2-4-B. ほんの少しの寄り道
チラチラとボクが持っている袋へと視線を寄せてくる亜紀子は、どこか落ち着かない様子だった。
「どしたの?」
「あ、えーっと。その、中身……」
「いや。うん、見ないし訊かないでおく」
気になって訊いてみれば、案の定だった。
お楽しみのブツがたんまりと入っていることくらい、すぐわかる。
哀しいほどにパンパンに膨れた半透明の袋には、その中身のひとつであるチップスの商品名などが見えていた。
「備品的なモノってことにしておくけど」
「うん。んーっと、……そういうことにしておいてもらえると嬉しいかな」
どう考えても消耗品――というか、『消え物』という言い方が正しいような袋類がたっぷりと入っていた。
「ちょっと外に用事あるーって言ったら、押しつけられちゃって」
それはちょっと運が悪い。
「でも、良かった。ミズキくんが来てくれて。ホントにありがとね」
「いえいえ」
まっすぐに感謝を告げられて、また少しくすぐったい気持ちになる。
「何だったら、荷物持ち役くらいにはなるから、ご用命があればいつでも」
正面を見ながらそう返すと、一瞬だけ反応が遅い亜紀子はクスクスと笑い始めた。
「え、な、何? 今、変なこと言った?」
「時々思ってたんだけど、ミズキくんって執事さんっぽさあるよね」
「えー? そう?」
「うん。何か、言葉の選び方っていうのかなぁ。その『ご用命』とか」
別にわざとそういう言葉を選んでいる気はなかったけれど、言われてみればそうかもしれない。
でも、他にどう言ったらいいのやら。
半分、照れ隠しみたいなものだし。
「たぶん、同意してくれる人はいるはずだと思うんだけど」
そう言われても。ここで首を縦に振るのだけは違う気がして、ボクは愛想笑いを返すだけにとどめておいた。
もう少しでテニスコートが見えてきそうだというところで、出口あたりのフェンスにもたれかかる見覚えのあるモデル体型の少女がひとり立っていた。
不意にその少女はこちらを見たような気がしたが、その瞬間――。
「あ、あっこー! ……お?」
そこからでもわかるのかよ、と思ってしまう。
こちらからすればまだ視界のかなり奥の方で、こちらに大きく手を振りながらすみれが亜紀子を呼んだ。
恐ろしく良く通る声だが、しかもすみれはボクの姿にも気付いたらしい。
何かに気が付いたときの「お?」さえもハッキリ聞こえるとは、どういうことなんだろうか。
「ミズキくんじゃーん!」
白煙が上がりそうな勢いで猛ダッシュ。
なるほど試合ではあのダッシュでボレーを決めに行くんだろうな、なんて思っていると、みるみるうちにすみれの姿が大きくなってきた。
マンガとかなら両方のかかとを地面にくっつけてブレーキをかけるのだろうけど、まさしくそんな勢いのままでボクらの方へ突っ込んできた。
「おかえりー!」
「ちょっと、すみれ!? 危ないって!!」
――と思いきや、ちょっとだけダッシュの方向を変えて、すみれは亜紀子に抱きついた。
幾分かはボクに割り振られているとはいえ、それでもまだそこそこの荷物は亜紀子の手の中だ。
バランスを崩しかけたものの、何とかすみれを支えたあたり、彼女もアスリートだった。
「え、どしたのどしたの? なんでミズキくん?」
いつの間にか亜紀子の手にあった荷物を持ちながら、すみれが訊いてくる。
「たまたま玄関前で会ったから」
「優しいねえ」
何かに納得するみたいに、うんうんと頻りに頷くすみれ。
「いや、まぁ」
「照れなさんな、照れなさんな」
今度はやたらとにまにま笑いながら、すみれはボクの肩をばしばし叩いてくる。
こういう動きやセリフがすみれは妙に板に付いているのだが、これを『オッサンっぽいな』なんて言ったら、大輔みたいな目に遭うのだろう。
黙っておくのがベストだ、きっと。
「それじゃあ、ボクはこれで」
「あ、うん。ミズキくん、ホントにありがとね」
「いやいや。部活は午後もあるの?」
ふたりに訊けば、ほぼ同時に頷いた。
「吹部の演奏聞こえたらガンバれるよ……あっこが」
「すみれ?」
「じゃあ、ボクもがんばる」
「……うん、がんばって」
徐々に照れくさくなってしまうようなやりとりな気がするが、それも悪くないと思えた。
だったら午後からもがんばろうかと思える程度には、ボクも単純だった。
何だか意味深なことをさせたがるすみれさん。




