2-19-B. 悪夢、ふたたび
「……差し入れ?」
「そう、差し入れ!」
ぐいっと押しつけるように、すみれはペットボトルを押しつけてくる。先日彼女にあげたものと同じスポーツドリンクだったが、おそらく購買で買ったものだろう。
一昨日、ランニング終わりだったすみれと亜紀子に飲み物をあげたが、そのお礼ということなのだろうか。
別にイイから受け取って、という話をしていたのだが。
だけれど、それにしては、何か妙な引っかかりを覚えてしまう。
「何で海江田だけなんだよー!」
井ノ原くんが叫ぶ。
その横から何人か、同じようなブーイングの声が上がる。
「うん、まぁ、そうなんだよね」
違和感の正体は、コレだ。
先日のお返しをどうしてもというなら、昨日とか、あるいは昼休みとか、目に付かないようなところにしてくれそうなものだ。
敢えてブーイングを受けそうなところでするのも、どこかおかしい気がした。
こういうところで、こんな渡し方をする――ということは。
「疑って悪いんだけどさ。……何か、あるの?」
「いやぁ……、あははー」
すみれを真正面から見つめて言えば、彼女はわざとらしさ満点のリアクションをくれた。
なおも視線をそのままにわざとらしく微笑むと、あっさりすみれは降伏した。
「えーっと、まぁ、それはアレです。賄賂みたいなモノです」
「……賄賂と来たか」
いやな予感しかしないワードをわざわざ選んでこなくてもいいのに。
そう思いつつも、話を先に進めてもらうことにする。
「ステージの件なんだけど、ね」
「……ほほう」
そんな予感もしていた。
あれからピアノの話が出てこなくて、でもこちらから『今どうなってるの?』と話を振るのも違う気がして、練習だけは続けているという状態だった。
「昨日、生徒会のステージ担当の人から聞いたんだけど」
「うん」
やたらと間を取ってくる。
いつもはハキハキとしたしゃべりのはずだが。
「本番の時にね、楽器って使って良いんだって」
「……なるほどね」
――さすがにこれで察せないのは鈍いだろう。
そういうことか、とひとりで頷いておく。
半分以上諦めがついているけれど、まだペットボトルはすみれの手の中にある。
あくまでもポーズのひとつだけれど、ちょっとくらいは抵抗させてもらっても良いはずだ。
「それでね……」
「『当日は生演奏でやって欲しい』ってことかな?」
「……はい、その通りです」
だから、すみれに最後まで言わせなかったのは、その抵抗の証だ。
「そう来たかぁ……」
「ほ、ほら! ミズキくん、収録するタイミング次第では練習がほとんどできないかもしれない、って言ってたでしょ? これだったら時間はいっぱい取れるよ!」
「……それって、裏を返すとステージ発表本番まで、ボクは吹部の定期演奏会の楽譜とあの楽譜の掛け持ちを続けないとダメって話じゃん?」
「うぐっ……」
「まぁ、それもアリなんだけど……」
ちょっとイジワルなことを言ってしまったので、フォローはする。
実際その点については、すみれの言うとおりだった。
放送室の都合上、次に部屋が空くタイミングはしばらく先になると言われている。
だけど不意に空くかもしれないから準備しておいて、とも言われている。
これが結構つらかったわけで、それよりは明確な準備スケジュールを立てやすい『本番生演奏』の方がありがたいということも言えた。
――進んでそれを選ぶか、と言われれば当然別問題だけれど。
「ちなみに、それってさ」
「……うん」
こちらもわざと間を取ってから、話を続けてみる。
「どこで、演奏すればいいの?」
「えーっと……」
あからさまに視線を泳がせるすみれ。
その視線は回遊魚レベルで動き回っている。
「えーっとね、ステージ裏……とか?」
――あからさまに怪しい。
それにそもそも、すみれの認識は根本的なところで大きく欠けているところがある。
彼女の視線よりも泳がせておいたけれど、ここら辺で引導を渡してあげるべきだろう。
「マイクでも置いておけばステージ裏でもいいかもしれないけど、たしか学祭期間中ってアップライトピアノはステージ上、グランドピアノはステージ下で固定置きじゃなかった?」
「あー、……うん。そうね、そりゃあ、ミズキくんだって委員だから知ってるよね」
「一応はね」
すみれは観念したようにため息を吐いたけれど、ボクとしてもため息は吐きたい心境だった。
次は、別視点からこちらのシーンを。




