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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (3) / Melancholic Minuet〜  作者: 御子柴 流歌
第2曲: アフロディーテ

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2-8-B. 自称無色

 マスターはボクがこんな風に訊いてくるところまで予測済みだったようで、罠にかかった獲物を見つけたような目でボクを見た。

 まだまだこの人には敵わないのかと思うと、やはり悔しさはある。

 だけど、ちょっとだけだ。

 結局この人の年の功にはまだまだ勝ち目がないのは事実だった。


「そりゃ当然、彼には彼なりに、お前が羨ましいと思えるポイントくらいあるだろ。お前がその彼を羨ましいって思ってるのと同じことだ」


「別に、オレは……」


「おいおいミズキ。事ここに来て『羨ましくなんか無い』はダセえぞ、お前」


 今度はいよいよ冷笑気味な笑い方だった。

 これにはさすがに閉口する。


「カンタンに言わせてたまるかよ、ンなこと」


 鋭く鼻で笑い飛ばして、マスターは一旦厨房の奥の方へと下がっていった。

 負けず劣らずのため息を鼻からついて、コーヒーをすする。

 今日は何となくブラックの気分だったが、鼻から抜けた香りはやたらと黒さを感じた。

 さながら、ボクの背後に置かれているピアノのような色合いだった。


 一分も経たないうちに戻ってきたマスターは、なおも呆れを顔に貼り付けたままでボクを挑発するような言い方をしてくる。


「そもそもお前、ココに……いや、違うか。『俺に』だな。俺に愚痴りに来たんだろ?」


 ああ、そうだ。

 その通りだよ、マスター。

 一応昨日か一昨日あたりくらいになってようやく『眠りに就く』という実感が湧いたくらいには、ここ数日間ずっと寝不足状態だった。

 おかげで授業中の課題のひとつが、『如何にして寝ないようにするか』から『如何にしてバレないように眠気を取るか』に変わったくらいだ。


「そういうところでムダにお利口ぶるなよ、ミズキ」


「別に、そういうつもりはない……つもり」


「だからムリすんな、って言ってんだ」


 うつむき気味だったボクの頭を、マスターは軽く撫でるように叩いた。


「案外ため込みやすいタイプなんだから、ミズキは」


「そう、なのかな」


「自分が思っている以上に、俺にはそう見えてる」


 断言された。

 口調は然程だが、それを言っているマスターの目が思った以上に真剣だった。

 素直に受け取らなくてはいけないのだろう。


「あと、やっぱり気になるんだよなァ」


「……まだあるのかよ」


 午後からの部活を耐えきれるのか、今からかなり不安になる程度の精神攻撃の連続だった。

 打たれ弱いとか思われそうだが、知ったことではない。

 人それぞれにどんなモノにもキャパシティというモノは存在しているはずだ。

 物理的に殴られることに強い人間が、精神的に殴られることにも強い補償なんか、この世界中、銀河の果てまで探しに行ったところで見つかるはずがないのだ。


「何さ」


「何でお前、『ボク』とか言ってんだ?」


 マスターに先を促せば、


「別にイイじゃねえか、『オレ』って言ったって。昔はそう言ってただろ」


「気分の問題だよ、気分の」


「取って付けたような言い方しておいて、気分も何もあったモンか」


 解っている。

 アタマでは、一応。


「お前も大概観念的なヤツだな」


 マスターは完膚なきまでにボコボコにしてくる。

 下を向いているヤツの首根っこを掴んで真上を向かせるような強引さだ。

 でも、時々、これくらい強く引っ張ってくれることを期待して甘えたくなるのも、また事実だった。


「俺がイヤだってンなら、ほら」


 ある程度なぶり疲れたのか、マスターはボクの背後の方へ向かって顎をしゃくる。

 促されるようにそちらを向けば、何度かこの時間帯に見たことがあるお姉さまたちの姿があった。

 そういう予感はしていたがやはりこの話をある程度聞かれていたようで、こちらに向かって彼女たちは少し気まずそうな、それでも興味ありげな顔をしていた。

 ひとまず愛想笑いを載せた会釈を返すだけに留めておく。


「余計なこと言わなくていいんだってば」


「なーにが余計だ、えらそーに」


「ふっ」


 だいぶ叩かれ慣れてきて、こっちもマスターの辛口トークを鼻息で吹き飛ばす程度の余裕が出来てきた。


「ひとつ訊いておく。その幼なじみのカレシくんだけどさ」


「……うん」


「身長は?」


 少し考える。

 具体的な数値は訊いたことがなかったので、祐樹がボクの横に立ったときを想像する。

 一旦腰高の椅子から立ち上がって、実際にそれっぽい高さに手の平を合わせる。


「……これくらいか?」


「だいたい、百七十あるかないかくらいか?」


「じゃあ、それだろ」


「そんな単純な」


「オトコのガキなんざ、みんな単純だろうが」


 身も蓋もないことを、マスターは臆面も無く言い放った。


「だって、俺もそうだし」


「そういうオチを付けるなっての」


「そうしねえと落ち着かないんだよ」


 ほぼお決まりのギャグ――マスターはそう思っているらしい――に、完全に不必要なウインクを添えた。


「もう一杯要るか?」


「いや、遠慮しとく。そろそろ戻んないとマズそうだ」


「ん、わかった」


 小さく頷いたマスターに頷き返して席を立つ。


「がんばってこいよ、ミズキ」


「あんがとね、マスター」


 そう言ってオレたちはハイタッチを交わした。

 時々『オレ』って言ってるんですけどね、ミズキくん。

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