2-9-B. 断り切れないお願い
「演奏っていうと……、えーっと、ごめん。何の楽器?」
だから背後に和恵さんと早希――つまり吹奏楽部員がいるのか。
だけれども、そう納得はするものの、彼女たちはボクに何の演奏を求めているのかボクはよくわかっていない。
ステージ発表の内容のおおまかなところは決まっていても、細かいところはまだ詰められていないところが多いのだ。
「えーっと、……その。ごめんね、ミズキくん」
「うん」
ものすごく言いづらそうな雰囲気の亜紀子、そのセリフと態度が気になってしまう。
妙におどおどしているし、何よりも『ごめん』の前置きが気になる。
話が止まってしまうのも困るので先は促すが、極力声音を優しくするように心がけた。
「その、BGMとして入れる曲を、サックスを吹いてもらいたいな、って」
「……サックス?」
意外なようで、妥当性のある楽器の名前が出てきた。
「では、ここから私めにお任せあれー」
だったら最初からすみれが話せば良かったのでは?
そう言いたくはなったが、思うだけにとどめる。
余計にほじくりかえしたところで、この場合何も良いことは起きない。
相場は概ね決まっているモノだ。
「風のウワサに訊いたんだけど、ミズキくんってサックス吹けるんでしょ?」
「中学の時は部活でも吹いてたからね」
――とまで言ってから、そのウワサとやらに少し思い当たる節のようなモノはあった。
和恵さんとか早希とかが話の出所であれば、特段おかしなところはない。
中学の時に吹いていた楽器については、自己紹介のときなんかで既に言っている。
今年入ってきた同じ中学の後輩には、未だにポイントポイントでアドバイスを求められたりするくらいだ。
サックスを吹く同級生や先輩もいるのだから、できれば彼らの顔を立ててほしいところではある、何とも言えない居心地にさせられる話ではあった。
だけど、それなら別に『風のウワサ』なんていう言い回しをする必要があるだろうか。
何なら『ふたりから訊いたんだけど』でも問題は無いような気がする。
もっとも、そこでうじうじ考えても仕方は無い。
女子的な何かがそこにあるなら、それは男子であるボクがとやかく口を出すことではない。
――面倒だし。
「で、和恵ちゃんはフルートで、早希ちゃんがトランペットだからバランス的に」
「オーボエでもイイかなって思ったんだけど、調べたらサックスがいいみたいで」
「だったら、そこをミズキくんにやってもらおうと。そういう話ですヨ」
うんうんと小さく頷きつつ彼女達の背後に視線を移す。
奥の方にいる和恵さんと早希は素早くボクの視線に気が付く。
和恵さんはお嬢様然とした雰囲気でこちらに手を振ってきた。
早希は口だけで「いぇーい!」なんて言いながら、特段何のひねりも無くピースサインを送ってきた。
――イイよなぁ、暢気なモンで。
「なるほどねー」
そうは言っても無反応は良くない。
とりあえずの相鎚だけを返しておくことにする。
「ね? いいよね?」
「んー……」
相変わらず、すみれは圧しが強い。
「あれ。何かビミョーだ」
「えー。なんでー?」
曖昧な反応が気になったのか、様子を窺っていた早希がぱたぱたと小走りでボクらの会話に入ってきた。
さっきから話に入りたそうにしていたのはよく見えていた。
そこを遠慮する必要は無かったのだが。
「あんまり吹いてないから、とか?」
和恵さんも自然な流れで参入。
「……そう言われれば、吹いてたことは知ってるけど、私たちも実際に吹いているところはあんまり聴いたことないかな」
「そういえばミズキくんって、結構早いうちからオーボエに転向してたよね」
どうやら話の出所はこのふたりと見て間違いは無さそうだった。
そもそもそう考えるのは妥当だし、いちばん安心感はあった。
「だとしたら、練習の時間とか要るよねぇ……」
「最近吹いてないなら、すぐに録るとなると厳しいと思うよ」
「あー、やっぱりそうなの?」
ボクの反応もそこそこに会話が盛り上がっている亜紀子を除いた三人。
きっとボクが取るべき正しい対応は首を縦に振ることなのは、もはや避けられない事実なのだろう。
ただ、今に至るまでずっと申し訳なさそうな表情を崩さない亜紀子の姿が、どうしてもボクの視線から外れることはなかった。
この物語の根幹っぽい部分。




