2-6-A. 日曜の昼は行燈日和
翌日、日曜日の部活は午前中だけの予定になっている。
そうなると、自然と午後はグラウンドへと足を運ぶことになる。
自主練習に励んでもよかったが、今日はあまりそういう気分にはならなかった――というよりは、学校祭の作業をしたかったという気持ちが強かったせいだろう。
いつも通りに買ってきたパンを校舎一階のベンチがあるエリアで食べ終わったその足で、渡り廊下から外へ出る。
少し蒼さが強くなってきた六月の気持ちの良い風が、目の前を通り過ぎていった。
「誰かいるー?」
「ミズキじゃん!」
「え? おー、海江田! 待ってた!」
テントの幕を開けると元気な声が返ってきた。
野球部の練習用ユニフォームに身を包んだ祐樹と、既にクラスのツナギを着込んでいるサッカー部の井ノ原寛が何やら話をしている最中だった。
「ボクを?」
「いや、二年三組の不特定多数が候補」
「じゃあ帰ろうかな」
「あー、うそうそ! 待って! 海江田さま! アナタを待っておりました! な!」
「お、おう。そうな」
ボクと井ノ原くんの間に行燈の土台になっている木材がなかったら、そのまましがみつかれていたような気がする。
それくらいの勢いで引き留められてしまった。祐樹は完全に巻き込まれた恰好になって動揺はしていたが、そもそもノリは良い方だ。
一瞬戸惑っていたが、わざとらしく首を細かく縦に振って同意していた。
恐らくは部活が終わった後だろうとは思うのだが、井ノ原くんはやたらと爽やかに前髪を揺らしている。
一旦家にでも帰ったのだろうか。
彼の家がどのあたりなのかは知らないけれど、月雁の界隈なのだとしたらそれも納得だった。
「ミズキは、まだこのあと部活あんの?」
「いや、今日は午前中で終わり」
「あ、マジで? なんか珍しくねえ?」
「普段基準ならね」
まだテスト週間が終わって間もなくという、このタイミング。
しかも月雁祭の準備も始まったところ。
直接的にどちらも疎かにするなというお達しがあるわけではないけれど、この時期はまだ部活と準備の両立がしやすいということは、去年からの学びだった。
「さすがに今月の終わりくらいになったら定期演奏会の準備も佳境だから、そういうことはほとんど無くなっちまうんだけどな」
「なるほどな」
そういえば七月はほとんど夕方近くまで楽器の音聞こえてたなぁなどと、祐樹と井ノ原くんのふたりが何やら思い出していた。
野球部とサッカー部なら、窓を開けたりしていれば練習中の音なんかは聞こえているだろう。
「だったらさ、ちょっとオレといっしょに頼まれて欲しいんだよね」
祐樹が言う。
「ん? なに。買い出しとか?」
「お、さすが海江田。話が分かる」
「マジでか」
うんうん、と大きく頷く井ノ原くん。
そうかもしれないという予想は立てていたから、そこまでは驚かない。
「何系?」
「なにけい……? んーと、ホームセンター系?」
「釘とか?」
「ちょっと待ってな。二階堂が書いてったリストがあるんだ」
二階堂――二階堂英輔くんは、月雁高校の卒業生であるお兄さんの影響で『行燈バカ』になっているというネタを、クラス替え当初の自己紹介でカミングアウトするくらいには逸材だった。
普段はTBC――『月雁高校放送部』の略称――に所属しているが、この時期は顔出しすらしなくなるというほどには、月雁祭の行燈行列に入れ込むという話だった。
「その彼は?」
「メシ食いに行ってる、たぶん……あの辺」
「なるほど」
そう言って井ノ原くんはボクの左後ろあたりの方角を指差した。
あの辺には月雁生御用達のバーガーショップがある。
基本的には朝の間にパンを買っておいてしまうボクはあまり付き合えていないが、この時期の昼時はきっとウチの生徒で溢れているのだろう。
井ノ原くんの口調からすると、二階堂くんたちと入れ替わりでテントに来たような雰囲気がしている。
そこに祐樹も後からやってきた、というところだろうか。
「これがそのリスト」
「……なるほどね」
かなりの分量だ。
釘とか結束バンドの小さな消耗品から、電飾に関するちょっと大型のモノまで。
これは祐樹だけでは厳しそうだ。
――だけど。
「ん、じゃあ頼まれるよ」
「助かる!」
「……だけどさ」
「ん?」
今のところたぶん唯一の、だけど最大級の問題がある。
「『脚が無い』んだよね」
蝦夷梅雨があたるとなかなか面倒なんですよね。北国の学校祭。




