2-14-B. 低気圧ボーイ
――失念していた。
こういう天気の日に外での活動をメインとしている部活は、屋内での基礎練習か休みになるかのいずれか。
学校祭の準備期間中はそれぞれのクラスでの活動を優先するところも多い上、機材や作ったモノを廊下に出していることも多いので、必然的に休みになる部活動が多かった。
こうしてあからさまに雰囲気を作る姿を見たのはいつ以来になるのだろうか。
以前見たときも、彼らはこちらに気付いていないようなタイミングだったはずだ。
そこら辺しっかりしているというのか、空気を読んでいるというのか。
聖歌と祐樹は人目に付くような場所でそれらしい空気を作らないようにしている。
教室内でも普通のクラスメイトのように話すことはあっても、カレシ・カノジョのように話している姿はほとんど見なかった。
もちろんこの学校に異性交遊について厳しく取り締まるような校則は無いのだけれど――。
「どーすっかな……」
独り言を添えて、いつぞやのようにドアの影に身を隠す。
そしてため息を吐く。
作業に夢中になっているふたりからは、恐らくボクの姿は見えていなかったはずだ。
――いや、正直、見えていたから何だという話ではあった。
何もおかしいことはない。
そう思えているだけ、ちょっと以前のボクよりはマシなのかもしれない。
そんなときふと思い浮かんだのは、亜紀子の顔だった。
あの娘は、去年の学校祭のときにボクと祐樹、そして去年のクラスメイトだった高畠玲音との立ち話を聞いて、廊下に立ち尽くしていた。
思えばボクと彼女が会話をよく交わすようになったきっかけは、幸か不幸か――明らかに不幸が勝っているだろうけれど――あのときだった。
彼女は今どうしているだろうか、とアタマを回転させてみる。
そういえば今日は体育館でのステージ発表練習が割り当てられていて、機材などの確認をすみれたちといっしょにしていたはずだ。
そもそも、彼らふたりのことだ。
意図的なのかどうかは知らないが、ああいう状況にならない限り良い雰囲気を作らないふたりが、亜紀子の目の前で無用心なことをするとは思えなかった。
つまり、この教室の中に彼女は居ないはずだった。
「……それは、イイんだけどさ」
咄嗟の判断だったとはいえ、何故隠れてしまったのか。
自分から面倒なことを引き起こしてしまっている。何とも情けない。
何食わぬ顔をして教室の中に入ってしまえば、後はノリでどうとでもなっただろうと、今さらながら思う。
別に彼らの方へと足を向けることはない。
教室での作業をしている子は他にもいる。
ドアのすぐ近くでも作業はされていた。
だけど一旦隠れてしまったことで、もう一度意を決する必要が出てきてしまった。
独り言で『どうするか』なんてことを口走っている時点で、もう負けだった。
「おかしな独占欲だな」
――こんなことなら、教室じゃなく体育館に顔を出せば良かった。
そんなことを思いながら残り一分も無くなってしまった休憩時間を恨みつつ、音楽室へと戻る階段を上がる。
いつも以上に足が重く感じるのは、きっとこの雨をもたらしている低気圧のせいだ。
そうに違いなかった。
○
「……ふぅ」
「あ、ミズキくん」
「んぁ?」
音楽室に戻るなり、早希が声をかけてきた。
「教室の方行ってたしょ?」
思わず肩が震えた。
「……あー、うん」
「どんな感じだった?」
「んー……、まぁ、そろそろ片付けしようか、って雰囲気ではあったかな」
間違ったことは言ってないはずだが、正しいとは言い切れない。
一応学祭準備の取り締まりに引っかかったことは無いので、恐らく大丈夫だとは思うが。
しかし、そんなボクの反応を見て、早希が訝しげにこちらを見つめてきた。
「ん?」
「どしたの? 何かあんまり体調良くない?」
「いや、別にそんなことは……」
「そう? 何となーく顔色悪そうに見えたから」
鋭いな、と思ってしまう。
返答が曖昧だったり遅かったりと、そう思わせてしまうような要因は多いだろうから仕方ないけれど。
「もしかしたら低気圧のせいかもなー……」
「それ、ウチのお母さんも言うときあるー」
ハッキリと口に出して低気圧のせいにしてしまう。
そうだと決めつけると、本当に頭痛がしてきたような気がする。
こんなプラセボ効果は要らないが、この調子だと今朝の大輔に言ったことが自分に跳ね返ってきそうだ。
「そういうときは早く寝た方がいいよー」
「ん、そうするわ……」
今夜はピアノの練習時間の確保よりも睡眠時間の確保をしよう。
そう心に誓った。
筆者は最近気圧の変化にとくに弱くなってます。




