1-X-A. ため息も束の間
「はい、終わりだぞー。ペン置けよー」
試験官役の野田先生の合図、そして校舎に響き渡るチャイム。
長かったテスト週間が終わりを告げる合図でもある。
各科目の時間が終わる度にカラダをほぐしたり、いろいろなうめき声のようなモノが聞こえてくるけれど、最後の科目となればその声や動きは一段と大きくなる。
あたしも机に突っ伏すようにして、こっそりと背筋を伸ばした。
「今更『名前書いてない』なんて言うなよー?」
「せんせー、名前書き忘れましたー」
「ウソだろ?」
「ウソですー」
「やかましわ」
小野塚くんがいつものように野田先生に冗談を言って、野田先生も一瞬だけ乗るけれど最終的には軽くあしらう。
去年も彼とは同じクラスだったけれど、そのときも野田先生に同じことをしていた。
「小野塚はいい加減新ネタを取り入れないとダメだな」
「先生、ひどい!」
「芸人ならいつでもアンテナ張ってないとダメだぞー」
「……あれ? いつの間にそういう扱いに?」
「あと、大輔は自分の横にもセンサー的なモノをつけてくれ」
先生との軽い掛け合いに加わったのは、彼の後ろの席のみずきくんだった。
みずきくんは左腕を伸ばして、何とか小野塚くんの視界にまとめた答案用紙を入れようとしていた。
「ん?」
「とりあえず、いい加減、後ろの答案を、受け取ってくれ」
「わ、悪ぃ……」
そんなふたりの様子にもう一度、今度は小さく笑いが起きた。
みずきくんが不機嫌っぽさを装っているのは口調でわかる。
ただ、小野塚くんが答案を取ったあとで、彼の頭を軽く叩いたのを見ると、セリフ通りに『いい加減にしてくれ』とは思っていたのかもしれない。
「聖歌ちゃーん」
「あ、はーい」
あたしのところにも解答用紙が回ってきた。
自分のものを重ねてそのまま前に送る。
これで本当に中間考査はおしまい。
そう思うと小さいけれどため息が溢れ出た。
「せーかちゃん、お疲れモード?」
あたしの前の席に座る松下早希ちゃんがくるりと振り向きながら訊いてきた。
小さいと思っていたため息は、それくらいの距離なら充分聞こえるレベルだったらしい。
ちょっと恥ずかしい。
「……っていう早希ちゃんは、もっと疲れてそうだけど」
「あー……ね」
まったりと同意を求められてしまう。
「ね。理系科目をちょっと重点的にやったからそっちはいいんだけど……。何か、落としちゃいけなさそうな部分を落としたような気しかしなくてぇ」
「そうなの? でも、早希ちゃんなら」
「やー、あんまり期待できないかも」
そんなことを言う彼女だけれど、元々地歴系の科目は得意らしいので彼女が言うほどひどい点数にはならないとは思ってみる。
「私も次は……」
「おつかれ、おつかれぃ!」
早希ちゃんが次回への意気込みを語ろうとしたところで、颯爽と現れた花村すみれちゃんに軽くハグをされて中断。
何故かあたしもその流れでハグされた。
「アッコー! おつかれー!」
「ああもう、苦しいってばぁ」
すみれちゃんはそのままの勢いで、あたしの隣の列にいる仲條亜紀子ちゃんを思いっきり抱きしめた。
何だか『ぎゅうううううっ!』みたいな擬音が亜紀子ちゃんの傍に浮いているような感じがするくらいに、熱烈なハグだった。
硬式テニス部ではダブルスのペアを組んでいるという話だけれど、普段試合で勝ったときなんかもこんな感じなのか、なんて思ったりする。
亜紀子ちゃんが苦しそうな声を上げるのも無理は無さそうだった。
「すみれ、テンション高いね」
一頻りパートナーを抱きしめて満足したすみれちゃんに開放された亜紀子ちゃんは、セミロングの髪を手櫛で直しながら訊いた。
「そりゃもー!」
「いい線イケそうなの?」
「バッチリな箇所があった!」
自信満々に胸を張るすみれちゃん。
「……珍しい」
「あ、それ失礼だかんね!」
「じょーだんだってば」
「あとでお礼に行かないとー」
そう言いながらすみれちゃんは廊下側――男子たちの列の方を見た。
聖歌パート、もうひとつ続いて第1部終幕です。




