2-V-B. 狡さ
「ミズキくんも行燈メインで動くの?」
「……どっちかと言えば、って感じかも」
そう訊いたのは美里。
小野塚くんはスマホのメッセージに集中しているし、美里も別に小野塚くんだけに訊いたわけでもなさそうなので、あたしが答えておくことにした。
すみれちゃんはどちらかと言えばステージメインで動いていて、みずきくんは行燈メイン。
模擬店はふたりともがサポートする、と言ったバランスだった。
いつそういう風に決めたのかは知らないけれど、問題は無さそうな雰囲気が既にしていた。
「とりあえず、昼メシ買ってから行くかなぁ。元々休み時間はそっちに居る気だったし」
「あ、そうだ」
「うん?」
自分のリュックからお財布を取り出して、そのまま音楽室を出ようとする小野塚くんに声をかけた。
「第二音楽室に行ってあげた方がいいかも」
「え、なんで?」
駆け出そうというモーションで止まったまま、こちらに顔を向ける小野塚くん。
「たぶん、みず……じゃなくて、海江田くん気付いてないと思うから。彼、あんまりスマホとか見ないタイプだし」
「……あー、言われてみりゃそうかもな。サンキュー」
手を振りながら去って行く小野塚くんだったが、美里をチラッと見てみると全く手を振り返すような素振りはなかった。
しばらくの間変顔も添えながらアピールを続けていたけれど、結局『ケッ!』と捨て台詞を吐くみたいにして音楽室を出て行った。
「美里、お昼にしよ」
「聖歌さぁ」
「え?」
あたしも自分のカバンを取りに行こうと思ったところで、美里に名前を呼ばれた。
思わず足が止まる。
振り向いてみれば美里は、さっき小野塚くんを見送った姿勢のまま、視線だけであたしを見ていた。
「今、なぁんでわざわざ言い直したのさ?」
「……え」
「名前」
――バレてた。
「別に私は、聖歌が彼のこと『みずきくん』って呼んでるのを聞いたの、今日が初めてじゃないけどね」
「……あれ?」
そうだっけ?
思わず自問自答してしまう。
それは、一体いつのことなのだろう。
全然覚えていない。
身に覚えがなさ過ぎることを突きつけられると、こんなにも――。
「もうね。すぐそうやって動揺するから」
そう、こんなにも動揺してしまうなんて。
ドラマとか映画とかで真実をぶつけられて、おかしなくらいに動揺してしまうようなシーンを目にすることはあるけれど、まさかそれが本当に、しかも自分の身に起きてしまうなんて思っていなかった。
何だかちょっとだけ負けたような気持ちにもなってしまう。
美里はそんなあたしを見て、くすくすと笑い出す。
それが余計に悔しい。
「……ズルいなぁ」
「え?」
眉間に皺が寄っていくのを感じていたあたしは、だけど不意に自分から緊張感のようなものが吹き飛んでいくのが見えた。
――ズルい、ってどういうことなの。
「いや、ごめんね聖歌。何でもない」
「……何でもないってこと、無いよね」
「……あはは」
乾いた笑いを漏らす美里。
そんな表情は、この一年ちょっとでは見たことが無かった。
気になる。
気には、なる。
なってしまう
だけどそれは、本当に訊いて良いモノなのか。
「何でも無い、ってことにしておいてよ」
「でも」
「だったらさ」
あたしが訊き返そうとするよりもやや遅く、でもあたしの質問を遮るには充分な重みを伴って、美里はあたしを見つめる。
「私も、訊きたいことがある。……聖歌に」
美里はあたしを見つめる。
「どんなこと?」
だから、あたしも彼女をしっかりと見つめなくちゃいけないんだ。そう思いながら、訊き返す。
「聖歌と、ミズキくんの、中学の頃のこと」
あたしと彼の間に起きていたことすべてを、実は知っているんじゃないか――。
そんな邪推をしてしまいそうになるくらいに、美里は真っ直ぐにあたしを見つめていた。
ズルいって、何だろう。




