2-6-B. 何らかの信頼性
「え? あ、もしかして地下鉄組?」
「そう」
「駅に自転車置いてたりも……?」
「残念ながら」
「マジかぁ……」
オゥマイガァ、なんて言いながら井ノ原くんはわざとらしく頭を抱えてみたりする。
反応のひとつひとつに、ほんのりアメリカのドラマっぽい雰囲気が漂っている。
その手のドラマが好きなのだろうか。
サブスクリプションなんかで見ていたりするのだろうか。
あるいは、これはかなり前の話になるかもしれないが、芸人さんがネタにしていたような気もする。
月雁駅の駐輪場に自転車を置いてある生徒がいることは知っている。
が、それをしている生徒の大半は、何故か運動部所属の学生だった。
吹奏楽部員でそれをしている地下鉄組の生徒は、ボクの知る範囲には居なかった。
「……あ。だったら、野球部のヤツらのチャリ使うか?」
どうしようかと思っていたら、祐樹がひらめいてくれた。
「良いのか?」
「アイツなら間違いなく貸してくれるはずだ」
「……アイツ?」
「まぁ待て」
誰だろうか。そう訊こうと思ったボクを左手で制した祐樹は、誰かへ電話をかけた。
その相手はすぐに出たらしく、挨拶もそこそこに「ちょっとチャリ貸して欲しいんだって、瑞希が」と祐樹が言えば、あっさりと「いいよー」と聞き覚えのある声がスピーカー越しに聞こえてきた。
「やほー」
「久々だな、玲音」
「だねえ。何か三ヶ月くらい会ってなかった気がする」
「……ま、実際そうだわな」
テントから出て校舎の影でその相手を待つ。
一応、偵察防止ということだった。
外形が出来上がっているわけではないけれど、その辺の用心を怠らないようにするのは、月雁祭行燈制作の暗黙の了解のようなものだった。
三十秒とかからずにやってきたその相手とは、高畠玲音。
去年までのクラスメイトで、祐樹と同じ野球部所属。
大型の草食動物っぽい性格で物腰穏やか、長身細マッチョでよく話していたヤツだった。
「たしかに玲音のチャリなら乗れなくもなさそうだ」
「むしろぼくより余裕でバッチリ乗れるんじゃないかな? ミズキ、けっこう足長くない?」
「いや、別にそんなことは……」
――ないんじゃないか、と言おうとするよりも早く玲音はボクの真横に立つ。
ボクと玲音の身長差は三センチあるかどうかというくらい。
ベルトの位置はだいたい同じだった。
少なくとも、玲音が普段から乗っている自転車ならば問題無く乗れそうだった。
「じゃあ、これ鍵ねー」
「良いの?」
「もちろん。ミズキだしね」
「……そりゃあ、ありがとう。マジで」
止めてあるところにまた戻しておいてくれれば大丈夫だからねー、と言い残しながら玲音は自分のクラスのテントに戻っていた。
玲音も行燈に関してはかなりの手練れだ。
きっと八組では重宝されているだろう。
去年は彼のお陰で助かった場面も多かった。
「……イイよなぁ」
「何が」
遠い目をしながら、祐樹がぼんやりと何かを羨んだ。
訊ねてみれば、ギッと鋭い視線を向けられる。
――なんだろう、地雷でも踏んだのだろうか。
「玲音のチャリ乗れるって、イイよなぁ」
「……おぅ」
いちばん返し方が難しいことを言われてしまった。
それに対して、ボクは彼に何をどういう言い方で返せば良いのだろうか。
きっと、正解なんてこの世に存在していないのだろうけど。
「ああ、違う違う。……いや、たしかに身長的な面で羨ましいのは事実だけどな」
「そうっスか」
でも、メインの話はそこじゃないのか。少し安心はする。
「まぁ、行ってみりゃわかるよ」
意味深なことを言い残して、祐樹はさっさと駐輪場の方へと歩き出す。
もちろん祐樹は玲音が乗っている自転車がどんなモノなのかを知っているのだろうけど、ボクは当然ながらそれを知らない。
置いて行かれるとどの自転車に鍵をさせばいいのか分からない。
ボクも急いで祐樹の後を追うことにした。
久々にレオくんにご足労願いました。




