2-3-A. いつも通り、騒々しい奴ら
「よお、海江田」
「ん?」
土曜日の部活も折り返し地点。
空き教室にて、昼のパンをさっさと食べ終わったところに話しかけてきたのは佐々岡慎也だった。
すぐそこのスーパーの袋をぶら下げているところを見れば、今からランチタイムというところか。
ちらっと見えたのはオムライスらしきものがプラスチック製のプレートに収まっていた。
佐々岡くんらしいチョイスだ。
そこの惣菜コーナーで売られている、デミグラスソースのオムライスは彼のお気に入りだ。
「私には何もないわけ~?」
「……」
一瞥はするようだ。
「でさぁ、海江田」
「っ!」
「痛いぃ! 武力行使反対!」
椅子に座ったまま繰り出したとは思えないくらいの衝撃音が聞こえて、その直後佐々岡くんが脆くも崩れ落ちた。
向こう脛に神流の蹴りが炸裂したらしい。
あれは痛い。
間違いなく本気蹴りだった。
まったくもって、手や足が優先的に出てくるタイプの女子が、ボクらの周囲には多すぎる気がする。
「挨拶はジョーシキでしょ?」
「やれやれ。とんだご挨拶だよ、まったく……」
佐々岡くんは膝に付いた埃をキザったらしくはたき落としつつ、まるで台本でもあるのかと思ってしまうくらいにわざとらしい物言いを重ねた。
「え。一応ウマいこと言ったつもりだったんだけど」
「知ってるけどね、そこは敢えてね」
「外しの美学とか、今は要らない……!」
佐々岡くんは唇を噛みながら涙を呑んだ。
「で? 何の用だって?」
「あっさりと話を元に戻しおって、お前も……」
「あれ? 蒸し返した方が良かった?」
「……いや、何でもないデス」
痛そうな素振りはしていたけれど、買ったばかりのオムライスが入った袋をしっかりと手近なところにある机に置いてから崩れ落ちていた。
やはり事前の打ち合わせか台本があったのではないか、なんて邪推してしまっても仕方が無いと思う。
佐々岡くんと神流ならそれくらいの寸劇はしてくることがあるから、油断はできない。
「ほら。さっさと本題言いなさい、ってば」
お前が余計な蹴りを入れるから――などと佐々岡くんの口だけが動いたのはボクは見逃さなかった。
神流からは見えないようにしていたし声にも出さなかったので、その点は褒めてあげよう。
「楽器の教則本のことなんだけどな」
「へえ」
どの路線の話で来るかと思えば、意外にも楽器系・部活系の話だった。
てっきり月雁祭の話だろうと思っていた。
もしかしたらテストかとも思ったが――これはさすがは無い。
思い返せば定期テストの後や模試の後に、彼とテストを振り返るような話なんてしたことがなかった。
「珍しくない? そういう話をしてくるのって」
「だよねえ。同じ担当で話してるだけじゃ不満だと?」
「そういうわけじゃないんだけどさ」
ちなみに佐々岡くんの担当はトロンボーン。
ボクはオーボエで、神流はクラリネットだ。
「学校の備品でもダメ?」
「なんつーかそういうストレートなヤツじゃなくて、ちょっと変わったのが欲しいっていうかさ。読み物としても面白そうなモノって無いかなぁ、と」
「ははぁ……」
楽譜と組み合わせになっている教則本は、使い込まれてボロボロになりつつあるけれど一応学校の備品の中にある。
「そういうモノを探すときの海江田の行きつけってあるのかなぁ、と思ってさ」
んー、と言いつつ思考を巡らせる。
こういうときは思考停止かもしれないが、楽器店でも書店でも『大きなところ』がベストチョイスになる。
小さな楽器店で話を聞くという選択肢も無いわけでは無いが、いわゆる吹奏楽部員向けの教科書チックなモノからいろいろなジャンルの吹き方が紹介されているモノまで、彼自身が見て探せる方がいいだろう。
「まぁ、それなら……ん?」
話に嘴を挟んでくるような、ドタドタやたらとうるさい足音が聞こえてきた。
何となく嫌な予感がして、一瞬だけ言葉を切った。
「ミズキっ!」
「ぅわっ!?」
――ガンッ!
「いっってええ!!」
がらりと大きな音を立ててドアが開けられた。
それと同時に佐々岡くんが机に手をぶつけ、悲鳴を上げた。
その勢いで机上のオムライスも跳ねたが、大惨事は免れたようだ。
危ない、これが机の下に真っ逆さまになったら目も当てられない。
こういうときは法則上、天地がひっくり返って地面に落下するように出来ているのだ。
「大輔じゃん。どした?」
扉が開いてそこに立っていたのは、ほんの少しだけ息を切らした小野塚大輔だった。
そして増える、うるせえやつら。




