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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (3) / Melancholic Minuet〜  作者: 御子柴 流歌
第2曲: アフロディーテ

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2-13-B. 霧雨と紫雲

 もうひとつため息を吐こうかと思っていたところで、再び佐々岡(ささおか)くんが口を開く。


海江田(かいえだ)、芸術の授業って音楽だろ?」


「うん」


 月雁(つきかり)高校は選択科目としての芸術の授業を入学直後に選ぶことになっていた。

 選択肢は、音楽、書道、美術。

 当然ながらボクが選択したのは音楽だった。


「その授業前とか授業後とかにこっそり弾けないか?」


「……あー」


 出来るには出来るだろうけど、週一回だけの、しかも十分にも満たない時間じゃさすがに不充分だ。

 ピアノの鍵盤の重さを忘れないようにする程度の意味合いはあるかもしれないけれど、だったらいっそのこと収録機材を自分の家に持ち込んで音を録った方が早い気もする。

 もちろんホンモノのピアノの音じゃないけれど、それでも良いならばという話だ。


 ――いや、実際にピアノの収録はどうやるつもりなのだろう。


 フルートやトランペットにサックスと言ったぐらいのサイズの楽器ならば、放送室のブースに持ち込んでその場で演奏して音を録ることはできる。

 だけれど、ピアノとなれば少し話が変わってくる。


 グランドピアノはどう考えても無理だ。

 アップライトピアノは音楽室にあるが、あれを放送室まで運んでいけるかという問題がある。

 さらにその前段階として、そもそもピアノを持ち出すことが出来るのかという問題もある。


 収録機材の方を持ち運べば良いのではないかという話になるが、今度はそういう機材があるのか、そしてそれは生徒が持ち出して使って良いのか、という問題が出てくる。

 TBCメンバーである二階堂くんにどうにかしてもらえるのであれば、ピアノに関係する問題よりは解決しやすそうだ。


 そこら辺を考えるのは言い出しっぺのすみれあたりに任せればなんてことを思ったりもするが、細かいことを考えていそうな気はあまりしないのも確かだった。

 あのときにボクに対して楽譜を渡してきたのも、どう考えてもその場の勢い感が有り余っていた。

 この後どうなるかを考えるのではなく、この後どうするかを考えておいた方が安全そうだった。


「あとはやっぱり、部活の前後だろ」


「……それは、あわよくばこっそり聴こうって魂胆だろ?」


「なぜわかる」


「さすがにそれくらいはわかる、っていうか察するわ」


 小学校の算数くらいの難易度だ。


 効率的だし理想的なのが部活前か部活後の時間だろうけれど、それだって充分な時間が取れる保証はゼロだ。

 早く帰れと言われるのは確定だし、何よりこれは間違いなく月雁祭準備の一環。

 万が一部活が終わった後での練習が見つかると、これは月雁祭の準備工程における減点対象だ。

 校内での練習はやっぱりどう足掻いても厳しそうだった。


 ――ああ、そうか。


「まぁ、こそこそとやるのは慣れてるから、何とかするさ」


「おうよ」


 それでこそだな、なんて少しばかり無責任なことを言いながら、佐々岡くんは帰り支度を済ませていた。


「帰るか?」


「別に用事があるから」


「そっか。そんじゃあお先に」


「おつかれさーん」


 ひらひらと手を振る佐々岡くんを見送りつつ、こんなにカンタンな答えが身近なところに転がっているのに気が付かなかった自分を嘲る。


 何のことは無い――マスターのお店に行けばイイだけの話じゃないか。


 善は急げだ。まだこの時間なら一時間くらい弾かせてもらえるだろう。

 帰り支度のペースを上げて、音楽室を小走りに出た。


 生徒玄関まで降りてきたところで、外から冷たい音が聞こえていることに気が付いた。

 雨だ。

 しかもかなりつぶの細かい霧雨だった。

 気が付かなかった。

 そういえば朝の天気予報では『午後からところにより雨』と言っていた気がする。

 その『ところによって』のところが、どうやら月雁の界隈だったらしい。


 折りたたみ傘は、いつも通りカバンの中に入れっぱなしだ。

 手早く展開して帰り道――その前にマスターのお店への道を急ぐ。

 今降っている雨はかなり局所的に降っているものらしく、西の空、はるか遠くの方に見える山に隠れて、わずかに夕暮れの残りが見えた。

 怪しげな色合いだ。

 夕暮れの橙色に宵闇の紫色が混ざっているような、居心地の悪さを覚えるような色合いだった。

暗示。

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