2-X-B. 自称自傷癖
「あんまり吹いてないから、とか?」
「……そう言われれば、吹いてたことは知ってるけど、私たちも実際に吹いているところはあんまり聴いたことないかな」
「そういえばミズキくんって、結構早いうちからオーボエに転向してたよね」
みずきくんを無視するみたいに、話だけは先へ先へと進んでいく。
困ったように作った彼の笑顔は、果たして彼女たちの視界に入っているのだろうか。
「だとしたら、練習の時間とか要るよねぇ……」
「最近吹いてないなら、すぐに録るとなると厳しいと思うよ」
「あー、やっぱりそうなの?」
――入っていないんだろうな。
彼も諦め気味なのか、バッグの中から彼お気に入りであるベーカリーの袋を取り出した。
ゴロゴロとパンを袋から取り出す――というか転がす。
危うくメロンパンが机から落ちそうになったところを、彼のお向かいに座っている小野塚くんが素早く受け止めた。
みずきくんは小野塚くんに何かお礼っぽいモノを言いながら、一旦メロンパンを袋に戻す。
甘いパンは最後に食べるのが彼の流儀だ。
「それにしても、ミズキ。お前って何でもできるのな」
「何でもは出来ないな」
「出来ることだけ、ってか。はぁ……」
「そういう意味合いで言ったんじゃないから」
茶化すような――でもどこか本気を込めたようなため息をつく小野塚くんの口調に呆れつつ、みずきくんはカレーパンっぽいものを口にした。
「ちょっとー、ふたりして勝手にランチタイム始めないでよ」
「それを言いながらする行動じゃないと思うんだけどな」
早希ちゃんがそんなことを言いながらも、しっかりみずきくんの隣の席に自分のお弁当を広げていた。
「え? オレもダメなの?」
「アンタは特にダメ」
「なんでさっ!? オレ今関係なくねえ!?」
巻き添えの被害に遭った小野塚くんには、すみれちゃんからいつも通りの容赦ない口撃が襲った。
「んまー、でも結構マジな話、協力して欲しいんだよね」
「ムリ言ってるのは承知してます」
「うーん……」
委員ふたりに圧されて、パンを口に運ぶ手も止まった。
みずきくんはだいぶ落ちそうになっている。
どうするのだろう。
あの流れで断るのは相当難しいとは思うし、実際首は縦に振るとは思うけれど――。
「やっほぃ、せーか!」
「ひゃあっ」
そんな風に勝手に考えを巡らせていたせいで、あたしはいつの間にか自分の目の前に立っていた美里に気が付かなかった。
「気ぃ抜きすぎでしょ。居眠りでもしてたの? 珍しい」
「してない、してないってば」
「敢えてよ、敢えて……って、何あそこ」
「あー、うん」
美里がみずきくんたちの一角に気が付く。
改めて視線を戻せば、気が付かないでいる方がムリなくらいに大所帯だった。
「……わかった、わかったよ」
「お。お? おお?」
「いちいち煽んないで」
両手を前に突き出しつつ動きを制するようなみずきくんを無視し、すみれちゃんが完全に身を乗り出して彼の返答を待つ。
その流れでこっそりと手元のお弁当箱から大きめの鶏の唐揚げを持ち上げていた。
「やります。がんばります」
「ぃやったー!」
「んむぐっ!?」
ようやく首を縦に振ってくれた喜びとその勢いのまま、唐揚げをみずきくんの口に突っ込んだ。
さすがに危ないんじゃ――と思ったけれど、みずきくんは案外冷静に突っ込まれたばかりの唐揚げを咀嚼する。
「ぁ、ぅまいこれ」
「でしょー? ひとまずのお駄賃ってことで」
「何で余裕あるんだよ、お前……」
味の感想も忘れない。
小野塚くんがちょっとヒき気味に指摘するのも納得だった。
「ねえねえ、あそこの話の流れが全然わかんないんだけど、何あれ?」
「……ステージ発表で、その。『彼』がサックス吹いてくれって言われて、今OKしたところ」
「ははぁ、なーる」
ふーんと小さく鼻を鳴らしながら、素早くランチの準備をする美里。
ケースからお箸を取り出して、さて食べようとしたところで、不意に真っ直ぐに見つめられた。
「で? それを見ている聖歌さんが、やたらと沈んでいるのはどうして?」
「それは……」
「否定、しないんだねえ」
「……あっ」
あっさりと見抜かれて、指摘されて、あたしは何も言い返せない。
「正直なのはイイことよ、たぶんね」
そう言って美里は、ポテトサラダの上のミニトマトを口に放り込んだ。
そろそろ、掘っていきましょうね。




