2-3-B. 増える騒々しいヤツ
「てえへんだ、てえへんだ!」
「おう、どうしたってんだい、べらんめえ」
大輔のよくわからない江戸っ子口調に、牽制がてら敢えて平たい口調でセリフの雰囲気だけは合わせてやることにした。
横を見れば、神流が『なにその棒読みは』みたいな視線を送ってきている。
呆れつつも楽しんでいそうな風だった。
「あー、えーっとねえ」
「……ネタの錬成が足らん」
――どうせこうなると思ってた。
勢い込んで来たときのコイツに同じテンションをぶつけると、怯んでその後が継げないパターンはとても良くあるヤツだ。
「で? どした?」
ついさっきも同じ様なことを別な人に訊いた気もするが、まぁいい。
そうでもしないと話が進まない。
「学祭ヘルプ!」
「え、マジか」
「っていうか、気付け。グループのも行ってるだろ」
「……え?」
大輔に言われポケットからスマホを取り出せば、たしかに三十分前くらいから何度かメッセージが入っていた。
その時間だとまだギリギリ休憩前最後の通しがあったくらいだろうか。さすがにそのタイミングだと気付かなかった。
――というか。
「ああ、すまん。今日はバイブもオフってたわ」
「てンめえ、このやろ」
「練習中にブルってもめんどいだろ」
「……うん、まぁ」
――正直なことを言うと『今日は』じゃなくていつもなんだけども、それは黙っていよう。
「いやでも、せめて休憩入ってんだったら着信くらい見てくれよ……。てっきりまだ休みになってないんだと思って音楽室とか購買とかけっこういろいろ見てきたんだぞ」
「ごめんねー、ウチらの話が面白すぎてスマホなんか見てる暇無くてさー」
げんなりとした様子の大輔の傷口に、神流がいつも通り嬉々とした表情で塩をすり込みに来た。
話の中で滑って転んで怪我をしたところには必需品だよね、と言わんばかりの素早さだった。
治療が早いのは良いが、そんな置き薬は勘弁して欲しい。
――いや、そもそもクスリではなかった。
案の定大輔は神流の姿を認識すると、ぐぬぬぬ……などと言って歯噛みした。
コイツの悔しがり方はいつでもマンガの表現になる。
日頃からよく影響されているということなのだろうか。
そう思えば大輔は、神流をビッと鋭く指差す。
「おまえ、おれさま……」
「待て待てストップ」
「何だよ」
人を指した指をやんわりと地面に向けさせつつ、彼を押しとどめる。
当然のように大輔は、むすっとした顔をこちらに向けてくる。
「いや、その言い方だとたぶん、お前がまるっと食われるパターンになる」
「え?」
キョトンとした顔のままで、何かを考え込む大輔。
彼の脳内では木魚の音が鳴っているのだろうか。
「あ」
察したらしい。
良かった、良かった。
元ネタはよくわからないが、恐らくそれは『オレサマ・オマエ』で始めるのが正解のはずだ。
「ま、まぁともかくだ。ちょっと行燈の方に来て欲しいんだよ」
「おっけー、すぐ行く」
「メシは?」
「こっちはもう食べた」
「おしっ、話は早い」
休日に出るゴミは自宅への持ち帰りが原則なので、パンのゴミはゴミ箱では無くカバンの中へ。
わかりやすいところ、見えるところに挟んでおくのが常だ。
そうしないでもし出すのを忘れてしまった日には――想像もしたくない。
「んじゃあ、ちょっと瑞希を借りていくので」
「レンタル料は一分千円ね」
「高っか! っていうか、オマエに払うんかーい!」
謎のポーズ――以前面白動画で見た、オーバーアクションで誘導する駐車場の係員のような動き――でツッコミをして一通り満足した様子の大輔に連れられて、一旦部活からは離脱することになった。
次はご無沙汰してた恋愛気味なシーンになります。




