1-2-A. 祭りの足音
「ねーねー」
「……ぁん?」
思考が途切れると同時に出てきた自分の声は、何ともマヌケな色合いをしていた。
少なくとも真正面でボクの顔を見ていたと思われる神流にはマヌケな表情を晒していたらしく、神流はどこか笑いをこらえるような顔をしていた。
「そろそろ学祭じゃん?」
「……その前にテストだけどな」
「それはそれ、これはこれ」
そう簡単には話題を変えさせてくれないらしい――というか、神流のヤツ、集中力途切れたな。
過去二回の勉強会の時もあったから簡単にわかる。
自分の集中力が無くなってくると、周辺を巻き添えにして何となく休憩モードに入ろうとするのだ。
「で、ですよ。学祭じゃないですか」
「……うん」
一応そこまで本腰を入れて話を聞くわけじゃないアピールを兼ねて、シャーペンは握ったまま応える。
「そっちのクラス、なにやんの?」
薄ら想像していた通りに、神流はガサ入れをしてきた。
もちろん、そんなことを言われても、という話だ。
「教えられないんだよ」
「ケチ」
「そういうことじゃなくて。まだ本決まりになってないんだよ」
「あ、そうなの」
教室を使っての模擬店については、本当なら先週末のホームルームでだいたいの方向性が決まるはずだった。
そのはずだったのだが、思った以上に意見が出てきたせいで――出てきたおかげでと言った方がこの場合は良いだろう――会議は大盛り上がり。
言い方を変えれば、大紛糾。
結局この日は予備投票を済ませるだけでタイムアップとなってしまった。
「早いとこ決めないとマズくない?」
「そうそう。今週中に第一段階確定でしょ?」
後を継いで言うのはエリーだ。
「まぁ、明日決まる……はず」
予備投票の結果は既に出しているので、明日の放課後直前のホームルームを使ってその候補たちの中から決選投票を行うということになっていた。
これも、我らがクラス委員長である花村すみれが率先して動いてくれた成果だ。
だけど、さすがのすみれも、クラス全員が言われたとおりに『ひとりひとネタ考えてくる』を実践してくるなんて思っていなかったのだろう。
黒板いっぱいにアイディアが溢れていくのを横目に、頬を引きつらせながらボクを見てきた時の彼女は見物だった。
――いや、ボクも笑ってはいられなかったけれど。
一応、副委員長だし。
ちなみに、残りふたつの催しの内、ひとつはほぼ確定済みだが、もうひとつはまだ宙ぶらりん。
正直なことを言うと、この宙ぶらりんになっているモノが心配なのだが。
「今年は少しくらい、ウチらにも希望通りに割り当て欲しいよねー」
「ホントホント。去年って結局……どこだっけ? いいところ二クラスくらいでしょ? 希望が通ったのって」
「たしか、そうだね」
和恵さんのつぶやきに、神流と平松さんが反応する。
仕方ないことなのはわかっていても、ちょっと納得いかない、という雰囲気だ。
それは充分理解できる。
使用する機材とか衛生上の管理の問題とかその他諸々の都合もあって、すべての学級で希望通りの催し物ができるわけではない。
大抵人気があるのは喫茶店のような模擬店だが、どのクラスもそれでは仕方がない。
希望するクラスが規定数を上回った場合にはくじ引きなどが行われるのだが、その割り当ての優先権は基本的に上級生にある。
二年生以下、下級生は往々にして希望が通らないということがあった。
ウチの学校祭がそんな感じだったんですよねー。
なかなか希望どおりには行かないものです。