2-2-B. 褒美
「おつかれ、すみれ」
ひとまず労いの言葉をかける。
「……あ、今のもう一回」
一瞬だけ惚とした顔をしたすみれは、わざとらしく我に返るような素振りを見せながら後ろを向いてから、そう返してきた。
――うん、ちょっとよくわからない。
「……おつかれ、すみれ」
「うん。ありがと」
――ポポっ。
「ん?」
「いやぁ、これはこれからの部活が捗るなー」
「待て。ちょっと待って。今、何した?」
嫌な予感しかしない。
でも火中の栗を拾うようなことも時には必要だと思う。
その不安の正体が何なのか知るということが大事になったりすることも、生きている限り間違いなく存在する。
「え? 録音?」
「うん、まぁ……、知ってたけどね」
後ろ向いたときにスマホのバックライトが見えたからもしやとは思ったけど、まさか本当にそれをしていたとは思わなかった。
「だいじょぶだって。せっかく名前入りで言ってくれたんだし、私の個人的使用にとどめるから」
「そうしてくれないと困るけどね」
「……いや、そこは『消せ』って言った方が良いんじゃね?」
たしかに大輔の言うとおりではあるけれど。
「すみれのことだし、悪用はしないだろーな、と」
「ほらほら。もー寛大な御心、さすがミズキくんは話がわかるぅ。……わかったか、チビスケ。君の矮小な身体に収まってる程度のハートじゃ理解は出来ないと思うけれどね」
「……ッチ」
舌打ちをこれ見よがしにする大輔。
結局のところ、ふたりの認識はどちらも間違っているわけで。
確かに身も蓋もない言い方をすれば、軽く諦めているという話。
だけど実際問題、花村すみれという娘は度が過ぎたことはしないのは分かっている。
たしかに、まさか録音されるとは思っていなかったけれど、それをおかしなことに使うタイプだとは思っていない。
本人の言うとおり、『個人的な使用のため』だろう。
信頼ができると一言で言うのとは何か違う気もするが、案外そういうことだった。
「でも、すごいねー。結構進んでるんじゃないの?」
「うん。今日の予定だった部分は全部出来上がってるし、何なら土日で誰かがやらないといけないヤツも出来上がってる」
「マジで!」
すみれは目をキラキラとさせて喜んでいる。
本当に感情表現がストレートな娘だ。
最初にこの人を見たときはイイトコのお嬢さんなのかと思ったくらいだったが、今となっては『どうしてあの時そんなことを思ったんだ、お前は』と当時の自分をハリセンか何かを使ってひっぱたいてやりたいくらいだった。
こんなに取っ付きやすいタイプだとは、本当に思っていなかった。
「ではでは! そんなみんなのためにようやく届いたコレを進呈します!」
どんどんぱふぱふー、などとひとりで囃し立てながら、いつの間にか背後に置いてあった大きな袋をどんっと目の前に出してきた。
「作業用のツナギでーすっ!」
「おおっ! やっと来たのか!」
「そう! お待たせしましたー! ってことで、今居る人たちには今配っちゃうね!」
クラスTシャツに続く二年三組オリジナルクローズの第二弾は、作業用のツナギだった。
行燈作成はもちろん、他の作業も汚れるような過程は多い。
こういったツナギが必需品だということは先輩たちから脈々と受け継がれる知識のひとつだった。
胸元にはこじゃれたデザインのロゴがあしらわれている。
クラスTシャツをデザインしてくれた美術部員の斎藤さんが描いてくれたモノだ。
今回も喜んで描いてくれた彼女には頭が下がる。
「おおお! かっけー!!」
「やばっ! 去年のと比べちゃいけないレベルだわ!」
「さすがすぎる!」
もう片付けをし終わらないといけない時間だというのに、何人かは既に袋からツナギを取り出して試着なんかしている。
学校祭マジックの一種なのかもしれない。
「まだ作業してる奴らは早くしないと減点だぞ! 早く帰れー!」
「わ、やば!」
生徒指導の先生が拡声器を使って最終警告にやってきた。
これ以上油を売っていると本格的に減点対象になってしまう。
ボクも試着してみたかったがその気持ちをグッと堪えて片付けの手伝いをすることにした。
――ひとまず、明日の部活の合間に顔を出すときにでも着てみようと思った。
ツナギだったり、生声アラームだったり。
ごほうびいろいろ。




