2-7-B. 得体の知れない羨望
学校を出る直前、一旦教室へと戻ったのはやはり正しかったらしい。
「ママチャリじゃないと、こうは行かないわな」
「だな。ナイス危機管理」
「ありがとよ」
祐樹と一緒に袋に釘やらなんやらを詰め込み、教室から持ってきた自分のカバンに突っ込む。
個人的に必要だった飲み物なんかも放り込んで、最後の仕上げとして蛍光灯を突き刺してチャックを閉める。
小学生のランドセルに刺さっているリコーダーのような見た目になったが、細かいコトなんか気にしていられない。
自転車で十五分ほど行ったところにある、この界隈では恐らくいちばん大きいホームセンターは、学校祭準備で必要なモノはすべて揃えられると思う。
電飾用の細かなパーツなんかも間違いなく揃うのは、業務用のアイテムも取りそろえてあるからに他ならない。
「そうなんだよなぁ。玲音のチャリはカゴが付いてないからな」
「あのタイプの自転車には、ふつうカゴは付いてないもんだからね」
「やっぱそういうもんかー」
「フロント重くなるし、そもそもジャマになるし」
稀に付いているのもあるけれど、そういうのはスポーツタイプではなく、もう少しタウンユースというか街中で使うのを意図したクロスバイクになる。
玲音のモデルは紛れもなくスポーツタイプのモノだった。
買ってきて欲しいと言われた品目はサイズも重さもバラバラだった。
小さいモノならある程度まとめられそうだったが、釘やらなんやらと基本的には金属製。
まとめたら、そりゃ当然重くなるモノばかり。
これを手持ちの袋に入れて持って帰ろうとするのは、かなり危険だった。
「今更だけど、買い忘れとか無いよな?」
「……ホントに今更だな」
あらかた荷物をしまい終わってから言うのは止めて欲しかった。
近くに誰も居なかったのを良いことに、もう一度荷物を検分する。
「……ダイジョーブだろ」
「そこでいい加減になるのも止めてな」
「へーい」
七割くらいを見たところで満足する祐樹。
残りの三割はボクだけのチェックになったが、祐樹の言うとおり大丈夫だろう。
一割程度はボクも適当になった気がするが、まぁいい。
足りなかったら、いろいろと誤魔化してまた来ればいい。
――正直、もう少し玲音のクロスバイクに乗っていたかったりするのが本音だった。
店を出て、ボクはリュックを背負い、祐樹は荷物を自転車の前カゴに突っ込む。
「うおっ、危ねえ」
勢いよく積み込んだせいで、祐樹の自転車のハンドルが大きく動いてそのまま倒れそうになった。
「ハンドル取られそうになるとマズいぞ? ちょっとこっちに入れればいいよ」
「……悪いな、ちょっと頼まれてくれ」
そう言って祐樹が取り出したのは、千五百ミリリットルのペットボトルだった。
「気付かなかったボクも悪いけど、それは先にこっちに渡してくれ」
「マジですまん」
サイズも重さも大きめのモノなので、一旦カバンの中身を整理する。
ペットボトルを下にして、買い物袋でフタをするようなスタイルに配置のし直しをして再び背負う。
明らかに重量感は増したが、背負う分には然して問題にはならない。
これを自転車の前カゴに入れる方が余程危ない。
「ん。大丈夫だろ」
「ありがとな、瑞希」
「いやいや」
申し訳なさそうな表情は隠さない。
こういうときに素直に感謝できる祐樹は――イイヤツだと思う。
イイヤツだからこそ、なのだろうけど。
誰へでもなくため息を吐こうとしたところで――。
「やっぱ、お前みたいなヤツがちょっと羨ましい」
「……は?」
思わず自分の耳を疑った。
――うらやましいって、何だ?
「いや……、祐樹。今、お前」
「行こうぜ」
「あ、ちょっ。おい」
そもそも祐樹はボクの答えなんか聞く気は無かったらしい。
返答を待たずに、祐樹は自転車に跨がる。
軽くなったハンドルはまるでぶれることもない。
野球部では俊足巧打で鳴らすという祐樹のフットワークは、やはり伊達じゃなかった。
運が良いのか悪いのか。
そこまで数の多くない交差点はすべて青信号。
最後までボクは、祐樹に訊くことはできなかった。
そんなことを言われても――って話ですわね。




