選ぶ決まりになっている。

 一応第三候補のモノまでそれなりに人気は集めていたので、もし第一候補の喫茶店系にならなくてもそこまで揉めたりはしないはずだ。

 ――いや、あまり適当なことは言えないかもしれない。

 最終的にはくじ引きで決まるものだから、そこまで無理難題を言ってこないでもらえると嬉しいところだった。


 ちなみに第二候補が『ホラーハウス』で、第三候補が『エスニック風縁日』になっている。よくわからない取り合わせにすることで二度見をしてもらえるようなインパクトを持たせた方がいい、という意見を元にしているせいで基本的に出てきたアイディアはどれもがこのパターンだった。

 そのせいもあって、第二候補の『ホラーハウス』がどストレートすぎて逆に新鮮に思えるくらいだった。

 縁日はいくつかの取り合わせがあったので、予選投票をした結果『エスニック風』が採用された、という経緯だ。

 さすがにそれは食い合わせが悪いような気がするのは、ボクだけだろうか。

 食あたりでも起こさなければいいのだが。


「さて、みずきくん!」


「ん?」


 ボールペンをしまおうとしたところで、真横から元気な声が突き刺さってきた。

 キャップにペン先を入れそこねたせいでインクが親指の付け根あたりに付いてしまったが、当然そんなことを構うような勢いではない。

 すみれは勝ち気そうに瞳の奥を光らせた。


「委員会へ!」


「……いや、その前に一応号令ね」


「あ」


 この時間、まだホームルームなんですよね。


 すみれは「あははー」と軽い調子で笑い飛ばして、ボクといっしょに教壇を担任の中本(なかもと)英次(えいじ)先生に譲り渡した。







 何だよ、エスニック縁日って。

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